あのとき、君がくちさずんでいた曲の題名を君は最後まで教えてはくれなかった。
ぼくが、それを聞くと、いつも微笑みを浮かべ、秘密だよ。と言った。
先日、新宿を歩いているとき、その曲が急に耳に飛び込んできた。
ぼくは、はっとして振り替える。
そう、もういるはずのない君を探して。
君を失って、一年が過ぎようとしたとき、ぼくは、その曲を思いだし、インターネットでいろいろと探してみた。でも結局見つけられず。
新宿の出来事は一瞬で、すぐに溶けていった。
でもその一瞬は僕の心に残り、いまでも消えずにいる。
家に帰ると娘が飛び出してきて、僕に抱きついた。
もし君を選んでいたら、この子はここにいなかったろう。そう思うと複雑な気持ちになる。
僕は娘の名前を呼び、そして抱えあげる。
いつも不機嫌な家内は、ぼーっとテレビを見てる。
一言、もう帰ってきたの?帰ってこなくてといいのに。とテレビに向かって話す。
僕は何も言わず、手を洗いに洗面台に向かう。君の曲を口ずさみなから。
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