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2019年06月15日19:02

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うちには、天使がいます。 16.手術室へ

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<前回までのお話>
2018年(執筆している時点で去年)4月初め、
やまねこのパートナー・ゆかさんは卵巣に腫瘍が見つかり、悪性の疑いを指摘され、
4月24日火曜日には自宅で脳梗塞を起こして救急車で病院に搬送されました。
腫瘍の引き起こす脳梗塞、いわゆるトルソー症候群でした。
翌日から入院、卵巣腫瘍の手術まで抗凝固剤の治療を受けることになりましたが、
29日、2度めの脳梗塞。激しい発作を起こしてしまいます。
ゆかさんは個室に移動し、その夜からやまねこも泊まりこむことになり、
腫瘍の手術予定は大幅に早まって、5月2日に決まりました。
(なお、病院関係者のかたがたほかの名前は、すべて仮名です)



5月2日の朝が明けました。
やまねこが目を覚ますと、
看護師さんたちがいつもの朝と同じように、
ゆかさんの熱や血圧を測ったり、忙しく動き回っていました。
ゆかさんも、今日もとてもおだやかな表情で朝を迎えていました。
「おはようゆかさん」
「おはようねこさん」
いつもとほとんど同じ朝でしたが、
どことなく緊張感というか、落ち着かない空気が漂っているようにも感じられました。
先生たちも入れ替わりに顔を出してくださって、
いつもより往来が多く感じられました。

何本もつながった点滴も朝に交換されますが、
そのうちのひとつ、大きな注射器のような抗凝固剤が今日は外されました。
これから数時間、手術の出血に耐えられる程度まで効き目が弱まっていくはずです。
同時に脳梗塞の再発の危険が高まっていくのです。

いよいよ、今日が動き出しました。
関わるものすべてが、13時から予定されている手術に向けて動いていきます。


その前に、やまねこは今日も、
メイさん(ねこ)にごはんをあげるために、いったん帰ります。
ごはんだけなら、かりかりを多めに置いてあげておけば、一日一回でもいいのですが、
きのう誕生日を迎えて17歳。あちこちがたが来ていて、
朝晩、腎臓と肝臓の薬をあげないといけないのです。

車でうちへ―メイさんはいつもと変わらず、キャットタワーに登り、
顔を近づけてきます。なでると目を閉じます。
けっしてなにかをしてくれるわけではないのですが、
今までも、どんなときでも、
メイさんはやまねこの支えであり続けてくれました。
「メイさん、今日ゆかさん手術だよ。
またここに帰ってこられるように、メイさんもここから応援してて」


病室に戻ると、やはりゆかさんは笑顔で迎えてくれました。
おなかの痛みもおさまって、落ち着いているようです。
むしろやまねこのほうが落ち着いていなかったかもしれません。
「ゆかさんがなんとか無事で戻ってこられますように」という祈りと、
「無事に終わるとは限らないのだ」という現実が、
波のようにくりかえし押し寄せてきます。


しばらくすると、初めて見る先生が病室に来て、あいさつしました。
麻酔医の先生でした。
慌ただしく、立ったままでしたが、
手術時の麻酔について説明してくれました。
「今日の手術は全身麻酔で行います。
通常は脊髄から麻酔を入れるのですが、
脳梗塞のある場合、それができないので、
点滴の形で血管から入れます。
ひょっとしたら、すごく痛みが強くなるかもしれません。
その場合は麻薬を使うこともあり得ます。
常時状態をモニターして、途中で目が覚めたりしないように、
また効きすぎないように量をコントロールしながら、ずっと流し続けます」

ゆかさんも一緒に聴いていました。
先生が戻ったあと、もういちど軽く説明すると、
「あんまりわからなかったけど、だいじょうぶよ」と言いました。
「わたしね、心臓の手術のとき、途中で目覚めたの」
「え?」
「目が覚めてね、身体の感覚は全然なくて、もちろん動くこともできなかったんだけど、
なんか縫合してるみたいだった。
麻酔の先生も気づいたみたいで、またすぐ寝ちゃったけど」
「そんなこともあるんだ…」

ゆかさんが今までやまねこの知らないたくさんの経験をしてきて、
今また経験しようとしていること。
手術室に入ってしまえば、やまねこにできることはなくなってしまい、
先生がたにお任せすることしかできないのだ、とあらためて感じました。
せめて今、少しでも安心してもらうことくらいしか。
「大丈夫。きっと大丈夫。
麻酔の先生もしっかりモニターしてくれるって言ってるし。
葛西先生も、なんか話聞いてると手術ばっかしてるし。
きっと慣れてるよ」(根拠はありません(^^ゞ


続いて、脳神経内科の平良先生がみえて、
「だんなさん、少しよろしいですか?」と、
別室、カンファレンスルームという小さな部屋に呼ばれました。

平良先生はまだ若い女性の先生なのですが、
とてもてきぱきとした話し方をするかたでした。

「これから卵巣の手術とのことで、
少し奥さんの脳のことについて説明しておきますね。
脳の血液は、後ろから前へ流れている部分と、前から後ろへ流れている部分があって、
奥さんの場合、噛まれている―
梗塞を起こしてつまってることをこういう表現するんですけど、
もちろんたくさんの部分が同時に噛まれているんですが、
主に噛まれているのは、後ろから前に流れてる部分なんですね。
(ここはひょっとしたら逆だったかもしれません)

ご存じのようにすでに血液さらさらのお薬は止まっています。
手術が終わってしばらくの間は止まったままです。
その間、新たに脳梗塞を起こす可能性についてはお聞きになってると思いますが、
呼吸の中枢があります。そこは前から後ろへの流れなので、
たぶん大丈夫だとは思うのですが―
止まってしまう可能性は、0ではありません」

「はい」

「とにかく、今は何が起こっても不思議ではないです」

平良先生は、訴えかけるように、そう言いました。

覚悟は、必要でした。覚悟と、祈り。


昼近くなって、母がやってきました。
半年前から、つい最近まで外では車椅子での移動しかできなかったのですが、
タクシーで自力でやってきました。
こんな事態になってではありますが、というか、だからこそなのかもしれませんが、
動けるようになってきたのは悪いことではないと思うのです。


まるで考える余裕を与えないかのように、
慌ただしくてきぱきと時間が過ぎて、
あっという間に13時が近づき、
主治医の葛西先生もやってきて、
ゆかさんの体中につながっていた線やチューブが取り外されていきました。

ゆかさんはにこにこ笑ったまま、身を任せています。
やまねこも、母も、手を出せることとてなく、
「大丈夫?」
「大丈夫」
「きっと大丈夫」
どちらからともなく、繰り返していたように思います。


「それでは行きましょう」
ベッドが動き始めました。
葛西先生と看護師さんがふたり、母とやまねこもついていきます。
ゆかさんは3日ぶりに病室を出て、廊下を進み、
ベッドのままエレベーターに乗りました。
全員が乗るとぎりぎりの広さでしたが、手術室のフロアまで。

初めて来たフロアでした。
今まで見てきた外来や病棟のフロアと違い、あまり人の気配がありません。
静かな廊下のいちばん奥にドアがありました。

ドアの中は、まぶしいほどの白い照明でした。
入ってすぐのところはちょっとした控室のようになっていて、
その奥に間仕切りがあり、その先が手術室になっているようでした。
手術室つきの看護師さん、そして麻酔医の先生が待っていました。
看護師さんが交代します。

「きっと大丈夫」
「うん、大丈夫!」
ゆかさんは満面の笑みを浮かべたまま、手を振ってくれました。
そしてベッドはそのまま間仕切りの先を曲がって、見えなくなりました。

(続きます)





<うたうやまねこ今後のLIVE予定>

  6/16(Sun.)駒沢大学ファンラン
  Open11:00/Start14:00(予定)/Charge お食事代のみ

  6/29(Sat.)四谷天窓.comfort → http://otonami.com/com_top
  Open12:30/Start13:00/Charge \2,000+1D

駒沢大学ファンラン、明日になりました。


すてきなお惣菜やさん兼カフェで、お食事しながら聴いていただけます。
お食事代だけで楽しんでいただけますので、
お気軽に遊びにきてくださいね。
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