「原発雑考」第３７９号の転載です。
2020・ 2・5
発行 田中良明
転載自由
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伊方３号 運転差し止め仮処分
1月17日に広島高裁（森一岳裁判長）が四国電力伊方３号機の運転差し止めの仮処分決定を出した。理由は以下の二点である。
�� 伊方原発の沖合600ﾒｰﾄﾙを走る中央構造線が活断層である可能性について、国の地震調査研究推進本部が「詳細な調査が求められる」としているにもかかわらず、四電は十分な調査をしていない。
�� 阿蘇山の「破局的噴火に至らない程度の噴火」でも最大で数十立方ｷﾛﾒｰﾄ
ﾙの噴出物があるので、それを想定した安全性評価をすべきであるのに、四
電はそういう安全性評価をしていない。
�颪砲弔い討蓮�電力会社は、活断層の存在の可能性を指摘されても、十分な調査をせずにその存在を否定することを常としてきた。そういうやり方がはねつけられたのである。
�鬚砲弔い討蓮�2017年にやはり広島高裁の別の裁判長が、阿蘇山の破局的噴火が起きれば伊方まで火砕流が到達する危険性があることを理由に運転差し止めを決定した。この決定は、破局的噴火の頻度は極めて低く、社会通念上それへの対応は考える必要はないという理由で、異議審で取り消された。
今回の決定では、破局的噴火は、世界の終わりのようなもので原発だけ対応を考えても意味がないから、安全性評価をしなくてもよいというのが社会通念であるが、それよりも規模の小さい噴火についてはしっかり安全性評価をすべきだとされたのである。
社会通念を判断基準にすることには反対である（この点については本誌363号を参照のこと）が、この点は措くとして、原発には一般の産業施設にはない特性（稼働を停止しただけでは安全を確保できない、事故が発生した際の被害が隔絶して大きい）があるのだから、破局的噴火より規模の小さい噴火についても安全性評価をしっかり行う必要があるのは当然のことだ。
温暖化と日本
日本は、温室効果ガス（GHG）の累積排出量では世界第６位、現在の年間排出量では世界第５位、一人あたり排出量では世界平均の２倍以上というGHG排出大国である。それにもかかわらず、昨年12月にマドリードで開かれたCOP25で日本政府は脱温暖化への取り組みに消極的な姿勢に終始し、GHG排出削減目標が低いことと、排出係数（発電量1kWhあたりのGHG排出量）が他の電源に較べて突出して高い石炭火力発電に固執し続けていることについて、強い批判を浴びた。
GHG排出削減について、日本政府は、2013年度を基準にして2030年までに26％削減、2050年までに80％削減という２つの目標を掲げている。
第2回世界気候会議が開催され、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第1次評価報告書も発表され、温暖化問題が世界的に大きな関心を集めるきっかけになったのが1990年である。日本政府が掲げる2030年までの削減目標は、脱温暖化元年というべき1990年を基準にすると、わずか18％の削減にすぎない。1990年から40年かけて、これだけしか削減しないということである。なぜこんな惨めなことになっているのか。
福島原発事故で原発が止まったためだという説明をよく聞く。しかしこれは二重におかしい。まず、原発には事故やトラブルによって大規模かつ長期に稼働不能になる危険性があることは、元から分かっていた。そのリスクが福島原発事故によって顕在化しただけである。つまり、原発依存によるGHG排出削減という賭けを選択して負けてしまったのである。賭に負けたことを嘆くよりも、原発依存という選択をしたことを反省すべきなのだ。
つぎに、そもそも福島原発事故以前からGHG排出削減は進んでいなかった。福島原発事故直前の2010年度の排出量は、1990年比で2.3％増である。減るのではなく、増えている。そうなったのは、一つには、原発建設が根強い反対で思うように進まず、そのうえ建設された原発にも事故・トラブルが続出して、原発の発電量が計画したようには延びなかったからである。
もう一つは、石炭火力が大増設されたことである。統計が入手しやすい旧10電力の石炭火力発電量について見ると、1990年の37,258百万kWhが2010年には145,794百万kWhになっている。率にして4倍弱、量にして100百万kWh以上の激増である。同期間に原発は1.5倍弱、約90百万kWhの増に止まっている。原発によるGHG排出削減と称して、実際には石炭火力への依存を強めていたのである。
福島原発事故以降も、そして温暖化問題が新段階に入った現在に至っても、原発と石炭火力への依存が継続されている。もちろんどちらも内外の反対によって思うようには進んではいない。しかしこの方針に妨害されて、省エネと再エネの推進という真に有効な脱温暖化策への転換が阻害されている。
2050年までに80％削減という政府が掲げるもう一つの目標についても問題がある。
まず、2030年までに2013年比26％の削減で、2050年までにそれを80％に積み上げるには、BE（藻などにCO₂を効率的に吸収させる技術）やCCS（化石燃料の燃焼で出るCO₂を回収して地中に貯留する技術）などの新技術が大規模に普及しているか、日本の支援で外国に新型の発電所を建設し、それで削減されたCO₂排出量を日本の削減量としてカウントするしかない。しかし、BEやCCSが2050年までに大規模に普及することは奇跡に近いし、後者の仕組みを公正で世界全体のCO₂排出削減に貢献するように作りあげることは至難の業であり、COP25でも議論はされたが、合意には至らなかった。
さらに、2050年までに80％削減というのは、数年前までは世界標準の目標だったが、温暖化の影響の深刻さが科学的にいっそう明らかになり、それを許容限度内に止めるには2050年までに実質100％の削減が必要とされるようになった。それを受けて国連もすべての国に2050年までに実質100％削減を約束することを求めている。100％削減が新しい世界標準であり、80％削減は時代遅れの代物になっているのである。
日本政府の脱温暖への消極姿勢は産業界の意を汲んだものであるが、このままでは日本の国際的評価は決定的に失墜することになるだろう。そのうえ、脱温暖化のためのエネルギー大転換を推進力とする世界規模のエコノミー大転換に大きく立ち遅れることにもなり、それはすでに斜陽化している日本経済をいっそう衰退させることに繋がるだろう。
日本では政府と産業界だけでなく、社会全体が温暖化問題に極めて鈍感だ。2018年は日本が気象災害世界ワースト１だったとされ、2019年も猛烈台風や記録的豪雨などが続発したのに、それらのことが温暖化と結びつけて議論されることは、政治の場では皆無に近く、マスメディアでもごく少ない。市民の関心も、脱温暖化をアピールするデモの参加者が諸外国に較べて1桁以上少ないことに端的に表されているように、温暖化の影響をもっとも被ることになる若者層を含め、極めて低い。
日本社会全体が温暖化という事実に目を背けているのであり、それは日本社会がはまり込んでいる自閉症候群の一つである。
雑 記 帳
全国的にたいへんな暖冬で、降雪が異常に少なく、代わりにあちこちで集中豪雨が降っている。私の住むあたりは、もともと雪は少なく、積もることは滅多にない。それでもひと冬に一、二回は舞うことがあるのだが、この冬はその気配がまったくない。
庭の鉢の水が凍ることもない。今年は1月20日が大寒だったが、その2日後にはマンサクの花がほころび始め、月末はもう早春の気配だった。
そんななか、メジロが連日庭にやって来る。多いときは一度に10羽ほどにもなり、メダカとヒメスイレンを育てている鉢の縁に止まって水を飲んだり、鉢の中に飛び込んで水浴びしたりしている。まれにつがいのシジュウガラが混じっていることもある。
他方で、このあたりでは小柄な冬鳥の代表格であるジョウビタキをほとんど見かけない。庭にはまったく来ないし、例年なら行くたびに見かける万場緑地にもいない。
万場緑地のネコ 第６話 第２話（372号）で紹介したヤセが、12月の上旬以降まったく姿を見せなくなった。その少し前から居着くようになったネコに追い払われたのだ。ヤセは、気が優しくて人懐っこく、少しとぼけたところもあって、多くの人に親しまれていたので、一時はちょっとした騒ぎになった。どこかで生きておればよいのだが。
こういうことが起きるのは、前号で書いた過密化のせいだ。捨てられるネコが減らないかぎり、これからも同じようなことが起きるだろう。
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