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2019年08月01日17:19

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ひげもじゃの男

コアなファンを
多く獲得している
古着屋のひげもじゃの店長と
知り合った

私は階段を登って
アパレルの日陰
に入っただけで
別に素知らぬひげもじゃの男と
待ち合わせなんてしていなかった

私はなんとなく
日陰のアパレル
に入っただけだった

そこに何故ひげもじゃの男がいて
そして何故話しかけてくるのかも
分からなかった

分からなかったので

あなたは誰ですか
そして私に何か用ですか
私はたまたまここに
辿り着いたのですが
あなたとこの空間には
何の関係があるのですか

と聞いた

ひげもじゃの男は1秒ほど
呆気にとられた顔をしてそれから
来たか来たかと口角を
大幅に吊り上げて答えた

この場所が古着屋で俺が店長だからだよ
お客さんだと思って挨拶したんだよ
ただなんというかまあ
キミのそれに合わせるのなら
時代が時代で
権利というものが成立していなきゃ
ここは誰のものでもなく
店屋でも何でもない
ただの空間ということにはなるのかな
そうだとしたら俺はそこにたまたま居た
髭をやたら蓄えた変なおじさんってとこ
そもそも本来空間の在り方は
人が定めていい領分ではないし
キミの言いたいことは分かるよ
ただ
この場所が古着屋で俺が店長だからだよ

私は行う
ひげもじゃの男のこの返答を
耳と頭の半分で処理していきながら
同時に
目と残された頭の半分で
ひげもじゃの外見の確認と
第一印象の把握を行う

対人に於いてのマルチタスクは
先手を打つ危機管理のプロセスだ

分析結果が出る
ひげもじゃ
笑顔が爽やか
背が高く体型は普通
肌は健康的な褐色
目尻の下にマムシの牙ほどの間隔で
2つ黒子がある
麻の服全身コーデ
テンガロンハット
ウッドデッキで裸足
両手の指全ての爪の上に
見たことのない小道具で
固定されたビー球

把握した限りこれは
危険な装いである
特にファッションの点で
ビー球が異様である

ひげもじゃの男が
終始にやにやしたまま
先の返答を言い終える

私の身体はこの場を立ち去る
姿勢に入っていたのだが
ひげもじゃの男の言葉に
少し思うことがあったせいか
頭が立ち去る許可を下さなかった

それでは失礼またいつか
を言いそびれあまつさえ
会話を続けることを選択してしまった

あなたもその人でしたか
空間本来の在り方には形がないこと
権利が空間に生じるわけがないこと
しかし時代が時代ということ
それを感じる人でしたか
ところでその
そのビー球は何なのですか

対人に於いてのマルチタスクは
先手を打つ危機管理のプロセスだ

何を危機とするか
何処からが危険とするか
何処までが興味として許されるかの
程度は自らで定めなくてはならない
マルチタスクを行えば
自動でプロセスが構築され
安全が確保される
というわけではない

私は自ら地雷を踏み抜いた
そのビー球は何なのですか
という最期の一声で
ひげもじゃの男の顔が変わってしまった

その顔付きはもう絶対こう言っている
ビバ天上天下唯我独尊
その質問は一時の売上よりも
大事なことよ
服は人に売るものでもなく
人に着せるものでもなく
服は人に掛けるもの
ハンガーに服を掛ける行為を
そのまま人にするだけよ
服にとって人は
ただの移動型ハンガーだ
だから私がお客さんに
着こなし方の話を
自ら持ちかけることはないし
売り込みをすることもない
ただお客さんが
服を大事に掛けてくれる
ハンガーであればいいとしか
思わない
そしてその大事にするという行為は
人に薦められたものよりかは
自ら気に入って選んだものの方が
発生しやすい
だから私が服とお客さんの
仲に割り込んでするべきことはない
私はまず私を売り込むことを考える
そしてその質問は一時の売上よりも
大事なことよ

間違いなくそう言っていた
絶対
もう絶対にそう言っていた

だって足の指に力が
入っていたもの
親指が90度近く曲がっていたもの
なんか ふっ て小さく鼻息漏らしたもの
目を凄まじく丁寧に磨き上げられた
青銅鏡のように輝かせながら
よくぞ聞いてくれましたって
私の肩を叩いて言ったもの

これはねカエルの手を
イメージしてるんだよ
俺が子供の頃好きだった絵本に
テンガロンハットを被った
カエルのフロッギーっていうのが居てね
そいつがまた
その名の通りなんか頼りなくてね
けどどうにもならない程切羽詰まったり
仲間が危ない目に遭ったりすると
火事場の馬鹿力って言うのかな
自分の手の届く範囲で起きることは
全て自分のすべきことなんだって言って
必ずその危機を切り抜けるんだよ
それが格好良くってね
それって格好いいでしょ
そういう人になりたくてさ
普段はよく分からない人だったり
真面目に見えない人でも
実はちゃんと目的や
考えを持っていて
それに基づいて行動している人で
居ようって
それを忘れないようにする為に
この格好をしているんだよ

そう熱く語ってきたもの

私はやってしまったと思った
当初はそう思った
思ったけれど
地雷を踏み抜いたものの
爆発の最中
その爆音の理屈を耳にしていたら
なんだかんだ踏み抜いて
良かったのかもしれないと思えた

マルチタスクで先手を打った
危機管理で間違った
安全の確保に失敗した
しかしそれで良かった

予想に反する答えに
繋がる心の構築を想定することも
とても難しいものである

私は階段を登って
アパレルの日陰
に入っただけで
別に素知らぬひげもじゃの男と
待ち合わせなんてしていなかった

私はなんとなく
日陰のアパレル
に入っただけだった

そこに何故ひげもじゃの男がいて
そして何故話しかけてくるのかも
分からなかった

私はそこで知り合った
誰のものでもなく
店屋でも何でもない
ただの空間で知り合った
本来の空間で素知らぬ男と知り合った

コアなファンを
多く獲得している
古着屋のひげもじゃの店長と
知り合った
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