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2020年05月24日18:29

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ブーレーズ盤「春の祭典」を聴き比べる

「春の祭典」は中学時代、下校途中に第一部を全部歌いながら帰ったほど親しんだ曲だ。
しかし、最近はあまり聞かない。
面白いけど、あまり感動しない曲だと思っているからだ。
Eテレでサロネン指揮の「春の祭典」を放送すると知っても食指が動かなかった。

しかし、マイミクのロベルト氏の日記で、サロネンが、
「この曲はどうなるかわからない、というリスクがなければ、演奏する意味がない」
と言ったらしいことや、その後、ロベルト氏が手持ちの「春の祭典」のCD を十数枚も聴いたと知って、座禅で肩を打たれるように「喝!」を入れられた思いがした。
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1975771078&owner_id=7240609

そこで、私も久しぶりに「春の祭典」を聴いてみることにした。
ストラヴィンスキーに思い入れの無い私は「春の祭典」の音源をあまり持っていない。
しかし、たまたまブーレーズ盤を4種類持っていたので、それを聴き比べることにした。

ブーレーズ盤の聴き比べは、下記の記事にとどめを刺すが、私なりの感想を記す。
http://mercuredesarts.com/2016/02/13/%E6%B3%A8%E7%9B%AE%E3%81%AE%EF%BC%91%E6%9E%9A%EF%BD%9C%E3%83%96%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%80%8E%E6%98%A5%E3%81%AE%E7%A5%AD%E5%85%B8%E3%80%8F%EF%BD%9C%E8%97%A4%E5%8E%9F%E8%81%A1/

最初は盤の紹介と音質について。

1 Orchestre national de l'ORTF(フランス国立管弦楽団)1963(LP)
フォト
本当はこれを一番よく聴くべきだったが、我が家では現在LPが聴けない。
エルサウンドのアンプにはフォノイコライザーが付いていない。
レコードプレーヤーはあるが針がない。
残念ながら今回はパス。


2 クリーヴランド管弦楽団 1969
フォト
LPも持っているが、CDも2枚持っていた。
左は安売りしていたもので、いかにも音が悪そうだ。
右は、ピエール・ブーレーズ ザ・コンプリート・ソニー・クラシカル・アルバム・コレクションの中の一枚。
右のCDも、LPレコードを模した塗装が施されているのが、音が悪そうで嫌だ。
私はこういう小細工に所有欲を掻き立てられたりしないのだ。
それで、最初左のCDで聴いていたが、頑張っても70点程度の音質にしかならない。
そこで、右のCDに切り替えたら、90点位まで行った。
レーベル面の厚化粧にも関わらず、後発のCDの方が頑張った分だけ音が良くなった。

しかし、音質が変わるたびに演奏の印象も変わってしまうのがとても困る。
これだからオーディオは嫌なのだ。
SUPER GTのレーシングカーをチューニングしているみたいで疲れる。
生演奏の方が判断に間違いがない。


3 クリーヴランド管弦楽団 1991
フォト
1969年盤は、努力して再生しても、ちょっと音質にキツさや賑やかさがある。
これは、当時のナローなステレオ装置でも、音の角が立つ為だったのかもしれない。
それに比べると1991年盤はデジタル録音でクリアだし、音質もまろやかだ。
だが、音が噛みついてくる程鮮明ではないので、それが演奏の評価にも響いてくるように感じる。
DGの録音は、どことなく作り物っぽい音質なのがいつも気になる。


4 グスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラ 1997
フォト
これは1991年のDG盤と比べて遥かに鮮明でリアルな音質だ。
もう1969年のスカスカした録音とは雲泥の差だ。
ライブ録音らしく、客席の咳も入っている。
鮮度の高い音質が、演奏のダイナミックな印象を強めている可能性は高い。

.:♪*:・'゚♭.:*・♪'゚。.*#:・'゚.:*♪:・'.:♪*:・'゚♭.:*・♪.:♪*:・'゚♭.:*・♪'゚。.*#:・'゚.:*

ここからやっと演奏の感想。
全曲聴くと忘れちゃうから、第一部と第二部に分けて聴いた。

【第一部の感想】

☆クリーヴランド管弦楽団 1969
「余計な感情を込めず、小細工をせず、クールにやるんだ」
という美学を徹底させている。
クールに徹した表現の向こうに、絶頂期を迎えつつあるブーレーズの、ギラギラした野心が見えるようだ。
美学はクールだが、演奏は生ぬるくなく、オケの音は熱い。
管楽器など、正確無比に咆哮している。
聴き所は非常に多い。
「敵の都の人々の戯れ」の部分の、ストラヴィンスキーらしく【切り貼り】のように曲想が変わる部分の、冷徹な変化の面白さ。
最後の「大地の踊り」の、ありえないほど正確無比に盛り上がる全合奏は圧巻だ。


☆クリーヴランド管弦楽団 1991
冒頭の「序奏」から、1969年盤とは随分違って聞こえる。
ジャングルの中で、可愛い鳥たちや獣たちが、平和に鳴き交わしているみたい。
「春のきざしと乙女たちの踊り」が始まると、荒々しい人たちが乱入してきたので、鳥たちはキャーと逃げていく。
でも、乱入してきた原始人たちも何だか楽しそう。
「原始時代も悪くないなー」
と思わせる。
盛り上がる部分で鉄琴が入るとサウンドがキラキラしてゴージャスになる。
聴き所はあるが、怖さは全然ない。


☆グスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラ 1997
これまた「序奏」から随分と違う。
不気味さを基調としながら、時にほのかに明るくなるなど、微妙に曲想が変化する。
クールでものどかでもなくて、ストーリーがある。
「春のきざしと乙女たちの踊り」は、暴力的。
この曲が本来持っていた暴力性を引き出している。
鉄琴でさえ、1991盤のようにキラキラ奇麗じゃなくて、ギンギンギラギラ荒々しい。

1991盤で、老いたかと思われたブーレーズ、フニャフニャした青年たちを前にして、かつての「怒れるブーレーズ」復活か?
「ボーッと生きてんじゃねえ!現代音楽は攻撃的にやるんじゃ!」
と、若造どもに喝を入れたか?

.:♪*:・'゚♭.:*・♪'゚。.*#:・'゚.:*♪:・'.:♪*:・'゚♭.:*・♪.:♪*:・'゚♭.:*・♪'゚。.*#:・'゚.:*

【第二部の感想】

第二部って、疾風怒濤で面白い第一部に比べると微妙だと思う。
途中までが退屈になりやすいし、激しい部分も第一部より詰まらない気がする。
そこら辺をどうカバーするかが聴き所。

☆クリーヴランド管弦楽団 1969
徐電機で一生懸命静電気を除去して、音質を良くしようとする。
だが、LPで聴いていた頃ほど聴き易くならず、前半は音楽に集中しづらくなってしまう。
これでは演奏の評価はできない――。

それが「いけにえへの賛美」から一気に火がついて盛り上がる。
テンポも猛然と速く、情け容赦ない。
どこまでもクールで、かつ激しいのだ。
なにしろ「現代音楽は暴力的でなくてはならない」というのが、若い頃のブーレーズのモットーだったのだから。
アドレナリン出まくりのオーケストラは「祖先の呼び出し」の部分に入ってもまだ興奮を引きずっているが、ブーレーズがそれを制して、冷徹なテンポに落としているのが分かる。

最後の「いけにえの踊り」で印象的なのは、ティンパニや大太鼓の力一杯の連打の凄まじさだ。
まるで大太鼓協奏曲だ。
激しくもクールに決めつつ、音楽の持つ暴力性を大太鼓に表現させているのだ。


☆クリーヴランド管弦楽団 1991
1969年盤のようなノイズ感はないが、生々しさにも欠ける音なので、前半は何となく聞き流してしまう。
「いけにえへの賛美」からも、1969年盤のような激しさはない。
一体これは誰の演奏?晩年のベームの演奏じゃないの?と思ったりした。
そう、今や大御所となったブーレーズは、もうかつての「怒れるブーレーズ」じゃないのだ。
平和主義者になったのだ、という演奏。
オケの演奏は、前より精緻になっているという意見もあるが、私は生ぬるいと思う。


☆グスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラ 1997
これは前二者の演奏とは全然違う。
音質の鮮明さに助けられて、目の前で展開する音楽的な出来事の一つ一つが面白い。
不安感を基調としつつ、小さな出来事が次々と起きながら、「物語」が繋がっていく。
ここにはドラマがある。
もしかしたら、1991年盤の評判が良くなかったことが、ブーレーズをさらに前進させたのかもしれない。

1969年盤ほど徹底した美学的激しさはないが、若き奏者の力演と、鮮明な音質、各部分の表現のコントラストに支えられて、楽しく聴ける演奏だ。
一つ聴き所を挙げるなら、最後の「いけにえの踊り」だ。
「ザッ、ザッザーーー、ザザザ」という主題の【不協和音】の響きのもつ禍々しさ!
それを聴き手の心に食い入ってくるように(ヤな感じ)に奏しているのが素晴らしい。
この部分は三つの演奏の中で最高だ。

.:♪*:・'゚♭.:*・♪'゚。.*#:・'゚.:*♪:・'.:♪*:・'゚♭.:*・♪.:♪*:・'゚♭.:*・♪'゚。.*#:・'゚.:*

【まとめ】
以上、三つの演奏を聴き比べての感想は、まあ、だいたい世間で言われている通りのものだったかもしれない。
確かに、DG時代の再録音は生ぬるいのだ。
「春の祭典」はまだいい方で、「火の鳥」を聴き比べたら、ニューヨーク・フィル盤は、どこを切っても熱い血が吹き出そうな演奏なのに、DGのシカゴ響盤は、刺身も切れなさそうなナマクラな演奏だった。

でもいいのだ。
DG時代のブーレーズは、リゲティとか、バートウィッスルとか、自作自演の「レポン」などの名演を残してくれたのだから。
ブーレーズの「春の祭典」で一番いいのは、やはり1969年盤だろう。
しかし、CDで聴くには装置を選ぶ。
録音の古さが出ない装置で聴いた方が幸せだろう。
音も演奏もいいのは、グスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラの演奏だ。
一時期、入手困難だったが、今、あるみたいですよ…
ポチってみてはいかがでしょうか?
https://www.hmv.co.jp/artist_%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC%EF%BC%881882-1971%EF%BC%89_000000000020645/item_%E3%80%8E%E6%98%A5%E3%81%AE%E7%A5%AD%E5%85%B8%E3%80%8F%E3%80%81%E4%BB%96-%E3%83%96%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%BA%EF%BC%86%E3%82%B0%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%95%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%A6%E3%83%BC%E3%82%B2%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%82%B1%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9%EF%BC%881997%EF%BC%89_1234569
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