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2020年05月14日23:39

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追悼・野間美由紀さん/日本で唯一の本格ミステリ専門マンガ家

■漫画家の野間美由紀さん、虚血性心疾患のため2日に死去 59歳 『パズルゲーム』シリーズ連載中
(ORICON NEWS - 2020年05月14日 12:49)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=54&from=diary&id=6081610

 もう二週間近く前、5月2日に、虚血性心疾患で亡くなられていたとのこと。
 ご本人のTwitterを確認してみると、その日までリツイートされていたし、それまでのつぶやきにも病気を感じさせるものは見当たらない。本当に突然だったんだろう。
 私自身も、一年半前に同じ病気で倒れたから分かる。前触れなんてまるでないんだよね。いきなり血の気が引いて、全身の力が入らなくなる。糖尿病の持病があるから、何らかの合併症だとは自分でも見当はつくのだが、だからと言って、何をどうしたらいいのか分からない。意識がなくなっていたわけではないのだが、それからは記憶が結構飛んでしまって、気がついたら入院していた。幸い、生還することは出来たのだが、復職は叶わなくなった。
 野間さんの場合も、おそらくは何か基礎疾患がおありだったのだと思う。突然倒れたとしても、早期治療で助かる可能性はあったんじゃないかと思うが、今さら何を言っても仕方がない。

 野間さんが『パズルゲーム』シリーズの第一作『パズルゲーム☆はいすくーる』を最初に発表したのが1983年。野間さんはまだデビュー間もない22歳の時だった。
 それまでの本格ミステリ・コミックと言えば、手塚治虫、石森章太郎諸氏にいくつかの作品があり、少女マンガでは和田慎二の神恭一郎シリーズなどがありはしたが、いずれもサスペンス、スリラーを意識したもので、本格的な謎解きミステリとしての魅力には乏しかった。

 ところが『パズルゲーム』で展開された奇抜な謎とトリックの数々は、マンガはおろか、既存のミステリ小説にも負けず劣らずの練りに練られたものばかりで、「野間美由紀以前と以後」と区分けしても過言ではないくらい、確実に日本ミステリマンガのレベルを格上げしたのである。いったいこの作家さんはどこから出てきた人なのかと舌を巻いた。
 『パズルゲーム』単行本のコラムで、理由は判明した。もともと彼女は半端ないミステリマニアで、古今東西の本格ミステリを読破していたのである。
 「この人、クレイグ・ライスを読んでるやん。そうだよ、今読むべきは岡嶋二人だよ。うおっ、泡坂妻夫も?! まさか仁木悦子をマンガ化するとは…!」
 私もその時点で相当量のミステリを読んでるつもりではあったけれども、野間さんのお勧め作品、そのチョイスのセンスの良さには脱帽するしかなかった。ありとあらゆるミステリーに通暁しているからこそ、あれから40年近く、第一線のミステリ作家として、シリーズを描き続けることが出来たのだろう。

 最近、『コンフィデンスマンJP』で一般的にも通じるようになった「コンゲーム(信用詐欺)ミステリ」だが、これをマンガの世界に持ち込んだ嚆矢も野間さんではなかろうか。
 野間さんがジェフリー・アーチャー『百万ドルを取り返せ!』や小林信彦『紳士同盟』や高木彬光『白昼の死角』などのコンゲーム小説を読まれていただろうことは想像に難くないのである(あるいは映画『スティング』など)。

 日本のマンガ界で、本当に本格ミステリがブームになったのは、天城征丸×さとうふみや『金田一少年の事件簿』と青山剛昌『名探偵コナン』の両大ヒット作が生まれてからになる。
 しかし、さとう、青山両氏は、もともとミステリ専門作家というわけではない。野間さんは、そのほぼ全作品が本格ミステリであるという、マンガ界では唯一無二の存在だったのだ。

 『パズルゲーム☆はいすくーる』がいったん完結した後も、野間さんは主人公・三輪香月たちの前日譚・後日譚、さらにその間隙を埋めるシリーズを描き続けた。それは手塚治虫『火の鳥』同様に、終わることのない永遠の物語を紡ぎ上げているようにすら見えた。
 総巻数は70巻を超えていたから、質量ともにドラマ化、アニメ化の話があってもよかったように思うが、残念ながら一度も生きて動いている香月たちには出会えなかった。『金田一』や『コナン』が映像化されてて、なぜ『パズルゲーム』は無視されてるの? と感じていたファンは少なくないと思う。その理由は定かではない。
 けれども、今思えば、高校生同士のsexを、全くスキャンダラスでなく、いともあっけらかんと描いていたから、まだまだ保守性の強いTV界は映像化に二の足を踏んだのかもしれないとも思う。
 裏を返せば、特に進歩的だった80年代の白泉社――『花とゆめ』誌の、自由さを象徴するマンガの一つが『パズルゲーム☆はいすくーる』だったのだ。今読み返してみると、学生だろうと好きな男女がsexするなんて全く普通で(避妊もしてるし)、特に問題視されるとは思えない。時代はようやく野間さんに追いついたのである。

 執筆順が必ずしも時代順ではなく、物語が過去と未来を行ったり来たりしているため、携帯がなかった頃からある時代に変わっても、時間軸は逆行していたりと、設定上の矛盾はどうしても生じてしまっている。
 けれども、そんな矛盾が古くさく感じられないくらい、全作品が謎解き本格ミステリの魅力に溢れているのだ。おそらく、日本のマンガ家で、オリジナルの本格ミステリが描ける作家は、加藤元浩、たがみよしひさ、そして野間美由紀の三人しかいないと思っている。

 初期作品も白泉社文庫から再版されて、現在でも入手可能である。『金田一』や『コナン』に飽き足りない方は、ぜひご一読を乞いたい。
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