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2020年02月11日23:07

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【ネタバレ控え目】理知を途中で放棄した迷作/映画『パラサイト 半地下の家族』

■作品賞は『パラサイト 半地下の家族』!アジア単独映画初の快挙&最多4部門受賞【第92回アカデミー賞】
(シネマトゥデイ - 2020年02月10日 13:26)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=14&from=diary&id=5967958

■アカデミー賞4冠を受賞した映画『パラサイト 半地下の家族』。これが韓国の「半地下アパート」の生活実態だ
(週プレNEWS - 2020年02月11日 06:41)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=141&from=diary&id=5968818

■アカデミー賞4部門受賞『パラサイト 半地下の家族』ポン・ジュノ監督&主演ソン・ガンホWインタビュー
(日刊サイゾー - 2020年02月10日 19:13)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=53&from=diary&id=5968481

■吉沢亮「人生で一番好きな映画」語る
(ナリナリドットコム - 2020年02月07日 12:11)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=84&from=diary&id=5964827

 もともとそこそこヒットしてたところに、アカデミー賞受賞のニュースで、劇場はどこも満席状態だそうな。と言うわけで、ものすごく混む前にと思って、昨日、慌てて観に行ってきた。
 で、感想はって言うと、面白い描写はそこここにあるけれど、総体としては失敗作なんじゃないかって思ったんだが――今、このタイミングでそういうことを言うと、てめえ、嫌韓か、と誤解を招きかねないので、ちょっと困っているのである。実際、ネット上では。ネトウヨや嫌韓厨が、観もしないでけなしてるコメントが結構ある。こちらは真面目に映画を観ているつもりなので、そんなアホどもと一緒くたにされるのは迷惑なのだ。
 しかし、実際に他人にお勧めできるほどの映画だとは思えなかったってのが正直な感想なのだから仕方がない。吉沢亮は「笑えるし、泣けるし、ホラー要素があったりサスペンス要素があったり、それがもう完全にどこも邪魔をせずに完璧な調合で成立」と絶賛してるんだが、私の感想は正反対で、それらの要素を詰め込みすぎたせいで、互いに阻害し合って、すっかりとっちらかった映画になっちゃった、としか言いようがないのである。

 そのあたりを具体的に説明したいところではあるが、これから観ようって方も少なくないだろうし、あまりネタバレはしたくない。最初の設定や予告編で分かる程度の展開くらいは書いても問題はないだろうと思うので、大まかな内容を紹介する程度に留めておきたい。
 映画の前半は、半地下に住む貧困層の四人家族・キム一家が、富裕層の家庭にパラサイトしていく詐欺の過程が描かれる。「寄生もの」と言ってよいか、誰かの家庭に入り込んで、その家庭をめちゃくちゃにしていく作品には先例がいくつもあって、日本映画の深田晃司監督『歓待』などもその一つだ。『パラサイト』の場合、その「寄生していく課程」がアイデア豊富で、観客を物語の中にぐいぐいと引き込んでいく。
 従来の「寄生もの」では、自分たちが寄生されていると気づいた「宿主」と、寄生者たちとの間での攻防が描かれるのが定番であったが、『パラサイト』は全く違った意外な展開を見せていく。それを面白いと見る向きが多いからこそ評価されたのだろうが、私はその意外さのために、前半の面白さが相殺されてしまったと思うのである。
 だって、あっちこっちに「矛盾」が生じているのだもの。展開がスピーディーなために、そうした矛盾を気にさせないようにしているのがポン・ジュノ監督の手腕である、と評価することもできる。けれども私の場合は、「これがこうなったらここに矛盾が生じるけれど、どうするんだろう?」と「先読み」をしながら映画を観ているので、「気にせずに済ませる」ことが難しいのだ。
 結局、あっちこっちの「綻び」を解消するために、映画は急転直下の結末を迎える。言っちゃ何だが、収拾がつかなくなって、隕石落として何もなかったことにする落ちとあまり変わりがないって印象だ。実はその手の「いきなり終わり?」って感じの唐突な幕切れでも「名作」と表されてきた映画は結構あって、ソン・ガンホのアップを観ながら、私は思わず「ペキンパー!」と叫びたくなったのであった(苦笑)。
 あちこちに過去の名作映画へのオマージュを捧げてきたジュノ監督の、これも大いなる稚気の表れと見てよいだろう。だからそれを評価する人の気持ちも分からないではないのだけれども。

 そう言えば、貧困層と富裕層の対立と言えば、黒澤明監督『天国と地獄』が想起されるが、ジュノ監督が影響を受けたのは、むしろ宮崎駿監督『未来少年コナン』だそうだ。「富裕層」であるレプカが極めて漫画映画的な悪役だったのに対して、『パラサイト』のパク家は、貧困層を無自覚に差別している愚鈍な人々である。彼らは極めて書き割り的な人物造形がされていて、人間的な魅力に欠ける。そりゃあ、貧困層のキム家の方がよっぽどリアリティがあって生き生きとしている。特に主人公(および語り手)と言ってよい、長男のギウ(チェ・ウシク)の「自己欺瞞」性は、当初は彼の詐欺行為に「頼もしさ」すら感じさせていたものが、後半一転して……という展開には目を見張るものがあったと言ってよい(だから本作を全否定したいわけではない)。
 では、何が「欠点」に感じられるかというと、前半のキム家にまんまと騙されていく中では、パク家の愚鈍さは笑いの対象として受け入れられる。しかし、後半のシリアスな展開においては、彼らは哀れな被害者としか見えなくなっていくことなのだ。
 そうなると逆に、パク家をコケにしていたキム家に対して、素直に快哉を叫ぶわけにはいかなくなってくる。「無計画」という後半のキーワード、知恵が回るはずのキム家の狼狽ぶりに、前半とは正反対の「苛立ち」を感じないではいられなくなっていく。映画をキャラクターへの「感情移入」で見るタイプの観客にとっては、非常に「居心地の悪い」終わり方を示すのだ。
 『パラサイト』を「エンタテインメントとしても優れている」と評価する声は少なくないが、これはエンタテインメントの手法ではないよ。
 ポン・ジュノ監督は、自分の「描きたいもの」を描いたのであって、やはり『パラサイト』は、作家主義の映画なのである。作家主義を優先するあまり、伏線を回収し損なった描写も多く、観劇後は何やかやと隔靴掻痒感が残った。残念ながら、私にはこの映画はあまり合わなかったと言わざるを得ない。かと言って、面白かったって言ってる人の感想を否定する気はないので、頓珍漢なクソリプはご遠慮被りますね。

 『パラサイト』の大ヒットは、作中に登場する「チャパグリ」の売れ行きも上げる効果を生んでいるそうだ。「チャパグリ」は、字幕では「ジャージャー・ラーメン」と訳されていたが、二種類のインスタントラーメン(「チャパゲティ」と「ノグリ」)に肉を混ぜた料理だそうだ。映画のように八分では作れない感じだが、お金持ちの夜食にしては庶民的である。金持ちのくせに、ってのがキム家に恨まれる要因の一つにもなっているのかも。


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