著書からは、秀才の主張。
『思考の整理学』著者・95歳“知の巨人”外山滋比古が語る「脱線のすすめ」
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2019年06月26日 07:12 ITmedia ビジネスオンライン
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写真悪いことは一種の楽しみ
悪いことは一種の楽しみ
大学生のバイブルともいわれ、東大生や京大生から根強い支持を集める『思考の整理学』(ちくま文庫)。今から30年以上前に発刊され、以降240万部を記録した大ベストセラーだ。コンピュータが社会で大きな役割を果たす時代の到来を予見し、暗記・記憶中心の学習よりも自ら考えることの大切さを説いた。
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著者である外山滋比古さんは、95歳の今でも研究を続ける「知の巨人」だ。ペリカンの万年筆で毎日執筆を続けているという。今月上梓した『100年人生 七転び八転び――「知的試行錯誤」のすすめ』の中から3回シリーズで、外山さんの歩んできた道のりとそこで考えた哲学、そして読者へのメッセージをお届けする。
第1回目の前編では 「脱線のすすめ」と題して、人生を面白く生きるための思考法を紹介する。「『年をとると1年がとても早くなる』と聞くけれど、早く感じる人はおそらく、まだ“悪”が足らないのでしょうね」と、外山さんは言う。常識から脱線する意義について語ってもらった。
●面白いことがあれば大丈夫
いつのまにか95歳になりました。生まれは大正12(1923)年、戦前です。90代になったら違った境地になるかとか、新たなものが見えてくるかとか聞かれることがありますが、いくつになってもあまり変わりません。
戦争を体験してきたので、こどものころから、とにかく命が大事と思ってきた。その思いはいまでも変わりません。
命が大事で、それに比べれば社会的な評価や職業などは、だんだんどうでもよくなってきます。ある程度のたくわえも必要だから、いちおうの準備はしておく。これもそのうち、もうこれ以上カネをためる必要はないという境地になってくる。
すると、面白いこと、明日が楽しみというものがあるかないかで、年のとり方が大きく変わってくるのです。
「100歳まであとどれくらい」と言われても、数字はあまり当てにならないからね。その気があってもなくても、生きるときは生きる。
何でもいいんですが、面白いことがあれば、あまり年を気にしなくなるんじゃないか。年を気にしないのが、いちばんいい年のとり方じゃないかと思います。
知的なものは知識が中心で、文法でいうと過去形。昔の事実、あったことを基本にして考えるものです。
でも、頭は過去形だけでなく、現在形でも未来形でもはたらきます。むしろ、未来形で頭がはたらくほうが面白いことが出てくるのです。
●1年が早い人は“悪”が足りない
最近は人間がちょっと小さくなっているように感じます。やっぱり人間はいろいろ雑多なものを経験したほうがいい。ウソも必要だし、ある程度の悪さもしなきゃダメです。
悪いことは一種の楽しみ。面白いのです。いいことばかりしていたら人間がダメになります。
道徳的に見れば問題のあることを考えたとしても、思考という点においては、人は自由であり、責任を問われない。
「年をとると1年がとても早くなる」と聞くけれど、そうでもあり、そうでもなしです。
早く感じる人はおそらく、まだ“悪”が足らないのでしょうね。
もうちょっと悪いことをすると、けっこう長くなってきます。常識といわれていることを外れると、やっぱり人は緊張しますからね。一瞬一瞬が濃く、味わい深くなるのです。多少悪いこと、よくないこと、恥ずかしいことをやらないと、退屈でボケちゃいますよね。
●混ざりものがあるから「18金」は強い
親鸞が「善人なをもて往生をとぐ、いはんや悪人をや」(悪人正機)と、悪人こそが救われるといいましたが、これは本当だと思います。
いいことばかりしている人は、自分がえらいと思い込んでしまって努力をしなくなるから、本当の意味でえらくなりません。
自分を顧みる力、自分には悪いところがあると感じられるのは、やっぱり“悪人”。悪人は悪いことをするから、つねに緊張しており、安住していないのです。
若いときは失敗やマイナス経験といった悪いこと、致命的にならない程度の悪いことを経験したほうがいいんじゃないかと思います。
いわゆるエリート、優等生は、悪いところが少ないから、人間的に浅くなります。人生の途中で力を失ってしまうのは、“悪”が足りないからです。
金でも24金の純金は弱くてダメです。18金ぐらいがいい。つまり、25%の混ざり物を入れることで耐久性が出て、はじめて金としていろいろ加工できるのです。
●いくつになっても「脱線」のすすめ
電車は脱線すると困るから、できるだけ脱線しないように走ります。でも、人間の頭は脱線しなきゃダメなんですよ。
人のつくったレールを行けば、終点まではたどり着けるけれども楽しくない。脱線しなければ、いつも後をついていくだけ。絶対に前を追い抜けない。ずっと脱線しなかったら、最後までビリのままです。
だから、脱線や失敗ということに非常な意味があることが、ユーモアを解するようになるとだんだん分かってきます。
善悪を超越したところに新しい人間の価値があり、それは道徳的に非常にいいとは限らないけれども、面白い。
人間にとっての生きがいとなる、大きなもののひとつは面白さ。面白いことがあるというのは、非常な生きがいですよ。
常識的に考えれば脱線はよくないことだけれど、生き方としては、新しいことをするには脱線するしかないのです。コツコツと一生懸命やることがいちばんいいと思ってる人が多いわけですが、それとはまったく違うところに、人生の面白さがあるのです。
いわば「脱線のすすめ」。いくつになっても、どんどん「脱線」しましょう。
一見すると反社会的に見えるかもしれませんが、脱線する人がいないと新しいものが出てきませんから、世の中が成り立たないのです。(外山滋比古・談)
本記事は、書籍『100年人生 七転び八転び――「知的試行錯誤」のすすめ(著・外山滋比古、さくら舎)』の中から一部抜粋し、転載したものです。
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【中編】95歳“知の巨人”外山滋比古が歩んだ「反常識人生」
【後編】95歳“知の巨人”外山滋比古が「留学」を選ばなかった理由
【前編】『思考の整理学』著者・95歳“知の巨人”外山滋比古が語る「脱線のすすめ」
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