健常者の眼に身障者は映らない

■「車と車の間に無理矢理停めるのやめて」車椅子ユーザーが切実な訴え　身障者用駐車場の斜線部分は乗り降りに必要なスペース
(BIGLOBEニュース - 06月07日 19:02)
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　車椅子は時々使っているが、買い物用の簡易なものなので、折り畳みも可能、車からの出し入れにそれほど苦労はなくて済んでいる。
　買い物などの外出は、混雑しない時間帯を選んでいるので、身障者スペースに駐車することもない。
　妻兼運転手(笑)である相方は、「身障者手帳が取れたら堂々と停められるのに」と言うのだが、私の場合、寝たきりとは言っても薬を使えば短時間なら立って歩くこともできるので、認定は難しいのである。薬を完全に止めたらどうかって考えたこともあるが、そうなると外出自体、ほとんど不可能になるので、駐車スペース云々の話ではなくなってしまう。
　言ってみれば「身障者寄りの健常者」であるので、できるだけ身障者スペースを侵害しないようにと心がけてはいるのだ。もっともトイレは手すりがないと怖いので多目的トイレを利用するし、バスや電車で優先席が空いているときは座りはするけれど。

　あまり満席の駐車場に出逢ったことはないので、身障者スペースにまで健常者の自動車が出張って駐車しているかどうかまではよく知らない。先述した通り、余裕のある時間帯に出掛けているので、だいたい身障者スペースは空いていることが多い。ルールを守れていないのは、やはり満車でどうにも場所がなくて仕方なく、というケースが多いのだろう。

　となると、誰でも一回や二回くらいは身障者スペースに車を停めたことがある、と告白するコメントがあってもよさそうなものだが、それが全くと言っていいほど見受けられない。みなさん、堂々と禁止されている場所に駐車している人たちを貶しまくっているが、何だか自分を棚に上げて宣っていらっしゃるのではないかと疑問に思う。
　もちろん、身障者スペースなど要らないとか、身障者はオモテに出てくるな、なんて明からさまな差別発言をしている人間はごく少ないのだが(炎上が怖いのだろう)、内心、そう思っているにもかかわらず、偽善の仮面を被っている人間も少なくないと思う。

　エスカレーターに杖を突いて乗っていると、右隣を猛烈な勢いで昇っていく人に出くわすことはしょっちゅうだ。引っかけられそうになって本当に危ないから止めてほしいのだが、実際の話、自分が急ぐことを優先している人の方がマジョリティなのである。
　そんな人たちにとっては、老人や身障者は家の中に引っ込んでいろ、外に出るなと考える方が「常識」なのだと思う。

　一昔前のことになるが、東京で休日の渋谷の混雑に出くわしたときに、ここで車椅子に乗ることはまさしく自殺行為だなと思ったことがある。往来の人々も、相手を避けようとする気配も見せずにぶつかってくる。まるでそこに人がいないように感じているみたいだ。
　殊更に都会人の心の冷たさを糾弾したいとは思わない。田舎の方が人の心は温かいというのは幻想だ。
　けれども、東京という街が、身障者にとってはバリアフリーとは程遠い、住みづらい場所であることは間違いない。杖を突いて歩いていると、対向してやってくる人が、本当に蔑むような冷たい視線をこちらに向けてくるのが痛くて堪らないんだよ。本人は無意識でやってることなんだろうけれど、人間扱いされている気がしない。

　「あなた」は、そんな眼を身障者に向けたことはないと断言できるだろうか？

　本当に、言葉通り、身障者スペースの駐車に憤っているのなら、その車の主に注意するなり、その駐車場の管理者に通報するなりしてみた、というコメントがあってもよさそうなものである。ところがそんな書き込みは全く見受けられない。ただ駐車した人間を悪しざまに罵っているだけである。
　ヘイトスピーチを見かけたら「通報しました」と書き込む人が少なくないのに、身障者をないがしろにする記事について、自分はどう対応したかをコメントする人がいないというのはどういうことなのだろう？　何もせずに見て見ぬふりをしてきたということではないのか？
　「偽善の仮面を被っている」という非難を、人間不信にすぎると感じている方もいらっしゃるかもしれないが、実際に何一つ気遣われない経験を重ねられると、人間なんて、こんなものなんだろうなという荒んだ気分にならざるを得ないのである。

　と、こういうことを書くと、甘えるなとか、体がよくないことを盾に特権を主張しようとするなとか、腐ったツッコミをしてくるアホンダラがやたら出てくるんだけどね。ああ、やっぱりこいつらは、本音では身障者を邪魔者扱いしかしてないんだなって思うだけである。
　誰が特権を主張しているか。記事にもある通り、身障者スペースでないと昇降に問題が生じるから、そこをちゃんと利用できるように空けておいてほしいと思っているだけだろうがよ。

　禁止スペースに駐車しているのを発見した時点で罰金、という制度を取れば、多少は違反駐車を減らせるかもしれない。けれども何万円も取れるわけではないだろうし、多少の罰金でも停めちゃう人間は停めてしまうだろうから、劇的な効果は得られないだろうとも思う。違反者の良心とかモラルとかに期待してもまず無理。
　結局、「混雑しそうな時間帯を避ける」くらいしか対応のしようがないのかなと、諦観するしかないのだ。いやもう本当に外出時間が少なくなって、脚が腐りそうなんだよ(比喩ではない。そういう病気なんです)。世の中、なかなか優しくならないねえ。