ワールドふれんど

彼らは
表情も言葉も
反対で物を言う

私達は体内の物を
そのまま表現するが
彼らは体内の物は
体内に残して
それとは別の何かで語る

彼らにとっては陰と陽のような
多重人格気質を持ち合わせているのが
一般的で
言葉の綾というか
気持ちの詮索というか
私にとっては中々
読み解くのが難しかったのだが
狂言という伝統芸能があるのも
その繊細な表裏を持つ
民族性があるからだろう

つまり先ほどの私への賛辞も
世辞というやつだよ

ここで人と話す際には
最も気を付けなくてはいけないことだ

かつての偉人はそう述べた



私はひねくれた者だから
実に奥が深い民族性だろう？と
表裏などはないよ
奥が深いんだ と
笑いながら冗談めかして
返してやろうと思ったのだが

笑いながらそれをやってしまうと
それもまた彼の言葉に
当てはまってしまうので
まったくもってその通りだと
頷くしかなかった



そして彼は続ける

ここではそれぞれが
人を欺く心理を持っていて
百の面や催眠グッズを
取っ替え引っ替え付け替えている
表情が色々変わることは通常普通のことだが
ここでは表情変化の７〜８割が
お面によってなされているようだ
表情が色々変わることは通常普通のことだが
ここでは表情変化の７〜８割は
普通とは異なるものである
そしてそれで形成された集団となれば
民族全体の存在がポーカーフェイスというか
大きな詐欺集団のようなものだ

ここに来てから
本気で笑いたいと
苦悩する子と出会うことが増えたのだが
人を騙すには
人を騙す前に
自分を騙さなくてはならない
それを常とする場所で
自分を騙すことを
繰り返し過ぎた結果
本当の自分を見失ってしまったのだろう
詐欺集団の中で
詐欺師の才能がない良い子は
良い子ほど
苦しむようになっているんだ
おかしな話だと思う

彼はそう語った



私はねじくれた者だから
実にしたたかな民族性だろう？と
表裏はないよ
奥が深いんだ と
眉一つ動かさず
瞬きも一瞬もせず
不愉快そうな顔で怪訝そうに
返してやろうと思ったのだが

それをやってしまうと
それはまた彼に悪い印象を
与えてしまうので
いやはやまったくもって
その通りだと
頷くしかなかった

のだが

それをやってしまうことこそが
最も彼の言葉に
どんぴしゃりと当てはまることになるので
もういっそのこと
笑いながら真面目な顔で
呆けたような怪訝な気持ちで
ストレートにふらふらと
その通りだと頷くしかなかった



彼らは
表情も言葉も
反対で物を言う

かつての偉人はそう述べた