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2021年05月23日21:32

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119 詩・短編を書いてみた(第1957回)

119-12「片羽がない天使」
【あらすじ】
ある日。
僕が魔王城の庭の周りを散歩していると
白くて綺麗な羽が落ちていた。

僕はそれを手に取り
一体どこから…?と思いながら
空を見上げる。
すると
僕に向かって
ゆっくりと落ちてくる人がいた。

僕は慌てて手を広げ
抱きしめるようにその人を捕まえた。

捕まえて僕は驚いた。
女性の身体をしている彼女は
羽毛と同じくらいの体重しかなく
そして
背中に翼が生えているのだが
その翼が片方だけ
千切れたように無くなっていたのである。

――――――――

(この子は一体…)

その時
彼女が苦悶の表情を浮かべる。

僕は慌ててミカエルさんを呼び
ミカエルさんの指示で
彼女は医務室へ運ばれていった。

治療と検査を受けること数時間。
検査の結果
翼以外の問題はないらしい。
それを聞いて僕は良かった安堵したのだが
ミカエルさんはこうも言った。
彼女は「天使」だと…。

僕は衝撃だった。
世界が違うとはいえ
天使という存在が
本当にいるとは思わなかったから。

僕はミカエルさんに彼女の看病を願い出た。
それは責任感と興味から。

ミカエルさんは
お世話係のミユさんと一緒を条件に許可してくれた。

数日後。
看病のお陰か
彼女が目を覚ました。
ミユさんは用事で部屋を出ていってので
僕はドキドキしながら彼女に声をかけた。

『こ、こんにちは…。気分はどう?』

彼女は顔をゆっくりと僕に向ける。

『アナタは…誰…?』

僕は自分の自己紹介と
ここが魔王城の中と伝えた。
すると彼女の目に力が宿る。

『ということは、アナタは魔族…ではないわね。どこから来たの?』
『どこ、から…』

どのようにったらいいか迷う。
その時
ミユさんが帰ってきた。

『お目覚めになられたのですね』
『アナタ、誰?』
『私はこの屋敷のメイドをしている「ミユ」と申します』

彼女はミユさんを見た後
僕を見る。

『そういうこと…。まぁ、いいわ。ミユ、状況を説明して』

彼女の態度にミユさんの表情が少し変わる。

『その前に、あなた様の素性を聞かせてもらえませんか?』
『はぁ?。私が魔族に話すことはないわ』
『アナタを知らなければ、今後の対策が作れません』
『そんなの言わなくても作れるでしょ?』
『……』

ミユさんが黙る。
そして――

『王子。申し訳ありませんが、少し部屋を出ていってもらえますか?』

ミユさんの表情は変わっていないが
僕は心の奥を突かれるような恐怖を感じ
すぐに部屋から出た。
すると
その部屋から――

『アナタしているの?』

天使の声だ…。

『ちょっと。近づかないでよ…』
『……』
『近づかないでと言っているでしょ!』

少し沈黙があって――

『イヤァーーーー!!』

彼女の悲鳴が響いた。

この部屋で何が行われているのか。
今の僕には知る勇気はないが
分かったことは
ミユさんを怒らせると怖い。

(ミユさんの言うことは聞いておこう…)

その悲鳴が止み少しすると
その部屋の扉が開いた。
出てきたのはミユさんだ。

ミユさんに促され
部屋の中へ入ると。
体育座りをしながら小刻みに震えている彼女がいた。

(何があったかは聞かないでおこう…)

僕は彼女に近づき――

『大丈夫?』
『アンタ、よくあんなのと一緒にいるわね』
『普段は、優しい人なんだけどね…』
『…そう。でも気をつけた方がいいわよ』
『そうするよ…』

少し間があって。

『ま、いいか。敵意は感じないし』

そう言うと
彼女は自分の事を話し始めた。

彼女の名前は「ライヤ」
見ての通り天使であり
魔族に対して強い敵対心を持っている。
『それから?』
『後は覚えていないわ』
『覚えていない…?』

多分
嘘ではないのだろう。
それをミユさんが許さないだろうし…。

彼女がどこから来たのか…。
どうしてこうなったのか…。
なぜ片方の翼が無いのか…。

ほとんどの事が分からない。

これでは体調が戻っても
良い方向に進むことはないだろう。

どうしたら…。

その時
ミカエルさんが部屋に入ってきた。
どうやら
魔王様がライヤさんを連れてくるようにという
指示があったという。

僕らは魔王様のもとへ向かった…。


『魔王様、お連れしました』
『ご苦労』

ライヤさんが魔王様の前に立つ。

『ライヤよ――』
『気安く呼ばないで』
『……威勢がいいな』
『当然でしょ。私達は敵対同士なんだから』
『そうだな。魔族と天族は元よりそんな関係だ。ただ、状況を考えて発言するがいい。ここは魔王城だ』

魔王様がライヤさんの目を見る。

『……脅すつもり?』
『脅すつもりはない。だが、礼儀というものは、そちらの世界にもあるだろう?』
『……』

ライヤさんが黙る。
そして
2つ間を開けて――

『そうね。アナタの言う通りだわ』

ライヤさんは姿勢を正し
真っ直ぐに魔王様を見直す。
そして――

『魔王。私達の関係性があったとはいえ、今までのご無礼、お許しください。』
『よかろう。非礼を許す』
『ありがとうございます。それで、私を呼んだ理由は何なのよ?』
『…此度の事、ミカエルから聞いた。記憶を失っておるとか。ならば、我が城でメイドとして働いてみる気はないか?』
『はぁ!?。何で私が魔族に遣えないといけないのよ!』
『嫌か?』
『嫌よ』
『そうか…。ちなみにだが、ここは魔王城だ』
『だから何よ…?』
『煮るも焼くも私の意思1つ、ということだ』
『…私にだって、譲れないプライドと言うものがあるのよ』
『そうか。ではミユ、この者の対処を』
『はい』

ミユさんがライヤさんに向かって歩き出す。

『え、ちょ、ちょっと待って…!?』

凄く動揺するライヤさん。

『わ、分かったわよ!!。言われた通りにやるわよ!』
『本当か?』
『本当よ!。だから、アイツを私に近づけないで!』
『よかろう。ミユ』

ミユさんは元の場所へ戻った。

『魔王…様も趣味が悪いわね』

『なに、面白そうな事があれば、私だって羽目をはずすさ。ではミユ、準備を』
『かしこまりました』

ミユさんは再びライヤさんに近づき
嫌がる彼女を抱え
部屋を出ていった。

それを見送ったミカエルさんが魔王様に尋ねた。

『魔王様。何故、あの者を…?。匿うメリットがあると思えませんが…』
『面白そうなのは本当だ。ただ、奴は「人質」でもある』
『人質…』
『奴がこの魔界まで来たのは、天界で何かがあったのだろう。ならば、用心しておくぐらいはしないとな…』


その話の後
ミカエルからは魔王様に近況報告を行い
僕達は魔王室から退出した。

自分の部屋に戻ると…
ライヤさんがミユさんと同じ服を着て
ミユさんと一緒に立って待っていた。

凄く悔しそうな顔で…。

『さ、ライヤ。王子が帰って来られたのです。お言葉を…』
『わ、分かっているわよ!』

ライヤさんは絞り出すように声を出す。

『お、お帰りなさいませご主人様…』

(か、可愛い…)

その気持ちが伝わったのか…。

『ウギャーー!!。なんで私がこんなことしないといけないのよ!!』

激昂するライヤさん。
その彼女にミユさんが冷静に言う。

『では、ここから出ていけば宜しいではないですか?』
『何ですって!?』
『我々はアナタを拘束はしていません。出ていこうと思えば、出ていけるはずです』
『な…』
『ここに残っているのは、アナタが自分の状況を理解されているからではありませんか?』
『……』

ライヤさんは何も言わなくなった。
反論が出来なくなったのだろう。

『アナタ、嫌われてるでしょ?』
『天使様よりはマシです』

互いに譲りたくはないみたい…。

火花が目に焼き付くくらいの対立を見せられ
これから上手くいくのだろうかと
僕は心配になるのだった…。


それからライヤさんとミユさんは度々
火花を散らすように言い合っては
ミユさんがそれを受け流す。
そして
ライヤさんはそのミユさんを勝つために
技術を身につけていった…。


そのような状態から数ヶ月。
何故かライヤさんは
優秀なメイドとして育ってしまった。

言葉遣いや仕草が変わり
それまでの彼女を知っている僕からすると
さすがに気持ち悪く思えてしまう。

僕は仕事中のライヤさんに聞いてみた。

『仕事どう?』
『素敵な方々ばかりで楽しいです』
『それは良かった。じゃあ、皆と仲良くなれたんだね?』

そう聞くと
ライヤさんは微笑みを浮かべたまま動きを止め
ゆっくりと僕に顔を向けた。

『ま、まだ…仲良くなれない…?』
『当たり前でしょ!。これは私の記憶と力が戻るまでの休戦。こんな屈辱的な事をしてアナタもただ済むとは思わないことね!』

『でしたら、考えを変えるまで教育をしなければいけませんね』

その声に驚いて振り向くと
ミユさんが立っていた。

『な、何でいるのよ…!。ここの担当は私のはずでしょ!』
『王子の危機を察するのもメイドの仕事です。それよりも――』

ミユさんがライヤさんに向かって動く。

『私、言いましたよね。王子に危害を加える様なことをすれば容赦はしないと…』

ライヤさんが僕を引き寄せる。

『ち、近づかないで…!。こ、コイツがどうなっても良いの!?』

しかし
ライヤさんは止まらない。

『ち、近づくなって言っているでしょ!?』

ライヤさんは無意識に魔力を放出。
それが風となりミユさんを吹き飛ばしてしまった。

予想外のことに
動揺するミユさんと僕。
しかし
一番動揺したのはライヤさんだった。
彼女は『違うの…』と繰り返しながら僕から離れる。
しかし
ミユさんは『この事はご報告しなければなりません…』と僕達に言うのだった。

後日
僕らは魔王様のいる王室にいた。
ライヤさんの今後の処遇について
言い渡されるという。

『では、始めよう』
ライヤさんは真っ直ぐ魔王様を見つめたまま
審議が進んでいく…。

そして
処遇が言い渡されるその時
ミユさんが口を開いた。

『魔王様、宜しいでしょうか?』
『発言を許可する』
『ありがとうございます。此度のライヤの件、不問にしては頂けないでしょうか?』
『ほう…。何故だ?』

ミユさんは
ライヤさんが自身のプライドと戦いながらも
必死に努力をしてきた事。
嫌々ながらも魔族と仲良くしようと
努力していた事などを魔王様に伝えた。

『なるほど。ライヤよ。申し開きはあるか?』
『無いわよ。そんな嘘に騙されず、早く処刑でもしなさいよ…』
『…ミユよ。それは事実か?』
『王に誓って』
『……良かろう。珍しくミユが申したのだ。此度の事は不問にしよう。しかし、二度目はない。これで良いか?。ミユよ』
『魔王様の寛大な心に感謝いたします』

ミユさんは頭を下げた。


王室を出ると
ライヤさんが詰め寄った。

『何であんなことしたのよ!。恩を売ったつもり?』
『心外です。そんな事で私が頭を下げるとでも?。私は切り捨てる時は切り捨てます』
『だったら何で…?』
『あの子達ですよ』

振り向くと
子供警備隊がライヤさんを見ていた。

『あの子達に頼まれたのです。「助けてあげて」と。アナタ、遊び相手になってたみたいですね。その優しさがアナタを救ったのですよ』
『あの子達…』

ライヤさんは子供達を見ながら優しい表情になる。

『後でお礼でも言っておきなさい』
『そうね…』
『それはそれとして、王子を危険な目に遭わせた罰は受けてもらいます』
『はぁ!?。それはもう魔王…様が許したはずでしょ!!?』
『それとこれとは違います。もう一度、教育しなおしてあげますから』
『いやぁーー!!』

ライヤさんは
ミユさんに襟元を捕まれながら
連れていかれてしまった。

どうやら
二人の関係性はまだまだ続きそうだ………。


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