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2020年08月29日22:38

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追悼・恵口公生さん/誰かの夢のために生きて

■「キミオアライブ」の恵口公生が死去、享年23歳
(コミックナタリー - 2020年08月29日 17:41)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=86&from=diary&id=6212455

■マガジン新人作家、コロナ禍で連載終了の危機も「納得ができません」 ツイッターの行動が話題
(ORICON NEWS - 2020年07月20日 12:00)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=54&from=diary&id=6164483

■「ボーイミーツマリア」のPEYOが別名義で描くYouTuber物語「キミオアライブ」1巻
(コミックナタリー - 2020年04月16日 19:15)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=86&from=diary&id=6049760

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 本を読もうと思うきっかけはいろいろである。
 ただ、「人の評判」を参考にすることはあまりない。他人の感性と自分の感性、これが一致することなど滅多にないからだ。
 マンガの場合は、第一に絵柄が好みかどうか、ということだが、そもそも嫌いな絵柄というものがそんなに多くはないので、やはり設定に惹かれるかどうかがカギとなる。
 しかし、『キミオアライブ』の場合はちょっとばかり事情が違った。作者の恵口公生さんがTwitterにアップした「コロナ禍で第一巻の売れ行きが良くない」という4ページ漫画を読んで、関心が湧いたのだ。もちろん、それで情にほだされたわけではない。読んでみたい気になるか(特に単行本を購入したいとまで思うかどうか)は、実際に「試し読み」してみなければ決められるものではない。
 昔(それこそ半世紀は昔)は、本屋はそんなに立ち読みにうるさくはなかった。無粋なビニール包装なんてものもなかったから、結構、みんな新刊を立ち読みして購入していた。今はそうもいかないから、ネットで第1話だけ、試し読みできるものが多い。それを読んで判断するようにしている。『キミオアライブ』も公式の配信で第1話を読み、それで購入を決めた。

 タイトルの「キミオ」は主人公の名前である。長谷川君生。高校生だが、身長は135センチしかない。小学生に間違えられることもしばしばだ。実は難病に侵されていて、「生きるために」、「夢ノート」と名付けたノートに、自分の叶えたい夢を列挙して、書きつけている。そして、ひとつ、またひとつ、夢を実現するごとに、それを消していく。
 こう聞くと、映画『最高の人生の見つけ方』を思い浮かべる人も多いだろう。基本設定はその通りだ。しかし、君生の目的は、単に自分個人の夢を実現するだけには留まらず、徐々に変化を見せていく。
 君生は、誰かを喜ばせるために、誰かが喜ぶ笑顔を見たいと思うようになって、YouTubeで動画を配信することを思いつくのだ。そして、そのための仲間を募る。校内に新しく「ユーチュー部」を設立する。しかし、その活動が軌道に乗り始めた矢先に――。

 夢に向かって走り続ける君生の、主人公としてのキャラクターは、少年マンガの王道と言っていい。ただ、世界最強になるのでも海賊王になるのでも、「トップを目指す」主人公が、あまりに現実離れした夢見がちな少年だと、読者の感情移入を阻害してしまう危険性がある。ただの中二病に見えてしまったら、元も子もない。
 君生を、「痛い主人公」ではなく、「冒険漫画の主人公」として成立させているのは、一つには彼の掲げる夢の一つ一つに、切実な願いを込めていることが挙げられる。最初、それらの夢はどれも幼稚で、クラスメートたちからはバカバカしいとからかわれる。「お菓子の家を作りたい」「空を飛びたい」「ピタゴラ装置を作りたい」などなど。ところが、「夢ノート」に書かれている「夢」が、決して幼稚なだけのものでないことに気づく仲間たちが現れる。
 「おいしい病院食のレシピを考えたい」「苦くない薬を開発したい」「もう一度、元気に外を歩きたい」――君生を襲った運命の過酷さを知り、彼の夢に、自分の夢も重ね合わせようとする仲間たちが現れる。
 『キミオアライブ』が数ある少年漫画の中でもなぜ輝きを放っているのか、その夢を実現するための方法に、YouTubeも含めて「現代技術」を駆使する仲間たちを揃えたこと、その点にあると言える。
 スポーツもの、競技ものの漫画を読んで、その世界に入りたいと思う少年少女の読者が数多くいたように、自分もまたユーチューバーになって、夢を実現できるかもしれない―そう感じさせるリアリティが、『キミオアライブ』にはあったのだ。

 単行本は、まだ2巻が発売されたばかり。佳境に入るのはこれからだった。
 作者自身も、主人公の君生に自分を重ね合わせて、読者を喜ばせたいと意欲を抱いていたのではないか。何となれば、作者の名前「恵口公生(えぐち・こうせい)」の「公生」は、「キミオ」と読めるから。
 病に倒れても、夢を諦めない、そんな主人公に、恵口さんは自分の夢を託していたのではないか。そう想像するだに、恵口さんの無念はいかばかりかと、胸を刺すような痛みを覚えずにはいられない。Twitterによる宣伝も奏功して、単行本の売れ行きも上向いてきていたのに――。
 享年、23。あまりにも早すぎる死だった。

 合掌。

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