18960819 NO4259 朝鮮の現況及び将来の傾向に付き上申
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駐韓日本公使館記録 9巻 三. 機密本省往 一•二 (42) 朝鮮の現況及び将来の傾向に付き上申
文書題目 (42) 朝鮮の現況及び将来の傾向に付き上申
文書番号 機密第 号
発信日 明治二十九年八月十九日 ( 1896年 08月 19日 )
発信者 特命全権公使 原敬
受信者 外務大臣 候爵 西園寺公望
(42) 朝鮮の現況及び将来の傾向に付き上申
機密第 号
概括的に朝鮮の現況を申し上げますと、官民一般は勿論、在留外国人に至るまて排日本の風潮がすこぶる盛んであり、自分（＊日本政府）の行為についてはその事が何であるのかを問わず皆反対を試みる状況であります。これは申すまでもなくこの一、二年来（＊1894年以来）の内政干渉（＊朝鮮王宮の支配・清国勢力を放逐）の反動と、昨年十月八日王妃殺害事件とに原因致しております。
また細かにこの状況を分析致しますと大略次の種類に帰着致します。
甲） 一、二年来（＊1894年以来）今年二月に至るまで、（＊日本の）内政干渉の情勢はあたかも他国（＊ロシア・イギリス・フランス）の権利・利益を顧慮しないかのような外観を呈したために、自国（＊ロシア・イギリス・フランス）あるいは自己の利益を減殺されそうな恐れがある。このために日本を嫌悪する念を懐く者。
乙） 日本は現在の状況を喜ばず、一方復讐的処置を為すことも困難であるので、一身の自衛のために他国に依頼しようとする者。
丙） 現政府の歓心を得て自己の利益を図るために日本をそしる者。
丁） 現政府に憎まれることを恐れて排日本を装う者。
右の内、
甲）は駐在外交官及び雇外国人にて、
乙）は現政府の要路に在る数人の官吏、
丙）は官途に熱心する者、
丁）は一般下民の情況に有之候
どんな手段ででもこの状況を挽回するのでなければ自己の生命・財産は日に日に危険な境遇に陥ると訴える。このような次第であるため何人といえども我慢できない感情を生じるのは無理からぬ次第と存じます。しかしながら本官はこの現場の感情によって国家の大計を誤ってはならないと存じますので、着任以来次の処置を取っております。
現政府に対しては多くの懸案があるのだがなるべく難問題の交渉を避け、また朝鮮官吏及び在留外国人に対しては勉めて親密を求め、内治の是非に関しては勿論、国王還宮の事すら朝鮮人もしくは外国人に対しこれを口にせず全く朝鮮現時の情況に対しては冷淡を極め無頓着を装い(日本新聞にも訳載致しました通り「独立新聞」主幹・徐載弼〈ソジェピル〉に対して「いずれの国の支援であっても朝鮮が開化に赴くことであるなら満足である」と談話致しましたのもこの主旨に外ならない)、また我が守備隊兵士・警察官は勿論一般官民に対しても勉めて外人の悪感情を起させないこと、及び朝鮮官民は勉めてこれを好遇すべきことを懇諭致したいのですが、ひそかに探聞致しましたところでは、本官赴任について朝鮮官民は殊の外危惧の念を懐き、種々の流言が行われる同時に頻りに警戒を加え、在留外人もまたあるいは多少疑訝（ギガ ＊疑い怪しむ）の念を生じたのではないかとの疑いがありますが、本官着任以来先述の通り全く反対の挙動であるので朝鮮官民はまだ全くは危懼の念を去ってはいなのだが、多少は案外の思いを持つようになっていることと存じます。
前述の通りなので引き続き私の方では無頓着・冷淡の方針を取っておりますので、在留外国人は勿論朝鮮当局者も多少安堵致すだろうと存じます。
そしてそれと同時に、他に刺激がないために内閣員の間には軋轢嫉妬の念が益々増長し、遂に彼等の間に分裂を釀（かも）すことになるであろうと存じます。今日においても内閣員に二派あって、一つは米国派とも開化派とも称すべき軍部大臣・李允用（イユニョン）、外部大臣・李完用（イワニョン）、内部大臣・朴定陽（パクチョンヤン）等の一派にして、他は守旧派とも称すべき度支大臣・沈相�癲淵轡爛汽鵐侫鵝法∨”�大臣・韓圭卨（ハンギュソル）等の一派であり、この二派はともにロシア国勢力の下に在ることは勿論でありますが、二派の間には随分軋轢の勢いが見えます。
こうしてこの守旧派中沈相�癲�韓圭卨は秘かにその腹心を使って本官に内通致しております。その口実はすこぶる綺麗なものではあるが、彼等の心術は悉く信用致しにくい状況です。とにかく今日においては内閣員中に一致を欠いていることは間違いありません。
閔泳駿（ミンヨンジュン）もまた近頃その腹心を使って秘かに本官に内通致しておりますので、同人は前内閣の時に厳刑にも処せられるべきところを我が公使の忠告によってその災いを免れることができたことを聞きこれを徳とし我（＊日本）に依頼する念を生じたとのことで、本官に内通する口実によれば、
「朝鮮目下の情況はこれを黙視することができないのでこの救済の策を講じなければならない。しかしながらさし向き国王を還宮させなければ何事も出来ないので、内には国王の寵臣及び寵妃に説得させ、外よりは金炳始（キムビョンシ）、趙秉世（チョビョンセ）、閔応植（ミン ウンシク）、閔泳達（ミンヨンダル）、金永寿(キム ヨンス)などに運動させており、特に還宮が成就した上は、陽にロシア国派を装って入閣し、陰に日本に結び朝鮮独立の鞏固を図りたい」
というのである。そしてその実際を見てもこの頃懲戒を免れているのもこのような内心で運動した結果だとの事なので全く無根ともいえないと考えます。
またこちらが全く無頓着・冷淡であるときは、ロシア国においてもそれほどは内政に干渉しない様子に見えますので日本・ロシア両国間には衝突の恐れはありません。そしてその結果は朝鮮内閣員の間に軋轢の度を高め、したがって一方においてはロシア国の助力が少ないため頼りにしにくいと感じ、一方においてこれまでの日本の助力を追懐してこの声援を求めたいとの念を起す者が韓廷内外に幾分かあると存じます。さりながら本官はこの政治があるいは動搖しようとするかのような時期に臨み最も慎重な方針を取るのでなければ予想できない危険があると存じます。のみならす陰険・詐謀は朝鮮人の得意とする所なので、あくまでも無頓着・冷淡を装いその内通者に対しても単にこれを聞き置くだけにして、一つの約言を与えることは言うまでも無く、その可否得失にも言及致しません。
前述の事情を綜合して将来を推測致しますと、果して守旧派あるいは閔泳駿のその計画を成就するかどうかに拘わらず、また果して彼らにおいて日本に依頼すると否とに拘わらず、早晩現在の情況が一変することはほとんど疑ないと存じます。そして新たに勢力を得る党派が守旧たると開化たるとは固より我が関する所ではないことは勿論ですが、とにかくその時期に際して多少の措置を試みますならば、総てを日本派でもって内閣を組織することは差し当たり望みなしとしても、事実上において禍が我に及ぶことなく、多少日本派を混ぜ入れた新内閣を見ることは全く望のないことではないと存じます。
そしてその時に至ったならば、我が国の権利・利益を伸張する機会もあるだろうと存じますので、それまでは実際そこに捨て置きにくい事柄の外は、無為政策を執ることが必要と存じます。もっともこの無為政策の結果こちらの予想に反するようなことがある場合は、さらにその時に及んでそれにふさわしい訓令を仰ぐことは申すまでもありません。
以上朝鮮の現況及び将来の傾向は帝国政府においても詳悉頂くようにいたしたく、また本官の処置については閣下の御承認を得ますよういたしたく、よってこの件上申に及びます。 敬具
明治二十九年(1896年)八月十九日
特命全権公使 原敬
外務大臣 候爵 西園寺公望 殿
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