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2020年09月04日23:25

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スウォヴァツキの誕生日(2020年9月4日(金))に

今から40年以上前の事である。ポーランド語を学ぼうと思った私は、或るポーランド語の学習書を買った。そのポーランド語の学習書に載って居た或る詩に、私は、強く打たれた。それは、次の様に始まる詩であった。

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ゾシュカは私に詩をせがんではならない。
ゾシュカが国へ帰ったら、
その花の一つ一つがゾシュカに詩を語り、
その星の一つ一つが歌を歌い出すだろうから。
花が枯れ、星が流れるその前に、
良く聞いておおき−−彼らこそ一番立派な詩人なのだから。

Niechaj mię Zośka o wiersze nie prosi,
Bo kiedy Zośka do ojczyzny wróci,
To każdy kwiatek powie wiersze Zosi,
Każda jej gwiazdka piosenkę zanuci.
Nim kwiat przekwitnie, nim gwiazdeczka zleci,
Słuchaj - bo to są najlepsi poeci.

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これは、本書に収められた詩の作者、ユリウシュ・スウォヴァツキ(Juliusz Słowacki (1809−1849))が、友人の娘の為に書 いた詩の冒頭部分である。

この詩は、スウォヴァツキ(英語ではスロヴァツキ) の有名な詩であるが、彼がこの詩を書いた当時、彼の祖国(ポーランド)は、ロシアの支配下に在った。1830年には、独立を求める蜂起が起きたが、それも鎮圧され、彼がこの詩を書いた頃、 ポーランドは、まさに亡国の状況に置かれて居た。

スウォヴァツキは、そうした当時の状況の中で、祖国を離れ、フランス、スイス、イタリアなどで事実上の亡命生活を送ったポーランド人の一人であった。そのスウォヴァツキは、或る時、友人の娘であるゾシュカと言ふ女の子が初めてポーランドを訪れる事を知った。その時、 彼が、初めてポーランド尾訪れる彼女(ゾシュカ)のアルバムに書いたのが、この詩である。

彼は、初めて祖国(ポーランド)を訪れる彼女の為に、自身が詩人でありながら、「ゾシュカは私に詩をせがんではならない」と書いたのである。

即ち、祖国(ポーランド)に帰れば、そこで祖国の花たちが、或いは星たちが、自分の詩などよりはるかに美しい本当の詩を、歌を聴かせてくれるのだよと、初めてポーランドを訪れる彼女の為に、詩人(スウォヴァツキ)は、
書いたのである。

初めて読んだ時、この詩のこうした言はれを知って、私は、深く心を打たれた。故国を思ふ詩人の心情を思ふと、
今読み返しても、深い感慨を覚えずには居られない。

続きを含めて、この詩の全文を紹介しよう。

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Niechaj mię Zośka o wiersze nie prosi,
Bo kiedy Zośka do ojczyzny wróci,
To każdy kwiatek powie wiersze Zosi,
Każda jej gwiazdka piosenkę zanuci.
Nim kwiat przekwitnie, nim gwiazdeczka zleci,
Słuchaj - bo to są najlepsi poeci.

Gwiazdy błękitne, kwiateczki czerwone
Będą ci całe poemata składać.
Ja bym to samo powiedział, co one,
Bo ja się od nich nauczyłem gadać;
Bo tam, gdzie Ikwy srebrne fale płyną,
Byłem ja niegdyś, jak Zośka, dzieciną.

Dzisiaj daleko pojechałem w gości
I dalej mię los nieszczęśliwy goni.
Przywieź mi, Zośko, od tych gwiazd światłości,
Przywieź mi, Zośko, z tamtych kwiatów woni,
Bo mi zaprawdę odmłodnieć potrzeba.
Wróć mi więc z kraju taką - jakby z nieba.

Paryż, 13 marca 1844
Juliusz Słowacki

(訳)
ゾシュカは私に詩をせがんではならない。
ゾシュカが国へ帰ったら、
その花の一つ一つがゾシュカに詩を語り、
その星の一つ一つが歌を歌い出すだろうから。
花が枯れ、星が流れるその前に、
良く聞いておおき−−彼らこそ一番立派な詩人なのだから。

青い星星、赤い花花、彼らはお前に
沢山の詩を作ってくれよう。
私の話とて彼らの話と変わりは無いはず。
私は彼らから物言うすべを学んだのだから。
イクファの銀の川波の流れるほとりで
ゾシュカと同じく私もかつては幼い子供だったのだから。

今、私は遠くの国へ旅に出て
不幸な定めにもっと遠くへ追われて行く身だ。
ゾシュカよ、あの星星から光りを持ってきておくれ。
ゾシュカよ、あの花花から香りを持ってきておくれ。
私は本当にもう一度若くならなければならないのだから。
ではそうやって国から帰っておいで−−天の国から帰るように。

訳:木村彰一・吉上昭三
木村彰一・吉上昭三・著『ポーランド語の入門』
白水社・1973年初刷・1988年第11刷
291〜292ページより

(表記を一部変更してあります。)

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何と悲しく、美しい詩だろうか。

祖国を失なふとは、こう言ふ事なのである。

この本は、そのスウォヴァツキの詩集である。一人でも多くの日本人が、この本を通して、ポーランドが生んだこの偉大な詩人の心に触れる事を願ってやまない。

(西岡昌紀・内科医/スウォヴァツキの211年目の誕生日(2020年9月4日(金)に)

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