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2019年05月21日21:04

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うちには、天使がいます。 12.舞い降りた天使

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<前回までのお話>
2018年(執筆している時点で去年)4月初め、
やまねこのパートナー・ゆかさんは卵巣がんの疑いありと診断されました。
4月24日火曜日、自宅で急に動けなくなり、救急車でZ医大病院に搬送され、
翌25日には脳梗塞が見つかり、そのまま腫瘍の手術まで入院することになりました。
そのあと3日間、抗凝固剤の点滴を受けながら病状は安定していたのですが、
29日、2度めの脳梗塞を起こしてしまいます。
ゆかさんは個室に移動し、その夜からやまねこも泊まりこむことになり、
腫瘍の手術予定は大幅に早まって、5月2日に決まりました。
(なお、病院関係者のかたがたほかの名前は、すべて仮名です)



4月30日、やまねこはゆかさんの病室で、
ベッドのかわりに置かれたストレッチャーの上で目が覚めました。。

病院の朝は早いです。
看護師さんが来ていて、
ゆかさんの熱を測ったり、採血したりしているのがわかりました。
6時半。

夜中に何度か目を覚ました記憶はあるのですが、
ゆかさんはとなりのベッドでおとなしく寝ていたような気がします。
それ以上のことはよく憶えていません。
夢を見たかもしれません。
ストレッチャーに乗っていずことも知れず走ってゆくような、そんな夢。

朝の明るい光の中で見ると、
あらためて、ゆかさんすごいことになってるな、と思いました。

胸につながっている大量のカラフルな線は、心電図をモニターするため、
指先の線は、体内の酸素量のモニター。
両手には何本も点滴のチューブがつながっていて、
ここからは見えませんが、採尿のチューブもつながっているはずです。
なんなのかよくわからないものもいくつかつながっていました。

「おはようございます」これは看護師さんに。

「おはようゆかさん」

ゆかさんはゆっくりとこちらを向きました。
顔全体に柔和な笑みを浮かべて、ゆっくりと、

「おはようねこさん」

鈴が鳴るような高い声でした。
表情はどこかうつろではありましたが、
やまねこのほうを見て、微笑みかけてくれています。

きのうの、どこかどすの効いた声と表情とは、
明らかに違うものでした。
そして、今まで知っていたゆかさんとも違うものでしたが、
けっして悪い感じではなく、
むしろ春の日の日差しのように、
どこまでもやわらかく、あたたかいかんじのものでした。

―ゆかさん、天使になってしまった―

ふと、そんなふうに思いました。

「だいぶ落ち着いた?」
「うん」
「気分は?」
「いいよ」


たぶん、ついているんだ。
そんなふうに思うことにしました。
世の中G.W.だからこそ、一時帰宅する患者さんが多くて、個室も空いていたのでしょう。
だからこそ、じぶんもこうして泊まりこむことができている。
先生も、そして看護師さんも、スタッフの数は少ないけれど、
とりあえず2日に手術もしてもらえることになった。
じぶんがここにいられるということは、たぶんぜったいいいことなんだ。

神経内科の平良先生と橋口先生が来て、
ゆかさんにまず「お名前は?」と訊きました。
「た…た…た…」
出てこないようでした。
思いだせないのか?と思いましたが、
何度も何度もチャレンジして、どもりながらなんとか最後まで言うことができました。
忘れたわけではないようです。
ほかにもいくつかの質問。
そのあとまた、指や手足を動かす検査。
ゆかさんは変わらず微笑みを浮かべながら、課題をこなしていきました。
うまくできる課題もあり、できない課題もあり、
全部終わったときには、さすがに少し疲れたかんじでした。


「いちど帰るね。メイさん(ねこ)にごはんあげたら、すぐ来るから」

「うん ねこさん ゆくり してきて」

ゆかさんは満面の笑みを浮かべて言いました。


車まで歩きながら、考えました。
ゆかさん、ずいぶんおっとりしたかんじになってしまった。
少女に戻ってしまったようでもあり、
なんていうか、ぽよぽよした、ひとことで言うとやっぱり
「天使になってしまった」

たぶん、悪いことではないのです。
少なくとも、悲観的だったり攻撃的だったりしたきのうよりは、ずっといいのです。

でも、じぶんの名前を言うことができなかった。
ほかにも、先生の質問に対してなかなか言葉が出てこなかったり、
少し難しい話は理解に時間がかかるようだ。
自分からしゃべるときは、かなりよどみなく話せることもある。きのうのように。
話の内容も、少なくとも支離滅裂ではなく、脈絡はしっかりしていると思う。
脳梗塞の前の記憶はしっかりしているし、
新しいことも、いちど理解したことはちゃんと覚えている。
何度トイレの場所を教えても理解できなかった、入院した日の朝とも、また違う。
脳の違う部分―

手も、
きのうみたいな激しい不随意運動はないけれど、
薬で抑えられている、ということなのかもしれない。
少なくとも抗てんかん薬の点滴は途切れることなく続いているのだし。
細かい震えはあるし、
なにかつかもうとするととくに震えが大きくなるようではある。

足は?
入院してからずっとベッドの上だから、わからないといえばわからないけれど、
入院する前からちゃんと歩けていなかったのだから、
ベッドを降りたとたんすたすた歩けるとは思いづらい。

でも少なくとも手も口も動いているし、寝返りだって打てている。
寝たきりとか半身不随とかではないのはたしかです。
希望を持とう。うん。


うちに帰ると、かつかつ…と小さな足音を立てて、
うちのもうひとりの天使、メイさんが玄関までお迎えにきてくれます。
そして先に立って奥の部屋に入り、
キャットタワーに登って「なでて」とせがみます。
もう毛が生え替わりはじめているので、この機を逃さずにブラッシングします。
機嫌のいいときは5分くらいがまんしてくれますが、
やがていやがって跳んでいってしまいます。
毎日この繰り返し。

ごはんを用意すると、また寄ってきます。
じぶんも例によってパンをかじりながら、また考えます。
しばらくこんな往復の日が続くのだろうか。
答:「そうです」
メイさんだってごはんと水だけで生きてるわけじゃないし、かわいそうだね。
答:「そうだね」
あしたメイさん誕生日だ。
答:「そうだよ」
毎年ごちそう作ってあげてたけど、今年は無理だね。
答:「残念だね」
せめてめいっぱいなでてあげよう。


病院に戻ると、ストレッチャーは片付けられていて、
ゆかさんはやはり満面の笑顔で迎えてくれました。

今日のミッションとして、やまねこのベッドをレンタルしなくてはなりません。
(ストレッチャーはあくまで特例)
1階の売店が窓口になっています。
いわゆるコンビニのチェーン店で、24時間営業ではないのですが、
パジャマやおむつその他いろいろ、おむつその他入院グッズなんかも売っています。
ベッドの貸し出しまでやるんだな、とちょっと感心。


病室に戻って、午後の日差しの中で、
とりとめもなくお話して過ごしました。
ゆかさんはあいかわらず、おだやかに微笑んでいましたが、
やがて少し顔を曇らせて、
「おなか いたい」と言いました。
なにも食べていないので、空腹のせいかと思いましたが、
痛みは徐々に激しくなっていくようで、
しだいに「いたい…いたい!」と叫びに変わっていきました。
コールで看護師さんを呼び、当直の先生にもお話して、
先生は痛み止めの点滴を処方してくださいました。
(また点滴が増えてしまいました)

やっぱり卵巣の腫瘍から来る痛みなのでしょうか。
変な話だけれど、今日は腫瘍のことあんまり考えてなかった、と気づきました。
脳梗塞のいちばんの原因でもあり、
それ以上に、命にかかわるもの。
手術まであと2日。
「大丈夫?」とたずねたり、
「大丈夫」とうなずいたりしながら、
やまねこはゆかさんの手を握っていました。





<うたうやまねこ今後のLIVE予定>

5/26(Sun.)日吉Nap → http://www.hiyoshinap.com/
Open18:30/Start19:00/Charge \1,500+1D

6/29(Sat.)四谷天窓.comfort → http://otonami.com/com_top
Open12:30/Start13:00/Charge \2,000+1D

26日日吉Napは、いつもより1時間遅く、19:00スタートです。
出演は4組、やまねこの出演は3組め、20:00からです。
終了時間もいつもより早く、21:00終了予定なので、
少し遠くからのかたも来やすいのではないかと思います。
お会いできるとうれしいです。
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