プレイヤーからお金と時間を吸い続け、ゲームコンテンツ（運営）が終わるまで続く修羅のようなソシャゲ界隈。「あんなのゲームじゃないよ」なんて笑う者でさえ迂闊に手を出したら最後…な業の深いジャンルだが、その歴史が長ければ長いほど新規ファンの獲得は困難なのもまた事実。
で、ゲーム外でファンを取り込む方法としてはコミカライズやアニメ化などのメディアミックス展開があるわけだが、原作がソシャゲとなると問題も山積み。キャラは多いが本筋と呼べるシナリオが弱かったり、キャラの多さゆえに全員出そうとすると話がまとまらなかったり、そもそもソシャゲ原作の時点で「どうせファンしか見ないだろ」という先入観が強かったり…。
と、原作ものの中でも実は一番調理が難しいと個人的に思うソシャゲだが、ゲームをまったく知らずに見て、あまりの面白さに「これは！」と思った名作、ちょうど直近で見直した事もあるので軽く紹介。
●八月のシンデレラナイン（TVアニメ）
愛称はハチナイ。原作は女子高校生たちが女子初の甲子園（TVアニメ版では触れられず。高野連がどうこう）を目指す美少女×部活×スポーツもの。野球ゲーといってもパワプロみたいなものでなく、あくまで高レアの選手を揃えて、指示して簡略化した試合を進めるブラウザゲーみたいな感じ。
アニメ放映時はニコニコで見ていて、予想以上の面白さに銀盤買うかアプリに手を出そうかと悩んだほどだが、現在BD版をもとに作画修正した「Re:fine」の再放送が始まり、喜んで録画に至った次第。まだ２話めぐらいだけど改めて丁寧に作られたアニメだなと再認識。
シナリオは天才野球少女の有原が新学期早々、女子野球部を立ち上げるところからスタート。部活もののテンプレ「生徒会の許可取り」「部活は無理だが同好会なら」「部員集め」を地で行く展開。スポーツものなら「興味はあるけど運動に自信がない」が加わるわけだが、序盤はとにかく「野球を知ってもらう、楽しんでもらう」という描写にかなり力を入れられている。
特に１話がいきなり公式試合（最終話）のクライマックスを見せて、スタート地点に戻った物語の締めを「近所の空き地で小学生たちとキックベースを遊ぶ」という流れは、野球素人たちがやがて大舞台に立つという未来と、それに向けた小さな一歩を踏み出す最高の描写だと感じた。リアル野球は正直好きじゃないけど、野球アニメや漫画のこういうドラマチックなところ大好き。
もっとも、予算かスケジュールに恵まれなかったせいか、同時期のアニメと比べても作画はちょっと力及ばず「本格野球もの！ ヌルヌル投手モーション！」みたいなのを期待すると肩透かしであろう。ただ元のキャラデザが色っぽい、静止画でも華やかなビジュアルなので、美少女アニメとしては及第点といったところか。
ソシャゲアニメにありがちな「いきなり全キャラ出してワチャワチャ」もなく、部員は絞ったうえで各員ほどよくスポットライトが浴びるバランスの良いシナリオ（なんとプレイヤーキャラにあたる「監督」はリストラ！ 思い切りのいい判断）もあって、１クールながらもかなり充実した青春スポーツアニメ。作画のハンデやソシャゲの枷をものともしない、爽やかな感動ドラマは一見の価値あり！
●劇場版 刀剣乱舞（実写）
愛称は刀らぶ。原作は実在する日本の名刀たちに魂が宿り「刀剣男子」と呼ばれる人間体になった刀たちを収集し、過去に介入し歴史改変を試みる「歴史修正主義者」と呼ばれる外敵に対し、あらゆる時間を遡って戦いを繰り広げる…というブラウザゲー。
主に女性向けコンテンツとして一世風靡した超ビッグタイトルだが、それゆえに興味ない人には名前ぐらいしか分かる情報がなく、先述の簡単なあらすじでさえ映画を観てようやく知った次第。そんな本作の劇場版をリバイバル上映で観る機会があったのだが、知識も興味も０で観た結果、途中からどんどん背筋がピンとなってきて、エンドロールで西川貴教の熱唱が流れてる頃には「俺はこんな傑作を見逃していたのか！」と全身がヒートアップしていた。
まず刀らぶ自体、これまで演劇・ミュージカル・アニメと多数あるのだが、本作の実写映画版は「何も知らない一見さんでも楽しめる」のがポイント。ソシャゲ特有の固有設定と多数なキャラで一見さんのハードルを上げまくる本作が、その実は何も知らないでも問題なく楽しめる超大衆向け映画とは全くの予想外。むしろ「脚本：小林靖子」「主題歌：西川貴教（作曲：布袋寅泰）」のメンツは、完全に男の子が喜ぶソレ。
次にシナリオ。歴史改変バトルを「織田信長が本能寺の変から生き延びる」という、これまた超メジャーな題材での真っ向勝負。どれだけ歴史に疎くても織田信長が本能寺で死んだのはさすがに国民的常識。でもどうして？ シンプルゆえにぐいぐい引き込まれるシナリオ。その脇を挟むのは山本耕史演じる織田信長や、八嶋智人演ずる羽柴秀吉のベタな熱演。そして大量の兵士たちによる迫力の合戦シーン。ここだけ見たら完全に大河ドラマ！
もちろん刀剣男子たちも魅力と見せ場がたっぷり。最初こそコスプレにしか見えないが、ちゃんとお金をかけた衣装と、わずかなやり取りできちんとキャラを立たせる安心と信頼の小林女史の脚本により、話も追えるしキャラへの感情移入もバッチリ。三日月渋いしカッコいい！ パッケージは刀らぶだけど、中身は実質スーパー戦隊みたいなもんだぞ！
また、映画が初見なので疎いのだが、刀剣男子たちキャストは舞台版と同一らしく、完全新作とはいえ既存のキャストを続投させているのも見事。余談だが同じく2.5次元ミュージカルで人気を博したが、今年公開予定の実写版はフツーにジャニーズら俳優陣を起用した「弱虫ペダル」とは別の道である。その是非は公開後の興行収入が知るのみだが、舞台ファンを抑えつつ新規ファンを狙いにいった刀らぶに覇気を感じる。
まとめると、歴史ミステリーに特撮ノリとイケメン男子大集合！ といった映画で、原作は知らなくても特撮好きな大きいお友達には刺さるし、当然原作ファンにはクリティカルヒット間違いなし。ソシャゲコンテンツで扱いが荒れそうなマスター（ゲームプレイヤー）も納得の配役で、どこを取っても死角なし。
あえてケチをつけるなら、せっかく銀盤買おうと思ったのに通常版がDVDしかなくて、BDは豪華版のみという殿様商売にちょっと萎えたけど、配信やレンタルはちゃんとあるので、未見の方は騙されたと思ってぜひ。
【最後に】
ここに挙げた二作品はソシャゲ原作でもＳＳＲの部類だと思うが、世のソシャゲ原作が全部が全部成功するのは難しく、未だにアニメ版某これが叩かれ続けるように、迂闊な映像化は取り返しのつかない傷をつけてしまう事も。
そして、原作未見の新規ファン視点だが、上記二作品の「良かった」と感じた個人的な共通点をまとめると。
�仝矯遏米辰縫�ャラ）を知らなくても楽しめて、知っているとより楽しめる構成。
�▲轡淵螢�をシンプルかつ、共感性の高いものにする。
�Ｏ辰�追える範囲でかつ記憶できるキャラ数。
（ちなみに両作品とも、準レギュラーのちょっとした顔見せはある）
といった所か。ファンから見れば物足りない部分があるかもしれないが、それでも上記二作品は何も知らない自分に「ちょっと原作を手に取ってみようかな」と思わせるには十分な完成度だった。それだけ丁寧に作られた作品は、結果として作品単体として評価されるのだろう。
そして面白いと感じた以上、その大元となる原作にはまぎれもなく「好きになれる要素」が秘められているわけで、そうやって新しい世界に次々首を突っ込むのも、また一興だなと思った。
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