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2020年12月31日00:37

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宝塚花組「はいからさんが通る」を見てきました

【感想】映像化は何度もされているのになあ。
ものすごく久しぶりの観劇になりましたが、何とか行って参りました。
原作漫画については、おそらく40年前くらいに読んでいますが、スピンオフ(という言葉は当時なかったけれど)の、編集長のその後とか、鬼島さんの子どもの頃の話の方が印象に残っております。

本題の宝塚での舞台について、触れたいと思います。

まず、長い原作を何とかまとめて2幕ものにしております。1幕目まではかなり上手く演出されていて、原作の中の忍と紅緒の気持ちが寄り添っていくエピソードを印象的に繋げています。その分、原作のごちゃごちゃした部分(そこが面白いのですが)は薄められていますが、全く無くなった訳ではないので、私は充分楽しく見られました。

 ですが、2幕目になるとだんだんほころびが出て来ます(私にはそう見えました)。というのは、原作だと、紅緒が職業婦人になるため悪戦苦闘していく様がしっかり出て来ていたと思うのです。でも、舞台だとすぐに編集長に採用を頼み込み、取材のためにミハイロフ侯爵(実は忍)と出会って、その後はミハイロフ侯爵の正体を突き止めるためにしか動いていないのです。確か原作では中国大陸まで渡っていた筈なんですよね…そのスケールの大きさが無くなったことで、紅緒が会えなくなった途端に急に忍に執着しているだけの女の子に見えてしまうのです。

 さらに、後半から出てくる編集長や鬼島という印象的なキャラクターが、自分の来歴を殆どの場合台詞で説明してしまうんですよね。ここは、もう少し説明台詞を減らして、会話から分かってくる、という感じにしてくれたらもっと格好良かったのになあ、と思いました。
 紅緒が反政府主義者の濡れ衣を着せられて投獄される部分も、かなり強引な展開です。まず、忍(なぜか軍服に着替えている)から詰め寄られた高屋敷が、「俺の口から反政府主義者たちを教えることはできない」と言った舌の根も乾かぬうちに「でも、彼らのたむろするカフェを教えよう」って…全然カッコよくないんですけど…。そして、そのカフェにたどり着いた忍は、全て因念中佐が忍を恨んで仕組んだ事だと知る(なぜなら因念中佐が勝手にそう説明するから)のです。しかも、反政府主義者たちと因念中佐が仲たがい(?)したことで、全ては丸く収まり、紅緒は釈放されるという、この部分がすごくご都合主義で、あまり説得力を感じませんでした。もう少し丁寧に出来事を繋げられなかったのかなぁと、残念でした。何が困るって、この展開では、忍の良さも、紅緒の良さも特に見せられないんです、問題解決に二人があまり関与していないので。もう少し、主人公たち(特に忍)のカッコいいシーンがあった方が楽しめたのにと思います。

ミハイロフ侯爵が実は忍だという事を知った編集長は、紅緒にプロポーズすることで忍を遠ざけようとしますが、結婚式当日に関東大震災が起こり、妻・ラリサの死を見届けた忍が紅緒の元に駆けつけて、二人はめでたく結ばれるのでした。このラストは一応原作通りなのですが、「忍がミハイロフ侯爵のふりをしている理由」を、忍→鬼島→編集長の流れで、あっさり教えてもらっているのも、面白みに欠ける展開だなあと思います。そんな重要な秘密、つるつる喋っていいのか?もう少し勿体ぶってほしかった!ということと、「ラリサはもうすぐ結核で死ぬ」という忍のセリフが、まるで彼女の死を待っているように見える(宝塚の忍は、あまりやつれた様子がないせいもあり)のが、頂けないな!と思いました。

 加えまして、見ていて一番疑問だったのは、「ミハイロフ侯爵の振りをしている忍が、ラリサと本当に夫婦のように見える」ということです。率直に記しますと、肉体関係がありそうに見えるのです。原作だと、そこはあくまでも「振り」をしているだけで、労りや思いやりで寄り添っているだけの関係に見えるのですが、宝塚だと、なんかこの二人、忍が記憶喪失だったからって普通の夫婦生活を送っているのじゃない?と見えてしまうのです。それなのに、ラリサが死ぬのを待つようにさっさと紅緒の元へ行ってしまうのでは忍の魅力が半減です。

 想像ですが、主演の柚香光さんの役作りが、その辺りを詰めずに「夫婦に見えるように、仲良さそうに!」という意識しかないために、本当に夜も夫婦みたいだぞという見え方になっているように思いました。

 宝塚の男役というのは、今回の忍のように記憶喪失等の要素が無くても、どこかファンタジックな存在だと思うのです。その自覚がなく、ある意味素直に演じてしまうと、今回のように結果的には主人公が二股男ということになってしまいます。原作も少女漫画としてのファンタジーがあるので、「忍とラリサは清らかな関係」ということが押し通せるのですが、宝塚の男役だからこそ、そこが不自然でなくできるはずなのに、何だか「男役」としての根幹が見えない舞台になってしまったように思いました。

 ただ、柚香光という人の明るいキャラクターと華やかな容姿は、「笑い上戸なドイツ人ハーフの美青年」という設定には合っていたと思います。微妙なデザインの日本軍の軍服も宝塚フィルターで若干カッコよくなっていて、よくお似合いでした。

 宝塚だと、原作のように紅緒主役でなく忍主役に書き換えられていますが、それでもずいぶんヒロインが活躍しています。紅緒役の優希華さんは善戦!という感じ、とても頑張っていました。原作の、眼が大きくて身体が細い、ツィッギーのようなタイプとは違いますが、かわいかったです。私が見た時は、紅緒さんが一度、ラリサに向かって「エリナさん(←忍の母の名前です)!」と呼び掛けており(エリナって誰だい…)と思いましたが、全体的には紅緒という明るく強い行動力のある女性を熱演されていたと思います。

 少なくても、過去に何度もされた映像化(特に映画)作品よりは数倍よく出来ていると思いますので、機会がありましたら是非ご覧ください。

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