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2020年04月19日23:24

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魔法少女の系譜、その126

 今回の日記は、断続的に連載している『魔法少女の系譜』シリーズの一つです。前回までのシリーズを読んでいないと、話が通じません。

 前回までのシリーズを読んでいない方や、読んだけれど忘れてしまった方は、以下のシリーズ目録から、先にお読み下さい。

魔法少女の系譜、シリーズ目録その1(2014年01月22日)
http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=25849368&id=1920320548
魔法少女の系譜、シリーズ目録その2(2018年12月24日)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1969682470&owner_id=25849368

 今回も、前回に続き、『王家の紋章』を取り上げます。
 前回まででは、メインヒロインのキャロルと、サブヒロインのアイシスについて、主に書いてきました。二人とも、本項のテーマである「魔法少女」ですから、当然ですね。

 今回は、二人の魔法少女からちょっと離れて、二人の恋愛対象であるメンフィスを取り上げます。
 というのは、メンフィスもまた、後の娯楽作品に与えた影響が、大きいキャラクターだからです。とりわけ、女性向け作品に登場する男性の、一つのテンプレートの原型になっています。

 メンフィスは、十七歳にして、古代エジプトを統べる王です。女性と見まごうばかりの美貌の美男子です。
 ちなみに、一九七〇年代に、イケメンという言葉は、ありません。その対極語であるブサメンという言葉も、存在しません。
 メンフィスは、外見は優男【やさおとこ】ながら、気性は激しく、嫉妬深いです。冷酷で、人を人とも思わない部分があります。ただし、頭は切れるほうで、有能な王です。勇猛果敢で、武力にも優れています。

 アイシスとキャロルだけでなく、メンフィスは、多くの女性に慕われます。ヒッタイトの王女ミタムン、アッシリアの女官ジャマリ、リビアの王女カーフラなどの高位の女性から、奴隷女のメクメクまで、彼の美貌に惹かれない女性のほうが、少ないほどです。
 けれども、彼は、キャロルが現われるまでは、女性に恋愛感情を持つことはなかったようです。アイシスに対しては、母親を思慕するような、肉親としての情しか持っていませんでした。
 キャロルと恋に落ちてからは、彼女一筋です。他の女性にどんなにアプローチされようと、見向きもしません。
 キャロルに対してアプローチをかける男がいると、激怒して、殺さんばかりの勢いです。実際に、アッシリアのアルゴン王は、そのために城を落とされ、右腕を切断されました。

 メンフィスは、キャロルが、兄ライアンの名前を出すことにさえ、嫉妬します。とにかく、キャロルに、自分以外の男が近づくことを許しません。自分の腹心の部下である、将軍ミヌーエや、武官のウナスなど、ごく一部の男性だけが、キャロルに近づくことを許されています。
 メンフィスがライアンに嫉妬するのは、古代エジプトの王族ならでは、かも知れませんね。以前に書きましたように、古代エジプトの王族は、きょうだい同士で結婚するのが普通です。「結婚相手となり得る男性」は、敵視するのかも知れません。

 メンフィスみたいな男性は、現代日本にいたら、独占欲が強過ぎて、ただのモラハラ男です(^^; 
 とはいえ、そこは、少女漫画ですから。若い女性は、「ここまで、自分のことを思ってくれるなんて、素敵♪」と、うっとりしちゃうんですよね(笑)

 メンフィスが、どんなにモテても、キャロル以外の女性に心を動かさないのも、女性読者から、強い支持を受ける理由です。いつ、どんな時代でも― 一夫多妻が許される時代ですら―、女性は、自分だけを見てくれる男性に、なびく傾向が強いです。

 メンフィスを思慕する女性が多いため、『王家の紋章』は、メンフィスの「ハーレムもの」として見ることもできます。ただし、肝心のハーレムの王―メンフィスは、文字どおりの王ですね―が、ただ一人の女性にしか、関心がありません。
 このため、少年漫画の「ハーレムもの」のような展開には、なりません。メンフィスが、他の女性とキャロルと、どちらを選ぼうかと迷う場面なんて、決っっっして、ありません。
 メンフィスとキャロルだけが、両想いで、至高の絆で結ばれています。この二人の絆が、物語の中心です。

 そんなメンフィスですが、最初から、キャロルを熱愛していたわけではありません。出会ったばかりの頃は、本当に暴君です。キャロルは、牢に入れられるわ、奴隷労働をさせられるわ、頭をつかんで川に顔を浸けられるわ、乱暴この上ない扱いをされます。

 それが、キャロルにメンフィスの命が救われることになり、戦争においても、彼女の知識によって、エジプトが勝利を収めます。まあ、こんなことがあれば、メンフィスでなくても、相手の女性には、惚れちゃいますね(笑) それを受け入れるキャロルは、ある意味、懐が深すぎです。
 前述のとおり、恋に落ちてからのメンフィスは、デレデレです。二〇二〇年現在の言葉で言う、ツンデレ状態です。

 最初はツンツンして、印象が悪かったのに、馴染んでからは、デレデレになるのが、ツンデレですね。ギャップに意外性があるため、男性のキャラでも、女性のキャラでも、よく使われる手です。男性でも女性でも、ギャップ萌えする人は、多いですよね。

 一九七〇年代には、ツンデレという言葉は、存在しません。
 現象としては、言葉に先駆けて、ありました。だいたい、昔の少女漫画のヒロインの相手は、ほとんどが、ツンデレ男子ですよね。「普段は怖い不良男子が、捨てられた子犬をかわいがっているのを見て、ハートを射抜かれる」というやつです(笑)
 この「不良と子犬」パターンなどは、二〇二〇年現在には、テンプレ化して、パロディにされるくらいですよね。

 『王家の紋章』の場合、ツンとデレの振れ幅の大きさが、甚だしいです。「殺しちゃってもかまわない奴隷」扱いだったのが、「この世でただ一人、至高の愛を捧げる配偶者」になるんですからね。
 二〇二〇年現在の目で見ても、ここまで落差が激しいツンデレは、そう多くはありませんよね。「不良と子犬」どころではありません。

 昭和五十一年(一九七六年)に連載が始まった『王家の紋章』は、ツンデレの原型を作る側でした。この作品には、メンフィス以外に、もう一人、強烈なツンデレ男子が登場します。ヒッタイトの王子イズミルです。
 イズミルは、メンフィスに負けず劣らずの美男子で、聡明さも謳われます。武術の達人でもあります。しかも王子さまですから、身分的にも、メンフィスと張り合います。

 イズミルは、最初、妹を古代エジプトで殺された復讐のために、キャロルを誘拐します。当然、(エジプトの王妃になりそうな)キャロルを憎んでいました。キャロルを鞭打つ拷問をするくらいです。
 けれども、実際にキャロルと接して、彼女の知識や人柄を知るうちに、彼女を愛してしまいます。何度もキャロルをさらって、自分の妃にしようとします。キャロルがメンフィスと結婚して、王妃になってからも、ずっと諦めません。
 こちらも、ツンとデレの落差が激しいツンデレ男子です。

 イズミルも、現代日本にいたら、ただのストーカーですね(笑) 彼のキャロルへの愛が、真摯なのは伝わるので、ストーカーではなく、「報われない愛に身を捧げる人」になっています。

 連載が始まった当時から、『王家の紋章』を読んでいた方々に聞くと、メンフィスが好きな派と、イズミルが好きな派とに、ぱっくり分かれる印象ですね。大ヒット作で、人気を二分する重要なキャラクターたちです。
 メンフィスとイズミルと、ヒロインを愛する重要な男性二人ともが、ツンデレなのは、それだけ、少女漫画における「ツンデレ男子」の人気の根強さを示すものでしょう。

 さて、メンフィスの性格について、先に、『冷酷で、人を人とも思わない部分があります』と書きましたね。この性格は、キャロルと結婚してからも、基本的には、変わりません。
 キャロルを愛するようになってから、彼女に感化されて、最初ほどは、きつくなくなります。それでも、現代人の目で見れば、ひどく傲慢な男ですね。二〇二〇年現在の言葉で言えば、「俺様男」でしょうか。
 一九七〇年代には、「俺様男」という言葉も、ありません。

 古代の王だと考えると、メンフィスの性格設定は、納得できます。
 古代エジプトに限らず、古代の王家は、どこでも、自分たちの神話を持ちました。神話では、神さまの子孫が王だと語られます。あるいは、人間ではあるけれども、特別に神から王権を授かったとされます。王権神授説ですね。
 神の血を引く人間や、神と特別にお近づきになった人間が、普通の人間と、同じであるはずがありません。現代人なら、神話はフィクションだとわかりますが、古代人は、本気で神話を信じていました。王族と普通の人とは、そもそも違う存在だと、思われました。

 「生まれながらに身分が違う、特別な人間なのだ」と教わって育てられれば、そりゃ、傲慢な人間になりますよね。周囲の人間は、みな自分より地位が低い(と思いこんでいる)のですから、見下した態度になります。
 身分が低い人でも、利用価値があれば、重用するでしょう。でも、利用価値がない人や、愛着がない人は、簡単に切り捨てます。何しろ王さまなので、そういうことをしても、誰にも、罰せられません。
 このように考えれば、メンフィスの傲慢な性格は、古代の王としては、リアルに感じます。

 メンフィスの場合、「俺様男」でも、政治力も武力もある王さまで、かつ美男子で、キャロルを真剣に愛しているので、現代日本の読者にも、許されています。実力が伴わない「俺様男」は、ただの嫌われ者ですよね。

 イズミルも、古代ヒッタイトの王子さまなので、現代人から見れば、傲慢です。けれども、メンフィスと比べれば、優しいですね。
 メンフィスが直情径行型なのに対して、イズミルのほうは、冷静で、ちゃんと考えてから行動するタイプです。キャロルが絡むことになると、冷静さを失ってしまうことが多いのですが(^^;

 メンフィスとイズミルと、二人の強烈なツンデレ王族美男子に愛されるなんて、キャロルは、さすが、往年の少女漫画のメインヒロインです。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『王家の紋章』を取り上げます。

2020年04月22日追記:
 この日記の続きを書きました。
 よろしければ、以下の日記もお読み下さい。

魔法少女の系譜、その127(2020年04月22日)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1975440253&owner_id=25849368

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