18960929 NO4174 京釜鉄道に関する続報
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009_0020_0230 駐韓日本公使館記録 9巻 二. 京釜鉄道に関する書類 一・三 (23) 京釜鉄道に関する続報
文書題目 (23) 京釜鉄道に関する続報
文書番号 機密第七七号
発信日 明治二十九年九月二十九日 ( 1896年 09月 29日 )
発信者 公使 原 （＊原敬）
受信者 外務大臣 伯爵 大隅重信
(23) 京釜鉄道に関する続報
機密第七七号
本案に対する八月二十七日発の訓電の接到後ただちに朝鮮政府へ再び照会に及んだ経緯は、同三十日付「機密第六十四号」を以って具申致して置きましたが、本月一日外部大臣・李完用氏が来館致しましたので本官より、
「京釜鉄道は目下暴徒がうごめいているとしても予め着手期限を定めて置くことはあえて差支えはないとはいえ、今は貴政府の内情を察して一歩を譲って『暴徒鎮定の上時機を見計って起工しよう』と照会致して置いたので、最早貴政府においてはこの上御異見はないと思い、本案は提議以来一月余に及び発起者たちにおいても退屈致しております時期なので、速やかに契約締結の運びに処弁ありたい」
と申し出でましたところ、同官はこれに対して
「本案は実際我が政府において許可しないわけにはいかない筋のものであり、他にこれを拒否する理由を見出さない。ところがただ我が内閣大臣の多くはある感情に支配されて勝手に『京仁、京義間鉄道敷設後の結果を考慮してその後京釜線に議及してもなお遅くはない』との議論を提議したのだが、これはいわれのない理由で誰でも鉄道敷設の結果は良いものであろうと予言することを憚らないであろう。また当時貴公使の駁議されたようにその結果は漠然として際限のないもので、本案のような差し掛かった問題に対する弁解の理由とはならない。また京釜線路に使用する予定の土地を買い上げることは財政が困難な朝鮮政府が耐えられることではない。」
との議論も契約締結を拒む原因の一つとして持ち出したのだが、その上で本官は、
「これまでも京釜鉄道敷設に要する会社の資本金の上から論じるならわずかな金高であり何とか工夫ができない道理はないのである。最後において提議した点、すなわち暴徒云々の事由に関しては、これまで申し上げていたように『その鎮定を待って時機の宜しい時に当たって工事に着手する』とあればそれまでの事で、この契約を拒否する理由はない」
と述べたのだが、同官は
「これは内閣会議の結果ではないので今ここで断言することは難しい。」
旨を述べ、また
「今明日中閣議に付しなんらかの決定の意見を申し出るが、しかしながら『必ず好い結果を得ることができるだろう』とは十中八九分は認められず、ついては次回貴公使との面談においてどう返答致すべきか今より苦慮されるのだ」云々と。
本官はこれに対して、
「貴官が御了解の通り、本案は最早なんら拒否されるべき理由はないものであり、依然として強いてこの上に不理屈を言われる場合は、貴政府は我が政府の申し出は事の理非、曲直にかかわらず総て故意に出て口実を設けてこれを拒もうとされるのに等しいものであるから、我が政府は決してこれに満足しないであろう。もっとも貴官の御心得まで一言致したいことは、我が政府はなるべく事を穏和にまとめようとの良心に出ているのだが、貴政府はこれに反して自ら進んで事を難局に導こうとされるのであるから、他日本案がいかに重大な事態に至ってもその責任は自ら貴政府に帰さないわけにはいかないということになる。」
李外部は
「それは承知していたいわけではないが、残念ながら常に内閣公議がこれに傾かず、ただ無益に不承諾を言いつのる有様で私も当惑している。ともかく今一応閣議を経る事に努めたい。」
以上で李・外部は辞去した。
翌日（＊1896年09月02日）は大君主の萬寿節の事だということで各大臣も行在所（＊ロシア公使館 ロシア館播遷1896年2月11日 - 1897年2月20日））に出揃った時に、李・外部は当方照会の意味を内議に伝えたのだが、各大臣はいずれも前同様の意見だと言うほかは別段はっきりとした議論はなく、且つ
「たとえ京釜鉄道を目下起工しないとしても、条約を締結したとの評判が一般に伝われば一層暴徒の勢いは炎を増すことになる恐れがある。」
とか、あるいは
「契約後何年か年月を経過すれば、そのうちには自国の独力でこの鉄道を敷設できる機会もないとは言えないのに、この約定はかえって後日の支障になる」
とか、一向にこれぞと思われる議論がなく、結局李・外部に前議に多少潤色を加え回答を遅らせよう、との事に一決したと探聞致しました。
その後十日を経ても李・外部よりなんら回答はなく、そこで本官は本月十二日外部に赴き李・外部に面談上回答を促し、さらにまた内閣会議の模様を承知致したいと申し出ましたところ、同官は
「かつて貴館において予測致したようにとかく閣議の結果は面白くなく実は当惑中であり、何とか便法はないものか」
との泣き言を繰り返すばかりで一向に要領を得ない。本官は前議に立ち戻りもう一度条約を履行しない事の不条理を取り上げ話を突き詰めましたところ、同官は
「なおまだ閣議において如何に回答案を起し返答をすべきかについては決定致していないので、いずれ本官より回答案を提議し、その上で一両日間には回答に及ぶだろうからそれまで猶予を与えてもらいたい」
と申し出ましたので、当日は以上で話を収め帰館致しました。
越えて同十四日になってもなんら申し越しがないので、その翌十五日午前、国分・通訳官を派遣し催促に及びましたところ、協弁・高喜永氏より
「李・外部は昨夜病気と称して辞表を呈し引き籠り中で責任者がいないため処務上差支えが少なくない。また李・外部は強いてその職を辞職しようと決心し、その原因は専ら鉄道問題に関する」
と申し出ましたとのこと。同官は帰館致しました。
なおまた李・外部の動静に付いて内々探りましたところ、今回の辞表は鉄道問題に関するものがその主な原因であることは事実で、外に殯殿遷座の当日における内謁見に行き違いを生じていたこともまた多少原因となっているようで(機密第七四号参看)、なかんずく鉄道問題に対する李・外部の意見は、
「現今の行き掛かりにおいて朝鮮政府が理屈にならない口実を構えていたずらに時日を引き延ばすときは、事は次第に重大になりついに日本政府は示威的動作をもって強いてその結果を見ることになることは必然の勢いであり、それにもかかわらず国王はロシア公使の後楯を頼んで一向にその考えを翻される模様はなく、この状態では自身の責任をもってこの難局に当らざるを得ないことは一大難事である。今においては進退を決するしかない」
としたもののようだ。
しかしながらその初めの辞表は採用されず、再三再四に及んで病気療養を続けてきたが、この度協弁・高永喜氏に大臣事務を署理させる事になり本月二十四日優批（＊王の決裁、か？）を賜わった。
さきに本官が李・外部に向って鉄道事件のため面談を要すると書面で申し込んだのだが、病気なので辞職の上疏中である、との理由で本官との面会を断ったので、別紙の通り回答をするために照会致しましたところ、本月二十四日、高・協弁が大臣事務を署理するとの通知があり、同日午後に及んで交渉局長である金・珏鉉氏が来館致し、
「高・署理が早速就任披露を兼ね鉄道事件の回答遅延の弁解かたがた訪問致すべきところ、王妃一周年祭の祭典に参与しているため二三日間余暇がないので、先ず自分に代って謝詞を述べてくれるようとの依頼があって参館致した」
と述べた。本官はこれに対して
「鉄道案はご存知のようにすでに月余を経過しながら今なお落着に至っていない。したがって発起者たちのほうでもやや激昂の色を顕わしている事であるので、一日も早く決答を要することであるが、せっかくの御申し出であるので二三日間は猶予致したい」
と答えて置き、同二十七日においては当方より高・署理に対し書面で面会を申し入れましたところ、
「同二十八日午前高・署理が参館するだろう。」
との返答があり、同日来館致しましたので、大略つぎのように談話致しました。
高 鉄道一件に関する回答は大臣辞職などのため思いがけなくも延引した。しかしなおこのお上猶予をお願いするのは余りに申し訳ないことだが、実は今回内閣の官制を改革されその結果大臣の新任(賛政を言う)もあり、また議事目の中に鉄道に関する事項をも加えてあるので今は一応その議事に付したく存じ、本署理も目下懸命に準備中なのでなにとぞ今暫くのご猶予を頂きたい、云々。
本官 貴政府の事情がそのような事であるのなら今しばらくの猶予もできはするが、いずれにせよ本案は貴政府において速やかに許可契約に及ばれるべきことは多弁を要しないところであり、我が政府もまた是非とも本案の結局を見ざれば止まる次第なり（この一七字、不明）。
もっとも本案に対しては本官よりしばしば貴部大臣にも申し述べたように、「暫定合同条款」中に明記するところがありましたら貴政府は定約上の義務を履行されることになるわけで、我が政府はまたこれを主張する権利があるわけである。したがってもし貴政府においてこの義務を怠られるか、あるいは全く拒絶されるときは即ち取りも直さず条約違反の責任を免かれないわけなので、貴政府大臣である人はよろしくこの道理を考究されたい。あるいはそうではなく日本人に向って鉄道を許可するのは一種の恩惠のように思われるときは大いなる間違いを生ずることになるだろう。
高 我々外部官吏はよくそのあたりを認識してなるべく事を穏便にまとめようとの考えをもって毎度内閣に説明しているのだが、困ったことに、内閣中の一部分の考えはたとえ鉄道工事には暴徒鎮定の上に着手するとしても契約の成立があったならこれを聞き伝え一層暴徒の気炎を熾烈にさせる恐れがあるとの事に拘泥して、ついに前回の(官制改革前の)閣議はまとまらずやはり前同様の案文をもって回答を重ねる事に決定し、すでにその草案をも起草し終わっているのだが、大臣始め本協弁においてはどうしてもこれを貴公使に贈るには忍びず、結局は大臣の辞職となり、ついに該案はそのまま外部に握りつぶした次第である。
本官 契約が成立したため一層暴徒が熾盛になるだろうとは杞憂の甚だしいものでそのような事実が起る筈はない、とは思うが、仮に一歩を譲ってその心配があるとしても、この問題は国と国との関係でないのか。とるに足らない情実にかかわって政府の当然の義務を尽さないとは余りの我がままと言わなければならない。また顧みて目下の日本の人心はどうか。『朝鮮政府は我が道理ある申し込みに応じず、しかもこの協約を無視する』といって激昂しているのではないか。そしてこの激昂の結果は、本案がいかに重大問題となっていくかを貴政府大臣たるものは深く考えてもらいたい。およそ外交の妙決は各与国と均一の交際をなし愛憎親疏を戒めるところにある。そして今貴国の外交を観るに大いにこれに反するものがある。なぜならば、貴国はある一国の手を執るものがあればその他の国は如何に感情を害（そこな）っても置いて顧みないものようだ。
しかしこれは貴政府の政略に属する事柄であるから敢えて本官の口出しするような所ではないが、一片の衷情から深く貴政府のため取らない所である。近くはこれを清国の大敗を考えてみよ。その開戰の始めにおいてはある強国の援助もあろうとの妄想を抱き頑固に勝敗の数を悟らなかったのではなかったか
高 一つ一つの御勧告は承知している。いずれ本案に関しては先ず各大臣の間に奔走しできるだけ明確に説明を与え、そのうえ議政府会議の席においては好結果をもって経過させたい希望があるので、その上本署理は重ねて参館致すつもりなのでそれまでのところ猶予を頂きたい。
と申し出そのほか差し掛かっている一二の事件について本官より話をし、当日は立ち別れました。
ところが新議政府組織後の模様を観察するに、議政である金炳始は一且その任を辞しようとしたが、国王より就任を強いられ事情余儀なく就任する事となったが、結局その名だけ就任したに過ぎず、南廷哲、尹用求の二賛政は断然辞職を固持する決心であるとのことで、沈相�發發泙神菷娘�表を呈し、在官のまま病気療養せよと勧められたが家事に托して郷里に隠退しようとしているようで、李允用、李完用は王寵が衰へ、朴定陽は辞表を固執する等、政府部内の模様には動搖の色があるところを見れば、恐らく高署理の執ろうとする遊説手段も容易に纏まらないように思われます。
もっとも本官はこれらのこの際の帰朝に臨みこれを利用して今一回談判を試み、高・署理に余地を止めずこのため出来るだけの手段を執らせたいと思っております。この件別紙を添へて本日までの始末を具申致します。 敬具
二十九年九月二十九日
原 公使
外務大臣 伯爵 大隅重信 殿
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