コアなファンを
多く獲得している
古着屋のひげもじゃの店長と
知り合った
私は階段を登って
アパレルの日陰
に入っただけで
別に素知らぬひげもじゃの男と
待ち合わせなんてしていなかった
私はなんとなく
日陰のアパレル
に入っただけだった
そこに何故ひげもじゃの男がいて
そして何故話しかけてくるのかも
分からなかった
分からなかったので
あなたは誰ですか
そして私に何か用ですか
私はたまたまここに
辿り着いたのですが
あなたとこの空間には
何の関係があるのですか
と聞いた
ひげもじゃの男は1秒ほど
呆気にとられた顔をしてそれから
来たか来たかと口角を
大幅に吊り上げて答えた
この場所が古着屋で俺が店長だからだよ
お客さんだと思って挨拶したんだよ
ただなんというかまあ
キミのそれに合わせるのなら
時代が時代で
権利というものが成立していなきゃ
ここは誰のものでもなく
店屋でも何でもない
ただの空間ということにはなるのかな
そうだとしたら俺はそこにたまたま居た
髭をやたら蓄えた変なおじさんってとこ
そもそも本来空間の在り方は
人が定めていい領分ではないし
キミの言いたいことは分かるよ
ただ
この場所が古着屋で俺が店長だからだよ
私は行う
ひげもじゃの男のこの返答を
耳と頭の半分で処理していきながら
同時に
目と残された頭の半分で
ひげもじゃの外見の確認と
第一印象の把握を行う
対人に於いてのマルチタスクは
先手を打つ危機管理のプロセスだ
分析結果が出る
ひげもじゃ
笑顔が爽やか
背が高く体型は普通
肌は健康的な褐色
目尻の下にマムシの牙ほどの間隔で
2つ黒子がある
麻の服全身コーデ
テンガロンハット
ウッドデッキで裸足
両手の指全ての爪の上に
見たことのない小道具で
固定されたビー球
把握した限りこれは
危険な装いである
特にファッションの点で
ビー球が異様である
ひげもじゃの男が
終始にやにやしたまま
先の返答を言い終える
私の身体はこの場を立ち去る
姿勢に入っていたのだが
ひげもじゃの男の言葉に
少し思うことがあったせいか
頭が立ち去る許可を下さなかった
それでは失礼またいつか
を言いそびれあまつさえ
会話を続けることを選択してしまった
あなたもその人でしたか
空間本来の在り方には形がないこと
権利が空間に生じるわけがないこと
しかし時代が時代ということ
それを感じる人でしたか
ところでその
そのビー球は何なのですか
対人に於いてのマルチタスクは
先手を打つ危機管理のプロセスだ
が
何を危機とするか
何処からが危険とするか
何処までが興味として許されるかの
程度は自らで定めなくてはならない
マルチタスクを行えば
自動でプロセスが構築され
安全が確保される
というわけではない
私は自ら地雷を踏み抜いた
そのビー球は何なのですか
という最期の一声で
ひげもじゃの男の顔が変わってしまった
その顔付きはもう絶対こう言っている
ビバ天上天下唯我独尊
その質問は一時の売上よりも
大事なことよ
服は人に売るものでもなく
人に着せるものでもなく
服は人に掛けるもの
ハンガーに服を掛ける行為を
そのまま人にするだけよ
服にとって人は
ただの移動型ハンガーだ
だから私がお客さんに
着こなし方の話を
自ら持ちかけることはないし
売り込みをすることもない
ただお客さんが
服を大事に掛けてくれる
ハンガーであればいいとしか
思わない
そしてその大事にするという行為は
人に薦められたものよりかは
自ら気に入って選んだものの方が
発生しやすい
だから私が服とお客さんの
仲に割り込んでするべきことはない
私はまず私を売り込むことを考える
そしてその質問は一時の売上よりも
大事なことよ
間違いなくそう言っていた
絶対
もう絶対にそう言っていた
だって足の指に力が
入っていたもの
親指が90度近く曲がっていたもの
なんか ふっ て小さく鼻息漏らしたもの
目を凄まじく丁寧に磨き上げられた
青銅鏡のように輝かせながら
よくぞ聞いてくれましたって
私の肩を叩いて言ったもの
これはねカエルの手を
イメージしてるんだよ
俺が子供の頃好きだった絵本に
テンガロンハットを被った
カエルのフロッギーっていうのが居てね
そいつがまた
その名の通りなんか頼りなくてね
けどどうにもならない程切羽詰まったり
仲間が危ない目に遭ったりすると
火事場の馬鹿力って言うのかな
自分の手の届く範囲で起きることは
全て自分のすべきことなんだって言って
必ずその危機を切り抜けるんだよ
それが格好良くってね
それって格好いいでしょ
そういう人になりたくてさ
普段はよく分からない人だったり
真面目に見えない人でも
実はちゃんと目的や
考えを持っていて
それに基づいて行動している人で
居ようって
それを忘れないようにする為に
この格好をしているんだよ
そう熱く語ってきたもの
私はやってしまったと思った
当初はそう思った
思ったけれど
地雷を踏み抜いたものの
爆発の最中
その爆音の理屈を耳にしていたら
なんだかんだ踏み抜いて
良かったのかもしれないと思えた
マルチタスクで先手を打った
危機管理で間違った
安全の確保に失敗した
しかしそれで良かった
予想に反する答えに
繋がる心の構築を想定することも
とても難しいものである
私は階段を登って
アパレルの日陰
に入っただけで
別に素知らぬひげもじゃの男と
待ち合わせなんてしていなかった
私はなんとなく
日陰のアパレル
に入っただけだった
そこに何故ひげもじゃの男がいて
そして何故話しかけてくるのかも
分からなかった
私はそこで知り合った
誰のものでもなく
店屋でも何でもない
ただの空間で知り合った
本来の空間で素知らぬ男と知り合った
コアなファンを
多く獲得している
古着屋のひげもじゃの店長と
知り合った
ログインしてコメントを確認・投稿する