昨日『ノマドランド』と『ミナリ』を、徒歩15分のミニシアターへ観に行きました。二本立てじゃないけど、事実上の二本立て状態。
キャパ1,000人未満のこまい映画館なので、緊急事態宣言の営業禁止には引っ掛からず。ところが。
カウンターで席選ぼうにも、最前列以外ほとんど空いてねえじゃん。
『ノマドランド』が高齢者向け（？）だからか、どこも映画小屋やってねえからみんな集まってきたのか。席は後ろから2-3個前のほぼセンター、「すんません、すんません」とか入り込んで観劇。
密。完全なる密。ドッキドキしながら観ました。
感想文は、まずノマドランド編。
ネバダのエンパイアなる小さな町。62歳のファーン（フランシス・マクドーマンド）は夫の墓を参り、ご近所さんに別れの挨拶をして町を離れる。1人キャンピングカーに乗って。
エンパイアは石膏工場で成り立っていた。それが潰れて皆職を失い、町は崩壊。夫は当該の職や町を愛していたが、彼の死を機に、ファーンはノマド生活に入ることにしたのだ。
まず向かったのは州内のデザート・ローズ。アマゾンの集配センターでバイトし、収入を得むと欲する。クリスマス期間中は短期バイトも大忙し。が、「（敷地内に）駐車できるのは木曜日まで。それ以降は月に375ドル没収な」。契約終わったバイト君を、いつまでもタダで駐められちゃかなわんというわけ。
ここでわかったことが2つ。まず車上生活は金銭的にも治安面でもデインジャラスということ。もう1つは、ファーン自身がひとところに留まるつもりはないということ。亡くなった夫は係累なく、かつエンパイアでの仕事を愛していたが、ファーンはよしんば夫がいなければ、ずっと前からこんな暮らしがしたかった。
アマゾンの集配所ではリンダ・メイ（本人）と仲良くなる。彼女の誘いをいったん断るもファーンは、アリゾナの砂漠で催されるRTR（ラバー・トランプ・ランデブー。バンで暮らす人たち相互の交友や情報・物物交換の会）の集まりに参加する。
主催者は演説す。「もし社会が我々を野に放り出すなら、放り出された者どうしで助け合うしかない」。
爾後サウスダゴタで掃除婦、ハンバーガー屋、石屋（？）・・・ファーンは広大な大陸を車で転々しつつ働き、人と出会い、そして見送る。
これはしかし、ロードムービーのようで、そうではない。また、ジェシカ・ブルーダーの原作『ノマド : 漂流する高齢労働者たち』（春秋社）に示された、クソ独占資本 ー アマゾン集配センターの過酷な労働 ー や弱肉強食の新自由主義社会を告発せむとするものでもない。
先日俺は�牾�拓の伝統�爐伐樟發鯲�てた。
『開拓の風景（予告編的な）』
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1979233341&owner_id=988396
が、実際に観て思ったのは
「これって風景じゃね？」
といふこと。※後ろ二文字だけ当たってました。
荒野に沈む夕陽、地平線。霧けぶる峠道、赤いテールランプ。砂漠の岩山、穿たれた穴の周りを跳びまわるコウモリ。夜の駐車場を1人歩きながら線香花火で新年を祝う主人公・・・
ファーンの顛末もリンダ・リーやデイヴ（デヴィッド・ストラザーン）、或いはスワンキー（本人。ガチのノマド）との邂逅も、これ全て、風景。
怒りも哀しみも、そして不安も、本作ではさらりと描かれている。俺がこう感じたのには、そんな作りもあるだろう。
リーマンショックで家を失ったのか、自身の志向からか。ノマド化した事情は様々あれど、特別な人たち・特別な生き方とは思えない。そんなあれこれを含めて風景。
俺が（クリスチャンのくせに）ニヒリスティックだからか。自称日本浪漫派ゆえだろうか。
和歌や俳句を見ても、人は歌うことで自然と一体化してきた。ジャック・ケルアック『路上』もある意味そうだが、この東洋的な感性は、『ノマドランド』を撮ったのがクロエ・ジャオといふ中国出身の監督だからかも知れない。
https://youtu.be/89a0cFJypww
問題はあるし、それは正されなければならない。それでもなお、この世はあるようにある。
そしてこの世は美しい。じゃあノマドランドがアカデミー賞かと言われれば、うーん、この。
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