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2021年03月14日12:32

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109 詩・短編を書いてみた(第1945回)

「宵の先に」
【あらすじ】
セミの鳴き声が鼓膜を揺らす夏。
結婚を約束した彼氏にフラれ
「久し振り」と言えるくらい酒でベロベロに酔ってしまった。
自我を失い
朝日に刺激を受けて気がつくと
そこはもうすぐ廃村になる故郷だった。

何故、私はここに帰って来たのだろう…。
――――

さて…
電車もまだ来ないし、これからどこへ行こうか…。

駅を出て
気の向くままに歩いていると…。

見えてきたのは昔
通った小学校。

『懐かしい〜。意外と小さかったのね』
私は誰もいない事を確認して
グラウンドを通り校舎の中へと入る。
校舎は人の気配はなく
草が生い茂り
まるで
所有者が変わったことを教えられているようだった。

校舎を一通り見終わった後
私は自分の通っていたクラスへ足を踏み入れた。
その教室には
長い時間にも負けずに残った机が数席と黒板があり
そして
この教室も自然に覆われていた。

私は記憶と黒板の位置から
自分の席の場所に視線を向ける。
すると
そこにも机が残っていた

『残っているなんて、凄いなぁ』

私は少し胸が高鳴る。
その机に慎重に近づいて
板の裏を見てみると
そこには
かすれていたが
マジックで書かれた男の子の名前が残っていた。

それは私が好きだった人の名前。
結局
あの時は怖くて
告白は出来なかったけど
今は何をしているだろうか…。

私は自分の手で擦り
その名前を消した。

もう思い出す必要はないのだから…。

上半身を起こし
ふと窓から外を見ると
そこから水の濁ったプールが見えた。

懐かしい…。

私はプールへ移動する。
そのプールの小ささに少し驚いた。
大人が入るには少し無理があるし
落ちていた木の棒で底を測ってみたけど
深くはないみたい。

『子供の頃って、色んな物が大きく見えていたのね』

自分の成長に感謝しながら
私は靴と靴下を脱ぎ
飛び込み台に腰をかける。
そして
私はピチャピチャと足で水面を軽く叩き
水の感触を確かめた。
プールの水は
少しヌメっとしていて気持ち悪かった。
でも
その気持ち悪さのおかげか
子供の頃に行なった
プール掃除の事を思い出せた…。

あの時は確か
掃除する2人をクジで決めていた。
私は嫌だったけど
くじ運が悪くて選ばれて。
でも
もう1人は誰かと思っていたら
私が好きだった男の子が選ばれた。
その時の私は
両手を組んで神様に感謝していたのを覚えている。

そして放課後。
私はその男の子と先生で掃除を始めて
その合間にその男の子と仲良くなろうと沢山の話をした。
最初は互いに緊張していて
たどたどしい会話だったけど。
次第に打ち解けて
優しい彼の一面も見れて
本当に楽しかった。

でも
私が父の都合で転校することになって
別れる日に彼に想いを伝えたのだけど
結局フラれちゃったのよね。

『今も元気にしているかな…?』

そう少し太陽が傾いた空を見上げた時だった。

『そこで何をしているのですか?』

振り返ると
そこには男性いた。
明らかに不審者を見る目をしながら。


私は慌てて立ち上がり
事情を説明。
すると
普通なら不法侵入なのだが
その男性は優しい人で
私の事を見なかったことにしてくれた。

それから
私はその男性にこの村の事を教えてもらい
町を車で探索しながら時間を過ごし
気がつけばもう夕暮れ時。

電車に乗って帰らないと…。

すると
それを察してくれたのか
彼が駅まで送ってくれた

私は電車に乗り込み
車窓から手を振る彼を見る。

「サヨナラ。またね」という彼の振る手に
私は振り返すことをしなかった。
振り返してはいけないの。

もう私とあなたは
お互いに違う道を歩んでいるのだから…。

電車が動き出す。
片道切符を握りしめたまま……。


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