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2020年02月04日22:26

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独り言喫茶へようこそ


レトロモダンな木製扉を開ける。

店内にはクラシック音楽が大きすぎず小さすぎず程よい音量で流れている。

マスターの「いらっしゃい」という言葉に「どうも」と返し、一番奥の4人掛けソファに座る。

ここは「三番館」。

僕の実家のすぐ近くにある純喫茶店だ。



僕は20歳の頃、「マンハッタン」という純喫茶のマスターと店に通う人々との人間関係を描いたヒューマンドラマに憧れ「そうだ!おれも純喫茶に通おう!」と単純に考え自分なりの理想の純喫茶探しの旅に出たのだ。

が結果的にこの旅は二店舗巡っただけで終わった。



なぜならその二店舗目で出会った店こそがここ、三番館。

一目見たときから「この店はいい!」と予感し、店に入るとその予感は確信に変わった。



静かで木目調の落ち着いた雰囲気も、店の奥に置いてある時代錯誤のピンクの公衆電話も、古き良き昭和の香りを感じさせてくれる。

それに加えてコストパフォーマンスまで素晴らしい。



僕がいつも頼むのはトースト(バター、ジャム、シナモンの中から選べる)にゆで卵、それにお好きな飲み物を選んで380円のオールタイムサービス。

コーヒー一杯の値段がこのセットよりも高い店もたくさんあると思う。

そしてさらにこのバタートーストが凄まじく美味なのだ。

大袈裟でなく日本一おいしいトーストだと思う、などと言っては「何を言っているのだ、この若造が!お前は一体どれほど世の中のトーストを知っているというのだ!」とお叱りを受けるかもしれない。

だがしかし、今まで何人もの友人を「日本一おいしいトーストが食べられる喫茶店」と称してここに連れて来たが、皆バタートーストを一口食べると僕の評価が大袈裟でないということは分かってくれ何度も店に足を運ぶようになったのだ。



さて、この「三番館」というお店の魅力は十分伝わったと思う。

こんな素敵な店に偶然にも「理想の喫茶店探しの旅」を始めてすぐに出会えた僕は、「何回来店したら常連になれるのかな?」と考えながら暇さえあれば足繁くこのお店に通っていた。

実際のところあまり流行っている店ではないようで3回目に訪れた時点でもう顔も覚えてもらえ、5回目では名前も覚えてもらえたので、「行きつけの喫茶店」と言えるようになったのはかなり早い段階だったと思う。

そしていつも「オールタイムサービス、ブレンドで」と頼むものだから10回目くらいからは「いつもので?」と聞かれ「お願いします」と返すようになった。



ここからが本題なのだが、当時の僕は「コーヒーが好きだから喫茶店に通う」わけではなく「純喫茶に通いたいから」喫茶店を訪れていた、簡単に言うとコーヒーが苦手だったのである。

「こんな苦い飲み物、飲めるかー!」と砂糖を5杯ほど入れなければコーヒーを飲めなかったのである。

しかしここは落ち着いた大人の店。

コーヒーに砂糖を何杯も入れるようなお子様が来る店ではない、そんな雰囲気が漂っているのでマスターに気付かれないようにこっそりと砂糖をササッと5杯程入れて飲んでいたのだ。

その時に「せめて見た目だけでもブラックコーヒーで」という理由でカップに添えられるミルクはいつも使っていなかった。

そうする内にマスターがコーヒーを運んでくる時に「ミルクはいりませんでしたよね?」と聞いてくるようになり、さらには何も言わずともミルクは添えずにコーヒーが運ばれてくるようになった。

これぞ常連だ!と嬉しくなりますます店を訪れるようになった。



あれから何年経っただろうか?今では僕もすっかりコーヒーが大好きになり、砂糖も一杯だけで飲めるようになった。

(砂糖なしでも勿論飲めるが、やはり少々の砂糖を入れるとなおおいしく頂ける)

さらに「見た目だけでもブラックで!」と言う下らない見栄から拒否していたミルクも少し垂らしてみると非常にマイルドな味わいになり、より一層コーヒーをおいしくしてくれる重要な役割を果たしてくれるのだな、と気付かされた。



実家を離れた今でも時々ここを訪れる。

マスターは相変わらず僕のことを覚えてくれている。「いつもので?」と聞かれ「お願いします」と返す。

しばらくするとマスター「ミルクはいりませんでしたよね?」と言いながら嬉しそうな表情でコーヒーを運んでくれる。

その笑顔を見ると僕は「いや、最近ミルク入れる派になったんですよ」と言い出せなくなるのだ。

そして今日も三番館で砂糖一杯、ミルクなしの見た目だけでもブラックなコーヒーを僕は飲むのである。
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