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2019年08月13日04:24

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足蹴

思い出した。


わたしは靴を手に取った。

それは出来るだけ
使い古したものの方が好ましい。

だから一番汚れているものを。

そして
汚れた靴のその靴底を胸に当てた。

ほら、
これが足蹴だ。

こうして足蹴にした。
わたしはわたしを足蹴にした。

わたしの白いシャツに
乾いた足跡がついた。

よく着る白いシャツに
汚い足跡がついた。

たぶん手を抜けば
まだ汚れは落ちる。

手加減したいその気持ちを無視し
無情に思いきり何度も
胸に靴底を叩きつけた。

ただ痛かった。
その汚れはただ哀しいものだった。

わたしはお気に入りとしている。
白いシャツをお気に入りとしている。
清潔感がありシンプルで
普段着の中では一番よく手に取る。

少しそこまで行ってくるよ、
なんて時も
大抵白いシャツ一枚に
ジーンズで出かける。

それも相俟って尚の事
好ましいと知っていた。
汚すには好ましいと知っていた。

胸に汚れた靴底を叩きつける度
気持ちが悪くなった。

やり続けているうちに
吐きそうになる。

痛いのか哀しいのか
気持ち悪いのか止めたいのか
どうしてこんなことをしているのか
どうしてこんなことを
させられているのか、
矛盾と強制、否定と無心、肯定と逃避、
多くの感情が渦巻いて
心の整理がつかなくなった時、
大抵人は吐きそうになる。

こうして足蹴にした。

他人から足蹴にされるのは
気持ちの準備が出来ない分
これよりも遥かに悲痛なもの。

ましてその対象が
お気に入りの物どころか
人格そのものの否定だった時、
それは悲痛を超えて最早何も残らない。
良いも悪いも残さない。

人格や命は
洗って汚れが落ちるものでも
買い替えられるものでもない。

そういう領域のものは
足蹴にされるとそのまま
何処かへ飛んでいってしまう。

何処かへ生きる意味ごと蹴り飛ばされて
本当に何も残らない。
残らなくなってしまう。

ほら、
それが足蹴だ。


わたしは靴を手に取った。

それは出来るだけ
使い古したものの方が好ましい。

だから一番汚れているものを。

そして
汚れた靴のその靴底を胸に当てた。

当たり前のことだが
正直やりたくなかった。
だがやった。

そしたらやはり
いいもんなんかじゃなかった。

それをしたって
いいことなんて
これっぽっちもなかった。

それをされたって
いいことなんて
これっぽっちもなかった。



思い出した。
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