《 �機ジ纏�記・日本書紀・続日本記 》
日本の国の成り立ちと、この国の法制度やここに暮らす人々の営みや歴史を記述する書を「国書」と言うのだろうか。
「１．古事記」
まず、推古天皇の時代（二十八年十二月一日６２０）に仮に「第一・始源古事記」編纂の試みが聖徳太子と蘇我馬子らにより「(略)天皇記および国記、臣・連・伴造・国造など、その外多くの部民・公民らの本記を記録した。(略)」ことによりあった。 （日本書紀ｐ．１１０）
しかしこれは聖徳太子の亡き後、また蘇我馬子・入鹿の討伐の後、灰塵に帰してしまった可能性がある。
このことは「諸王家が伝えている帝記・旧辞」の、家系誌の記録の政治的意図に気づかせただろう。自らの出生・出自を脚色・捏造する者を輩出することになる。
では、後の皇極天皇・舒明天皇・皇極天皇・斉明天皇・天智天皇の頃に、この作業は中止していたのだろうか。いや、いよいよ煩雑さを極めてきたのかもしれない。これを仮に「第二・古事記」としよう。壬申の乱以前の大津の宮にても天智天皇の後を継いだ実子・大友皇子は何かの形でこの作業を継承していただろう。しかし壬申の乱にて大津の宮も「第二・古事記」もまた灰塵に帰してしまった。しかしそれは新しい時代を創造するための意図的な破壊工作であったかもしれない。
壬申の乱の後に、仮に「第三・古事記」の編纂には天武天皇が、（日本書紀）天武天皇記十年三月十七日に川島皇子など六皇子、上毛野君三千など六人の臣下に、「(略)詔して、帝記および上古の諸事を記し校訂させられた。大嶋・子首が自ら筆をとって記した。」とある。
諸王家が伝えている帝記・旧辞を編纂し誤りを正し、後の世に正しく伝えようとの政治的な発案であった。壬申の乱に勝利した後には政界は大きく氏族・豪族の交代劇が起きている。信賞必罰があればこのことは書き換える必要がある。しかし作業途中に天武天皇は亡くなられ、これは一旦は中断することとなる。
しかし、ならば後の持統天皇・文武天皇の時代にこの作業は中断していて良いだろうか。いや継承されていたとみるべきだろう。およそ大津の宮で灰塵に帰した古事記編纂の資料は当てに出来ず、新たに回収していただろう。氏族・豪族にては新たな地位の獲得の機会でもある。皆が家系を良く書き、捏造する機会でもあるし、新人・新王であれば進んで提出もしただろう。
「第一・第二・第三の始源古事記」これはそのまま私たちの時代には伝わらない。私たちが目にすることのできる「古事記」（フルコトブミ）は、後に元明天皇が和銅四年（７１１）九月に太安万侶に古事記の完成を命じられ、稗田阿礼が活躍（誦習）して、明けて和銅五年正月にこれは完成したものである。元明天皇には天武天皇の遣り残した仕事を四ヶ月で完成させる必要があったのだろう。
太安万侶・稗田阿礼は天武天皇に良く遣えていたのだろう。これを「天武本・古事記」とするのに私も同意する。
（ 『国民の歴史４・大仏開眼』 文永堂 上田正昭 ｐ．７６ ）
この「天武本・古事記」は三巻から成る。上巻には神代のことが書かれ「創世神話」の趣を持ちつつ、神々の暮らす世界と秩序がそこに描かれる。
中巻には神武天皇から応神天皇まで、下巻には仁徳天皇から推古天皇までの活躍と事績が記されているが、神々の秩序が人間世界にも演繹されてゆく。
そしてここに仁賢天皇以降十代は帝記の記述のみとなり、皇統の系譜を辿ることに「天武本・古事記」の意図が明確に示されている。このことが元明天皇には日本書紀の完成より先に必要だったのだろう。それは日本の国家建設の礎ともなり、未来にどのような光彩を放つのだろうか。
しかし古事記は「勅撰史書」とはならなかった。たぶん朝廷内よりも反論が出た。諸氏族・豪族の承認できるものでもなかったのだろう。まだ政治的な問題を孕んでいたのだろうと推測する。古事記に記載される氏族総数は二百一であり、壬申の乱に活躍した「勝組み」氏族が多く登場する。
古事記にては世界の始源は天より始まり、天の神が地上におりて人間世界を開始してゆく。神々を代表するのは天照大神であり神の系譜を展開する。その地上での神の子の第一子が神武天皇であり、皇統系譜はここよりして日本社会に 展開されてゆく。このことは神の世界と人間世界を貫き継ぎ、人の世の歴史を連綿と紡いでゆくことが一貫されている。そうするならば、この頃の豪族社会ではこの皇統系譜のどこに位置を得るのかが重大事となる。
古事記には「造化の参神」として天の三柱の神＝天の御中主の神・高御産巣日の神・神産巣日の神が主要位置となるが、日本書紀にてはその位置は「国の常立ちの神」に採って替えられている。このことは「高天原の神々」が「出雲の神々」を顧慮していることでもある。
「諸王家が伝えている帝記・旧辞」は豪族の自己主張と根拠であり、これが「古事記」との整合性と位置との上で問題となり、このことにより勅撰史書とはならなかったのだろう。
後の「新撰姓氏録」にても豪族の氏姓の整理同定が国家の権威をもってしても至難なことが記されている。このことは「壬申の乱」の余韻もあり、没落氏族が復権を視野に含むなら古事記は勅撰史書として同意できるものではないのだろう。
古事記は皇統神話の現世的展開の一貫性のために、世に出ることを本居宣長の時代まで、待つほかはなかった。しかしこれは以降の皇国史観に大きな影響を与えることになる。
神話である。古代王権の産物である。およそ歴史事実の、権力者による改竄である。との謗りがある。その通りである。しかし歴史資料としては一級品であり、大事なことはここからどう未来を読み取り、新たな世界を建設するのかが大事なことである。
これを聖武天皇はどう読み解いたのだろうか。
「２．日本書紀」
古事記に対して、日本書記は「勅撰史書」、日本の官選の歴史書である。翌年には宮中で講筵され、後年に渡り注釈が繰り返されている。このことは諸氏族・諸豪族の共有財産であることが伺える。しかし、これにより責務を負うことも暗黙裡に朝廷と契約することになる。
日本書記の神代巻は、成立の当時に既に伝承されている複数の神話があれば、主要なものを主文として他を併記する。古事記の「造化の参神」も併記される一文の中にある。日本書紀にてはその位置は「国の常立ちの神」に採って替えられていることを先に述べた。このことは「高天原の神々」も「出雲の神々」と同格と見なすことを示していることになる。
一神論より多神論として、各氏族・豪族の社会的立場を安定させて、まず「国書」を書き上げていく、そのことが追及された。古事記はその底本（土台となる本）となったのか、或いは日本書紀の編纂途中に先に完成されたのかもしれない。
或いは持統・元明・元正と続く女帝たちへの「血の系譜」であったかもしれない。
日本書記は 「この国は由緒あり、正しき国である。」
このことを世界各国に宣言する、宣伝する。
また一つの独自文化・民族として、国家、国民の存在証明でもある。
世界の中の日本国として独自存在を主張したいものである。
国威宣揚をする必要がある。 そのための国書と言って良いだろう。
日本書記は天武天皇が天武十年（６８１）に編纂を命じられる。中国の漢書等を手本とし帝記・旧辞を基本とし、諸氏の記録や歴代政府の記録と百済関係史料や個人の手記までも含め、養老四年（７２０）に舎人親王から元正天皇に献上されている。
日本建国の成り立ちを伝える国史である。世界性・時代性から見れば、『日本国史』の登場は、他国の否定できないものであり、国家としての固有文化の証明である。
各国外交を展開する時、「私の国は、これこれの国です。」と語るしか方法のない時、誰もがこれに基づき自身の国家を語ることができる。
律令が編纂された時、遣唐使が律令をたずさえたのもこの意味がある。国名も「日本」である。聖徳太子の世界戦略の継承である。天智天皇八年（６６９）日本国使は「倭」の字を嫌い、『日本』を称する。
古事記・日本書記は聖武天皇の少し前の時代に完成していることも面白い。聖武天皇は聖徳太子をすこぶる尊敬している。例えば十七条憲法と聖武天皇が残された詔を合わせ読み解く時、そこに何が書かれているのか。
ともに「聖」を戴かれているのは、このことからなのだ。
「３．続日本記」
「続日本記」は「日本書紀」に続く第二の日本記であり、勅撰史書である。文武天皇の時代から桓武天皇の時代までを、９５年間の歴史を編年体にまとめ四十巻とした。
律令制の施行と、仏教による鎮護国家の建設と、不幸にして重なる天変地異と疫病の猛威と、天皇と政変とが記述されている。
ただし古事記・日本書紀のように編集者が「単一」ではない。編纂過程に内乱・政変があり書記者・編集者が変更を余儀なくされている。
�，泙此⊇濘療傾弔了�代に藤原仲麻呂等により、文武天皇元年より天平宝宇二年までが三十巻にまとめられた。
�△修靴童�仁天皇の時代に、先の三十巻を、石川名足・淡海三船・当麻永嗣等が修正・増補した。
��なお桓武天皇の時代には、その三十巻を菅野真道・秋篠安人・中科巨都雄等が再訂して二十巻にまとめ、別に天平宝宇二年以降を延暦十年までを二十巻として継ぎ足し合計四十巻として延暦十六年に完成した。
この後に「日本後記」・「続日本後記」・「日本文徳天皇実録」・「日本三代実録」と書き継がれ六国史と呼ばれる。
「古事記・日本書紀・続日本記」は神代の時代を含め神武天皇の時代から、桓武天皇の時代までを記録している。日本の、人間の歴史的書物であれば物語性もあり『暗示・暗喩』も含まれ、尚且つ政治的な事柄も、また、哲学的な事柄もそこには内包されている。
「古事記・日本書紀・続日本記」をして、「六国史」をして、「真偽・加筆・削除」なり、「全体と一部」が、また新たな資料の出現などが歴史を見る目を煩雑にする。
しかし「目を通して、対象を≪観る≫」しかないのだ。
それは学問に学問を重ねることに他ならない。
逆に言うならそこに「書かれずに済まされてしまう人々たち」を、
私はここに読み取りたいくらいなのだ。
しかし「国書＝自画自賛」を言えども、或いは政治的な観点から言えば、諸外国に対して「真正直」である必要もない。
世界・国家といったところで人間社会の反映・縮図に他ならない。世界の各国をして対等に外交を繰り広げるのなら、「他者に迷惑をかけた」正直な告白や反省は自国にとって不利益になるのみならず、「付け入る隙」を他者・他国に与えるだけだ。
よって「国史は奇麗事に尽きる」のではある。
よって、意図的な作為もそこにはある。写していない、書かれざる歴史も、「書かれて困る事実」も、そこにはあるだろう。その意図的な作為による書かれざる歴史は、「正史」に対し「稗史」と言われる。
「稗史は正史の邪魔になる」
歪んだナショナリズムの国家観よりすればそうなる。
およそこれにより焚書などが起きる。（明治の神仏分離令・廃仏毀釈、大東亜戦争当時の言論統制など）
しかし国家の歴史が、国民の歴史であるのか、また「民衆・民族」の歴史となるのか、写してあるのかと言えば、それは別問題だろう。
およそ記述は「現実」におよばない。
過去に有った事の全てを記述して残すことも不可能だろう。
そしてもし「古事記・日本書紀・続日本記」がそれだけのものなら、現代感覚では、立場を変えて言えば、「馬鹿馬鹿しくて読めない」。なお「如何ほどのものか」という疑問も呈される。妥当だろう。
何故なら国民自身は「汝自身を知る」、「真実を知りたい」、のがあるだろう。国民は自国の正誤・善悪をもっと正しく知りたいだろう。それが「稗史」として、正史の「裏面史」として、民衆に語り継がれて命脈を保つのは、そのことも健全な国家社会には必要なことだと私は考える。
「稗史」の有るのは、国家社会を正しく豊かにするだろうか。
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