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2020年04月29日07:54

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「コロナ患者が日本で少ないのは検査が少ないから」説を統計的に検証

日本の新型コロナウイルスの感染者が欧米と比べて少ないという状況について、日本は検査をしていないから患者が少ないのだという議論がある。果たしてこの説は正しいのか。本稿で統計的に検証する。(名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰)
新型コロナウイルス感染者数が
日本で少ないのは検査数の問題なのか
 全世界が新型コロナウイルスの感染拡大でパニック状態になっている中で、日本はこれまでのところ感染者数が低く抑えられている。もちろん、直近になって感染者数が増大し、緊急事態宣言も発出された。日本も今後イタリアや米国のようになるのか、予断を許さない状況にある。
 現在まで欧米に比べて感染者が少ないという状況に関し、握手&キス&ハグの文化ではなくお辞儀文化だからだ、よく手を洗いうがいをし、衛生観念が高いからだ、暖かく湿気が多いからだ、結核予防のBCG接種が良いなど、さまざまな説が流れている。

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 BCG接種説とは、BCGは対結核だけでなく、一般的に免疫能力を高め、これがコロナウイルスにも効果的であるという説である。これによるとBCG接種をしている日本などアジアの国で死亡率が低く、していない欧米で高いという(大隅典子「コロナにBCGは『有効』なのか?東北大・大隅教授が緊急解説」ダイヤモンド・オンライン2020.4.13)。
 これに対して、日本の状況は単にこれまでが良かっただけでこれから悪化する、日本は検査をしていないから患者が少ないのだという議論もある。これから悪化するという説に関してはすぐに結果が出るだろうから、本稿では検査数が少ないから患者数が少ないという説を検討したい。おそらく、これが現在の最有力説だと思われるが、この説が正しいかどうかを、統計的に検証する。
 結論を先取りして述べれば、「検査していないから患者が少ない」という議論は正しい。しかし、それが患者数の統計に非常に大きな影響を与えているとまではいえない。また、他の説を排除するものでもない。本稿はまず、なぜ日本で検査数が少ないのかを論じた後、検査数と感染者数の関係を説明する計量的分析の方法を説明し、その結果を解説する。
なぜ日本では検査数が少ないのか
 感染症の専門家によれば、治療法がないのに検査しても意味がない、インフルエンザであれば簡単に検査して陽性の場合はタミフルやリレンザを処方すればよいが、コロナ患者にはどうしようもない、ということらしい。検査数が少ないことに関し、国立感染症研究所所長が「市民の皆様へ 新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査に関する報道の事実誤認について 2020年3月1日」という文書を発表している。これによれば、検査は感染の拡大を抑えるためにしているのだから、むやみに検査数を増やす必要はないということである。
 しかし、これでは何を言っているか分からない。「普通の検査は病因を見つけて患者を治すためにしているのだが、新型コロナウイルスは治療法がないから、その意味での検査をしても仕方がない。だから、意味のない検査に医療資源を使うべきではない」と言ってくれて初めて分かる。感染症学者は、「だから、検査をするよりも感染者の集団(クラスター)を追い、感染者を確実に隔離する方が感染症の爆発的蔓延を防ぐことができる」と言うのである。
 検査しても分からない感染者が多数いる。検査で陽性と正しく認定できるのは感染者の7割程度らしい(「新型コロナ、なぜ希望者全員に検査をしないの? 感染管理の専門家に聞きました」BuzzFeed News 2020年2月26日)。すると、本当は感染しているのに陽性にならない感染者に、行動の自由のお墨付きを与えることになる。これはむしろ感染を広げることになりかねない。
 また、陰性であるのに陽性になる人も少なからずいる。本当は陰性の人に対して、2週間の自宅待機など社会生活上の不便を与えることは好ましくない。また、発熱など疑わしい人を集中的に調べてもそれほど陽性者は増えない。だから、陽性者は本当に少ないのだという。
 しかし、現在では発熱が続いてもなかなか検査をしてくれないという。検査されないと、家族や職場の人に感染することを恐れ、発熱に苦しみながら医者にも行けないことになる。検査して陰性であれば安心できるし(検査結果が確実でないので安心できないのかもしれないが)、隔離することによって感染を防ぐことができる。ドライブスルー検査など、特別な場所に検査所を設けて多数の人を集中的に検査すれば検査数を増やすことができる。
 最近では、感染症学者も検査しないことに固執しなくなったように思える。また、検査が足りないことによって病院内で感染することを恐れる感染症学者以外の医師が、検査を求めるようになっている(「PCR検査、都内10カ所に 月内にも 医師会、自治体連携」東京新聞、2020年4月18日朝刊)。
新型コロナウイルスの感染者数と
検査数との関係
 検査数を増やすべきという意見が強くなっているが、ここでは最初の疑問、検査数が少ないから感染者数が少ないのかという問いに戻る。
 この問いについて考える前に、ここで用いるデータの説明をする。感染者数とは、PCR検査で陽性となった人の数。患者数とは、感染者数から無症状病原体保有者と確認中の数字を差し引いたものであったが、途中から、感染者数≒患者数となった。ここで用いているデータでは、感染者数≒患者数、もしくは感染者数=患者数となっている。PCR検査人数とは、PCR検査を行った人の数である。重複は排除するため1人に複数回検査を行なった場合は「1」とカウントしている。なお厚生労働省は「疑似症サーベイランスの枠組みの中で報告が上がった数を計上しており、各自治体で行った全ての検査結果を反映しているものではない(退院時の確認検査などは含まれていない)」としている(さらに詳しくは本稿最後の付注のデータ元の説明を参照)。
 以上のデータにより、まず、素朴に
感染者数=a+b×検査数
 という式を推定して、検査数が増えるほど感染者数が増えるという関係が見いだせれば、検査数が少ないから感染者数が少ないのだと結論付けることができるような気がする。
 図1は、検査数と感染者数と感染者数/検査数を時系列で示したものだ。初期には感染の可能性が特に高い者を検査していたが故に検査数に占める感染者数の比率が高かったが、検査体制が整った3月初めからは比率が低下していた。しかし、最近は比率が上昇、高止まっている。
 一般的に言って、感染者数の真の値があって、それが変化しないのであれば、検査数が増えるほど感染者数が増えるというこの図から、検査数が少ないから感染者数が少ないと結論できる。しかし、感染者数は時間とともに増大していき、それに応じて検査体制を強化し、検査数を増大させている。そのため、検査数が少ないから感染者数が少ないとはいえない。つまり、時間とともに感染者数が多くなるデータでは、この方法では検証できない。
 しかし、都道府県ごとのデータであれば、そのときの県ごとの相対的な感染者数の多寡は時間によらず、かつ検査数も時間ではなく県の裁量と検査体制の状況で決まる。従って、ある時点の都道府県ごとの検査数と感染者数の関係を見れば、検査数が少ないから感染者数が少ないのかどうかが分かる。これを見たのが図2である。図は、縦軸に10万人当たりの感染者数、横軸に10万人当たりの検査数を描いたものである。3月11日から直近時点までのデータがあるが、ほぼ20日ごとの結果だけを示しておく。
 これによると弱いながらも相関があるようである。しかし多くの方は、これらの図を見て、和歌山と大分でたまたま検査数が多く感染者数も多かったので、相関関係が現れたのだろうと思われるだろう。しかし、この2県を除いても弱いながら相関関係はあるようである(2県を除いたR2は図2の注にある)。ただし最近は、全ての県でも2県を除いても相関が弱まっている。この図のなかでは直近の東京のデータが気になる。検査が少ない中で、突出して陽性者数が多いからである。
 次に3月11日から現在(4月25日)までの全都道府県のデータを使って相関関係を確かめる。この時、時間とともに感染者数が増加しているので、時間トレンドも説明変数に加える。感染者数は、10日ごとにほぼ倍増しているので、トレンド=1.07の日数乗としている。結果は、表1のようになる。
 検査数は10万人当たりの値である。この意味は、10万人当たりの検査数が1増えれば感染者数は0.014人増えるということである。人口100万人当たりの韓国の検査数は、3月13日と古いデータであるが、4800件余りである(「新型コロナウイルスの検査 世界の検査数は? 日本の現状は?」NHKニュース2020年3月18日)。人口10万人当たりなら、480件ということになる。日本は、現在10万人当たり98人を検査しているにすぎない。これを韓国の検査数480人にすれば10万人当たりの感染者数は0.014×382(480-98)=5.3人増える。
 ただし、この推計に用いたサンプルでは、10万人当たりの検査人数の平均値は44.6人、標準偏差は46.0である。推計した係数は、検査数が少し増加したら陽性者数がどれだけ増えるかという意味なので、5倍近くに増やしたときに信頼できる係数であるかは分からない。とはいえ、増加すること自体は間違いない。
 0.014という係数を信頼できるとすると、日本全体での患者数は5.3÷10万×日本の人口1億2600万人=6678人増えることになる。4月26日現在の感染者数の1万3232人が実は1万9910人であるかもしれないということである。すなわち現在の感染者数は、実は5割程度多いのかもしれない。ただし、これは現在の真の感染者が本当はもっと多いとしているだけであって、感染者の今後の増減について何らかの情報を与えるものではない。
統計的な検証からみえてきた
コロナ「クラスター対策」への疑問
 以上の統計的分析により、「検査をしていないから患者数が少ない」という説はおそらく正しいと結論づけられた。しかし、真の感染者数は現在明らかになっている感染者数の5割増し程度で、隠れた感染者がとてつもなく多いというわけではない。それでも、これは集団感染をつぶしていくことで感染者を抑えることができるという議論、クラスター論に疑問を投げかけるものである。
 すでに感染経路が分からない感染者数が半分以上となっているということであるから(例えば、「東京都で新たに181人感染、経路不明7割 新型コロナ」日本経済新聞、2020年4月9日)、感染経路の分からない感染者数が仮に半分だとしても、真の感染者数が検査によって明らかになった感染者の1.5倍いるとすれば、感染経路が分からない真の感染者は「(0.5+0.5)÷1.5=0.66…」ということで、すでに3分の2を占めていることになる。クラスター対策だけでなく、緊急事態宣言による一般的な接触削減方法が必要になったということである。
付 データについて

東洋経済オンライン
全国のデータ
・ファイルURL:https://github.com/kaz-ogiwara/covid19/blob/master/data/summary.csv
・厚生労働省の開示例:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10700.html
都道府県別のデータ
・ファイル:https://github.com/kaz-ogiwara/covid19/blob/master/data/prefectures-2.csv
・厚生労働省の開示例:https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000619077.pdf
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