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2021年04月02日23:45

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本格派俳優による最高の喜劇演技/追悼・田中邦衛さん

■田中邦衛さん死去88歳 「北の国から」「若大将」出演
(日刊スポーツ - 2021年04月02日 18:11)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=8&from=diary&id=6470257

■吉岡秀隆さん、中嶋朋子さんが談話=「北の国から」の純、蛍役―田中邦衛さん死去
(時事通信社 - 04月02日 22:30)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=4&from=diary&id=6470617

■中江有里、田中邦衛さんとの共演は「私の人生の宝」
(日刊スポーツ - 2021年04月02日 19:14)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=8&from=diary&id=6470367

■山田洋次監督「素敵な人だった」田中邦衛さん悼む
(時事通信社 - 2021年04月02日 22:00)
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■若大将加山雄三「寂しいよ」青大将田中邦衛さん悼む
(日刊スポーツ - 2021年04月02日 19:26)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=8&from=diary&id=6470386

 田中邦衛の名前をいつ頃から知ったのか、もはや定かではない。
 気がついたら、いつの間にか知っていた、というところだが、おそらく最初に観た作品は、やはり『若大将』シリーズのどれかだろう。映画館まで足を運んだ記憶はないから、TVで放送されたものを見たのだと思う。
 例によって例のごとく、青大将の田中さんが、「すみちゃん!」と言いながら星由里子に迫るシーンを鮮明に覚えている。今見返せばこれはルーティーンのギャグで、別に過激とも言い難いのだが、何しろ観たのはおそらく小学校の一年生か二年生くらいのことである。何ていやらしいあんちゃんなんだ、という強い印象が子ども心に刷り込まれることになった。話の面白さよりも、不快感の方が先に立っていたのである。

 それがまた、いつの間にか「その人目当てで作品を観る」俳優の一人になっていてたのだから、第一印象くらいアテにならないものもない。下卑た演技だって、もちろん「巧い」役者だからできるのである。田中さんへの認識が、どうしてガラリと変わったかというと――みなさん、『北の国から』を観てからか、とお思いになるでしょうがさにあらず。一発で「この人いいわ!」と思ったのは、『ルパン三世 念力珍作戦』である。そう、あの『トリビアの泉』でも紹介されたことのある、ルパン三世初の実写映画化作品で、田中さんは何と次元大介を演じていたのだった。
 アニメで定着した「クールなガンマン」「ルパン三世の頼りになる相棒」というイメージは、この次元にはあまり感じられない。三世の段階ですっかり落ちぶれた「ルパン帝国」を何とか再興させようと、ルパンをけしかける「幼馴染み」。その割りに結構ドジで、ルパンの足を引っ張ることも多いから、アニメから入ったファンは、「こんなの次元じゃねえ!」と腹を立てることになる。
 けれども、原作初期の次元って、実はこの「実写版ルパン三世」の設定に近かったのだ。大事なことは、こういう「しょーもない役」にも、田中さんは決して手を抜かずに自分の求められる役割を果たしてきていたという事実である。何かと「笑い」のタネにされてしまう「実写版ルパン三世」、田中さんの出演作を懐かしむ声の中で、これを挙げている人は殆どいないが、私はこれも代表作の一つだと信じて疑わない。
 この「好き勝手やらかす主人公を何とか支えようとして騒動に巻き込まれる相棒」の極北として、『金田一耕助の冒険』の等々力警部役も生まれる。次元と等々力警部と、この二役が、私の推すベスト・アクト・オブ・田中邦衛だ。

 演技の幅が広い役者さんだったから、他にももっと田中邦衛らしい役はあったんじゃないか、という声もあるだろうことは承知している。『網走番外地』『仁義なき戦い』等のシリーズや、岡本喜八作品、山田洋次作品、野村芳太郎作品での名演の数々を忘れているわけではない。
 けれども、どうしても田中さんの「三の線」の味わい深さ、これに惹かれるがゆえに、「イロモノ」的な役の方に目が向いてしまうのだ。
 黒澤明監督『どですかでん』で、酔っ払って女房を取っ替えたのにも気がつかずに何となく受け入れてしまう間抜けなオヤジを演じて、嫌みを感じさせないというのは田中さんならでは。
 『岡っ引きどぶ』シリーズでは、樹木希林との夫婦(じゃないけど)漫才が楽しく、「田中邦衛らしさ」とは、この「掛け合いの間」なのだな、と感じさせた。元々喜劇役者としての演技経験があったわけではない、舞台役者であった田中さんが、こうした「間の良さ」を身につけたのは、すべて実際の出演作を通して学んでいったものなのだろう。本格的な俳優による喜劇演技、後続の俳優にとっても田中さんの演技は大いに参考になったことだと思う。
 それが「芸術」の域にまで達したのは、『浮世絵 女ねずみ小僧』シリーズだろうと思っている。小川真由美の「尻に敷かれて」、ぶつくさと愚痴と文句を吐きながらも、盗みのサポートに徹する眼差しの鋭さ、一瞬の豹変に、この人はここまでの演技が出来る人なんだと舌を巻いた。こうした「女性上位」のドラマで特に田中さんは輝いて見えていた。

 赤川次郎が、自身の映像化作品の中で、絶賛した作品が2作だけある。
 1作は大林宣彦監督の『ふたり』で、もう1作が田中さんと浅茅陽子が主演して、岡本喜八が監督した『幽霊列車』だ。これまた若い女子大生に翻弄されて、事件解決よりも自身の「下心」に忠実になってしまうちょいダメ中年刑事を演じていた。こういうモテと非モテが半々な中途半端な男を演じさせたら、田中さんは実にピッタリはまるのであった。
 
 見返したい作品を挙げていったらキリがない。観てほしい映画も、いくらでもある。やっぱり黒澤明の『悪い奴ほどよく眠る』での台詞のない殺し屋役などは本当に恐ろしくて――田中さんの三の線ばかり紹介してしまったので、超シリアス演技でこれだけの恐怖感を出せる人でもあったのだということを、最後に付け加えておこうと思う。

 合掌。





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