『冷泉家の800年』、どうやら消されたようです。1度観て感動し、感想文を書くにあたって次はメモを取りながら観ましょうと思っていたのが不可能に。
なので詳述出来なくなりました。まあいいけど。
以下、記憶を頼りに。
「和歌（やまとうた）は、人の心を種として、万の言の葉とぞなれりける。世の中にある人、事・業しげきものなれば、心に思ふ事を、見るもの聞くものにつけて、言ひいだせるなり。花に鳴く鶯、水に住むかはずの声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける」
「力をも入れずして天地（あめつち）を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、男女のなかをもやはらげ、猛き武士（もののふ）の心をもなぐさむるは、歌なり」
ー 古今和歌集 仮名序 ー
紀貫之が著したこの歌論。のちに定家が書写したものが現存する古今和歌集の底本で、それは冷泉家の御文庫にある。
定家の書跡は（もちろん達筆なのだが）すこぶるポップで、今でいう丸文字を彷彿させる。そして父ちゃん・俊成のも同様。
日本アニメの祖は江戸期の広重や何かだったりするのだが、至極深い内容に同道しながら、その筆が丸文字（ぽい）という。これが今の冷泉家のありようにも通じ、興趣をそそった。
冷泉家は俊成定家の血を引く歌の家。明治維新で天皇が東京に移り、したがってお公家さんがこぞって東京に移住するも、冷泉家だけは京都に残った。
それは御文庫があったから。大久保利通か誰か、明治の元勲に陳情して京都に残ることを許されたそうな。
御文庫は、今出川通烏丸東入ルの、同家の庭にある。俊成定家モノはもちろん、800年にわたる貴重な史料・資料がこの白壁の蔵「時雨亭文庫」に保管されている。
この御文庫には、当主以外何人たりとも入ってはならない。もし天皇が「入りたい」言うたら別かも知らんが、首相でも無理。
大晦日に、えーっと、何か由来のある木を逆さに飾り、元旦には白の衣冠束帯で正装した当主がご挨拶で入る。もちろん取材のカメラも立ち入れない。
※これは旧正月（中華圏的には春節）だったかもしれない。
現在の当主・為人氏（76歳）は、婿養子。元々加古川の人で、関学の院を出た文学博士。先代為任氏の娘・喜美子さんと結婚し、婿に入った。
大手前女子大や同志社女子大、立命などで教鞭を取った、もちろん学者である。
先代為任（ためとう）氏も婿養子。冷泉家はつまり女系であり、昨今話題の皇室問題、そこんとこ同家は忖度しない。臣下だからというより、そもそも日本はお上（天皇）も百姓も、男系だの女系だの全く気にしないのである。
そして喜美子さん。
方丈記の講演録を拝読したら、指摘がいちいち肯綮にあたりとても聡明な方と覚えたが、すこぶる明るい。
ころころ笑い、しかし ー こと和歌では ー ビシッと締める。俊成・定家の書の如く、ポップかつ荘重である。
貴族であり「歌の家」であるから、それを守り続けなければいけない。伝統に格式、ましてや維新の時、京都に残ったからには。
俺がまず思ったのは「これは並大抵じゃない」ということ。民主主義か何か知らんが、もはや公家は無く万民共通。自分らで勝手に食わなきゃならん。そこへ持ってきてあの今出川通沿いの広大な敷地に文化財の維持。
固定資産税だけでもかなりのものだが、少々国や自治体から補助が出るにせよ大変なご苦労である。
※冷泉家は財団を有するが、それでも。
※実際、終戦直後の食えなかった頃には家具調度を売っぱらって食い繋いだそうな。
番組では四季折々の、暦に従った催しも伝えていた。豆まき雛祭り、節句、御月見その他。今風ではなく古式に則ったこれらも全て、冷泉家であるがゆえ宿命づけられたもの。決して中断してはならない。
それでも現当主為人さんと喜美子さんご夫妻の明るさ朗らかさが、我が国の文化伝統、
「移りゆく自然や心を一瞬に留め、届ける�爐Δ伸燹�
を維持し伝える苦しみを、救っているように思った。
人の一生は短い。が、NHKアーカイブ『冷泉家の800年』を観ながら脳裏に浮かんできたのは、キース・リチャーズの言葉。
「俺の墓銘碑にはこう刻んでくれ。『受け継ぎ、そして繋いだ』と」
◆Rolling Stones ー No Expectations
https://youtu.be/URyqGD99Owg
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