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2020年03月01日19:36

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魔法少女の系譜、その115

 今回の日記は、断続的に連載している『魔法少女の系譜』シリーズの一つです。前回までのシリーズを読んでいないと、話が通じません。

 前回までのシリーズを読んでいない方や、読んだけれど忘れてしまった方は、以下のシリーズ目録から、先にお読み下さい。

魔法少女の系譜、シリーズ目録その1(2014年01月22日)
http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=25849368&id=1920320548
魔法少女の系譜、シリーズ目録その2(2018年12月24日)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1969682470&owner_id=25849368

 今回も、『恐竜大戦争アイゼンボーグ』を取り上げます。

 『アイゼンボーグ』は、設定が複雑ですね。途中で設定が付け加えられたり、ちょっと作風が迷走したりしたためです(^^; 基本はシリアスなのですが、途中にギャグ回も入ります。
 このような複雑さは、伝統的な口承文芸が苦手とするところです。大部分の口承文芸は、筋も設定も、単純です。

 しかも、『アイゼンボーグ』では、主役の二人が、サイボーグです。スーパーメカも、登場します。人類の科学力で、スーパーヒーロー/ヒロインを作るというのは、伝統的な口承文芸には、ない発想です。

 『アイゼンボーグ』が放映された昭和五十二年(一九七七年)から昭和五十三年(一九七八年)ころには、ほとんどのテレビ番組が、口承文芸の範囲からは脱していました。十年以上、テレビ番組のノウハウが積み重ねられて、参考にできる先行作品も、多くありました。『アイゼンボーグ』は、口承文芸より、先行するテレビ番組に、大きく影響を受けています。

 すぐに気づくのは、『恐竜探検隊ボーンフリー』の影響ですね。そもそも、『アイゼンボーグ』の企画は、『ボーンフリー』の続編として始まっています。「恐竜」というテーマと、「特撮とアニメとの合成」という表現方法とが、『ボーンフリー』から、直接、受け継がれています。

 「男女二人組が、互いに対等な主人公で、二人とも変身して戦う」のは、『ウルトラマンA【エース】』や『ザ・カゲスター』と共通します。
 さらに、昭和五十二年(一九七七年)当時には、『タイムボカンシリーズ』の『ヤッターマン』が放映を始めて、大人気となっていました。二〇二〇年現在でさえ、『ヤッターマン』は、タツノコプロの代表作の一つと見なされているほどです。
 こうなると、『ウルトラマンA』放映当時のように、「女性の変身ヒロインを、男性の変身ヒーローと対等に扱うには、早すぎる」とは、もう言えません。むしろ、それは、人気を呼ぶ要素と見なされるでしょう。

 『アイゼンボーグ』は、途中で、ヒロインの愛が、大量の電流を浴びる事故に遭います。これをきっかけに、愛は、弱くなるどころか、逆にパワーアップします。それまでになかった高速走行能力や、アイゼンボーに変身する能力を身に着けます。
 「大量の電流を浴びて、超常的な力を得る」点は、『ザ・カゲスター』と共通しますね。この時代―昭和五十年代前半(一九七〇年代後半)―には、電気というものに、まだ、多少の神秘性があったのかも知れません。

 主人公二人がサイボーグなのは、『サイボーグ009』や、『ミラクル少女リミットちゃん』などの前例があります。『仮面ライダー』シリーズ―いわゆる「昭和ライダー」シリーズ―も、改造人間という呼び方になっていますが、サイボーグが主役といえますね。初代『仮面ライダー』の放映が始まったのは、昭和四十六年(一九七一年)ですから、『アイゼンボーグ』より、六年も先駆けています。

 敵役が、地下の世界に棲む恐竜(が変異したもの)という点は、前回、マイミクの中嶋俊樹さんが指摘して下さったとおり、『ゲッターロボ』という前例があります。
 「地下に空洞があり、そこに、地上では滅びてしまった古代の生物が生きている」という地球空洞説は、『ボーンフリー』から『アイゼンボーグ』へと引き継がれています。
 少女漫画の世界でも、『はるかなるレムリアより』が、『アイゼンボーグ』より先に、地球空洞説を取り上げています。

 オカルト学説である地球空洞説が、フィクションに用いられて成功した、最初期の例は、SF小説の『ペルシダー』シリーズでしょう。米国の小説家エドガー・ライス・バロウズの作品です。全七巻のシリーズです。米国で、シリーズ最初の原著が出たのは、なんと、一九二二年です。
 日本語版は、ずっと遅れて、昭和四十六年(一九七一年)に、シリーズ最初の作品『地底世界ペルシダー』が出ました。

 『地底世界ペルシダー』では、デヴィッド・イネスという成人男性が主人公です。デヴィッドは、アブナー・ペリーという技術者とともに、鉄モグラという機械に乗って、地下の探検に出かけます。
 彼らが行き着いたのは、ペルシダーという地下世界でした。地球内部の空洞世界です。地下なのに、小さな太陽が宙に浮いていて、明るいです。そこには、知性を持つ翼竜マハールがいて、マハールたちが、ペルシダーに住む原始的な人類を支配していました。
 マハールは、ジュラ紀後期に実在した翼竜、ランフォリンクスが進化したものと設定されています。

 ペルシダーには、マハール以外の翼竜もいます。他に、陸に棲む恐竜や、海に棲む魚竜や首長竜もいます。巨大な絶滅哺乳類のオオナマケモノ、剣歯虎(サーベルタイガー)、マンモスなどもいます。全体として、時代は混ぜこぜですが、絶滅巨大生物のオンパレードです。

 二十世紀の前半には、もう、「恐竜など、絶滅古代生物がいっぱいの地球空洞説」が、フィクションに使われていました。
 そのうえ、「絶滅した巨大生物が敵役」という点も、すでに、『ペルシダー』シリーズに現われています。シリーズ第二巻の『危機のペルシダー』では、地上に戻ったデヴィッドが、再びペルシダーに赴きます。デヴィッドは、ペルシダーで、原始的な文化しかもたなかった人類を束ね、導いて、翼竜のマハールたちを相手に戦います。

 『アイゼンボーグ』の「地下からやってきた恐竜(が変異して、知性や超能力を持ったもの)が敵役」の原形は、『ペルシダー』シリーズにあります。
 おそらく、最初期に地球空洞説を取り上げた『ペルシダー』シリーズが、たいへん評判になったために、「地球空洞説+絶滅古代生物」という設定が、お約束になってしまったのでしょう。

 『アイゼンボーグ』は、さまざまな先行作品の要素を合わせた上に、「サイボーグのヒロインが、機械と合体してスーパーメカになり、そのスーパーメカを操って、サイボーグの変身ヒーローが戦う」という独自の要素がありました。これだけの要素があれば、人気が出そうですよね?
 ところが、製作側が予想したほどには、人気が出ませんでした。その原因は、いくつか考えられます。

 一つは、特撮部分の恐竜の動きが、『ボーンフリー』と比べて、見劣りしてしまったことです。
 『ボーンフリー』の製作費を圧迫してしまった人形アニメーションは、お金をかけただけあって、昭和五十一年(一九七六年)当時には、画期的になめらかで、自然な動きでした。これと比べると、『アイゼンボーグ』の着ぐるみの動きは、ちゃちに見えてしまったでしょう(^^;

 もう一つ、『ボーンフリー』では救助の対象だった恐竜が、敵役にされたことが、不評でした。
 リアルタイムで『ボーンフリー』と『アイゼンボーグ』を見ていた人たちに聞くと、かなりの割合で、「『ボーンフリー』で一生懸命助けていた恐竜が、いきなり敵役にされて、ばたばた倒されるのに、納得が行かなかった」という意見に遭います。
 子供の目で見ても、『アイゼンボーグ』は、『ボーンフリー』の続編的作品であることに気づいていて、こういう意見が出たようです。特撮とアニメとの合成という、特殊な表現方法が共通していますし、恐竜がテーマなのも共通していますものね。子供でも、気づきますよね。
 実際、放映当初は、こういう意見が多かったために、後半、「じつは、恐竜たちは、ガザリヤ星人に操られていたのであって、真の悪役ではありませんでした」という設定が入れられたそうです。

 『ボーンフリー』が放映されたのは、昭和五十二年(一九七七年)の三月までです。『アイゼンボーグ』の放映は、昭和五十二年(一九七七年)の十月から始まりました。七ヶ月くらいの間があります。
 子供にとっては、七ヶ月は、長い時間でしょう。それでも、『ボーンフリー』の印象が、強く残っていたということです
 つまりは、『ボーンフリー』が傑作過ぎたのですね。商業的には成功しなくても、人の心に、長く残り続ける作品はあるものです。
 二〇二〇年現在では、『ボーンフリー』は、円谷【つぶらや】恐竜三部作―『ボーンフリー』や『アイゼンボーグ』の特撮部分は、円谷プロダクションが撮っています―の筆頭として、マニアに評価が高いです。

 傑作過ぎる前作品のために、『アイゼンボーグ』の視聴率が伸びず、途中で作風が迷走する事態にもなりました。
 後半のアイゼンボーが登場する展開は、良かったのか悪かったのか、今となっては、わかりません。人により、評価が分かれるところでしょう。
 結果的に、『アイゼンボーグ』は、『ボーンフリー』の全二十五話を越えて、全三十九話が放映されました。二クールで打ち切られなかったところを見ると、路線変更が成功したと言えそうです。
 アイゼンボーが登場してからは、同じ円谷プロダクションの『ウルトラシリーズ』との共通点が多くなりました。

 このように、『アイゼンボーグ』は、口承文芸より、先行する創作物語の影響が、圧倒的に大きい作品です。
 そんな『アイゼンボーグ』でも、一つだけ、口承文芸と似た部分があります。「主人公二人が、兄妹である」点です。

 口承文芸で、男女二人組が主人公である場合、その大部分が、「兄と妹」の組み合わせです。まれに、「姉と弟」です。夫婦や恋人や友人同士の男女二人組は、驚くほど少ないです。
 口承文芸のうち、兄と妹の登場する代表的な作品は、グリム童話の『ヘンゼルとグレーテル』でしょう。グリム童話には、そのものずばり『兄と妹』という作品もあります。やはりグリム童話の『十二人兄弟』も、兄の数がやたら多いですが、兄と妹の話です。

 「複数の変身ヒーロー/ヒロインが活躍する」作品で、兄妹が変身ヒーロー/ヒロインであるものとしては、『バトルホーク』が、『アイゼンボーグ』に先行します。
 『バトルホーク』は、昭和五十一年(一九七六年)から昭和五十二年(一九七七年)にかけて放映されました。『アイゼンボーグ』が始まる前に、放映を終えています。
 『バトルホーク』は、特撮作品でした。三人兄妹が、変身して戦います。上二人が兄で、下一人が妹です。

 『アイゼンボーグ』の兄妹設定は、直接、口承文芸に由来するのではなく、『バトルホーク』の影響を受けた可能性が高いです。
 時期的に、『バトルホーク』は、『アイゼンボーグ』の直前に放映されました。『ボーンフリー』と、時期がまるかぶりです。そのうえ、『バトルホーク』と『アイゼンボーグ』とは、放送局が、同じ東京12チャンネル(現・テレビ東京)でした。
 これでは、「影響がない」と考えるほうが、難しいですね。

 『アイゼンボーグ』が、主役二人を兄妹にしたことで、二人の間に恋愛が入る余地はなくなりました。二人の間にあるのは、あくまで、親族としての兄妹愛です。中学生ながら仲良し同士の『ヤッターマン』などとは違うところです。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『アイゼンボーグ』を取り上げる予定です。

2020年03月08日追記:
 この日記の続きを書きました。
 よろしければ、以下の日記もお読み下さい。

魔法少女の系譜、その116(2020年03月08日)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1974916940&owner_id=25849368


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