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2019年04月22日18:50

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天沼矛  自作小説

   天沼矛

 是(ここ)に天(あま)つ神諸(もろもろ)の命(みこと)以(も)ちて、伊邪那岐の命、伊邪那美の命、二柱の神に、「是(こ)のただよへる国を修理(つく)り固(か)成(た)めよ」と詔(の)りて、天(あめ)の沼(ぬ)矛(ぼこ)を賜(たま)ひて、言(こと)依(よ)さし賜ひき。故(かれ)、二柱の神、天(あめ)の浮橋(うきはし)に立(た)たして、其の沼矛を指(さ)し下(お)ろして画(か)きたまへば、塩こをろこをろに画(か)き鳴(な)して引上げたまふ時、其の矛の末(さき)より垂(したた)り落つる塩、累(かさ)なり積(つ)もりて島と成りき。是れ淤(お)能(の)碁(ご)呂(ろ)島なり。

 古事記注釈第一巻 より抜粋


 第一章

                  1

2015年2月22日

 船酔いをこらえながら明智義明は目的地を目指す。ヘリコプタ―は高所恐怖症のため避けた。およそ2日間の船旅。ヘリコプタ―でも6時間はかかるうえ高所恐怖症の恐怖には耐えられない。長い長い1.8日間を頑張って耐える覚悟を決めた。船は豪華なクル―ザ―。しかし、当たり前ながら船旅を楽しむためではない。目的地は記憶に新しい西之島の200キロ西を目指す。クル―ザ―は意外にも燃費が悪い。燃費0.5キロというところだった。
だからデッキには燃料タンクが大量にある。
西之島は2014年噴火で領地が大きく拡大した地だ。
いわば、この場所はただただ広がる海で『何もない』場所だ。
ただ、何もないとは公式的にはという意味で実質的には秘密裏に巨大な研究施設が存在している。「明智さん。まだ船酔いですか?」クル―ザ―の持ち主の吉崎清助が言う。
62歳の年寄で金持ちだ。秘密裏にということが条件なため吉崎清助には大金が支払われている。「ああ、すまない。海がここまで荒れるとは思わなかったよ」明智義明は苦笑する。
「ほら、酔い止め。量状を守ってと書かれてるから一応気を付けて」吉崎清助。
気を付けるも何も渡しておいてそれはないだろう・・・明智義明は考えるが今日で何度目だと考えながらも渡された酔い止めを飲む。・・・たかが酔い止め死ぬことはないだろう。
酔い止めと言っても所詮自己暗示の類に過ぎないのではないか?という疑惑はあるが一応効いたと思いこむことにする。船の中を散歩することにした。・・・これで何度目だろう。
しかし、ほかにすることはないのだ。本来なら釣りを楽しむ場所であるデッキから入口に入る。中は豪華な固定式のテ―ブルと椅子。それとキッチンが覗く。
冷蔵庫には数十万円のワインがあるが吉崎清助の持ち物なので飲んだことはない。
基本的にハムエッグのような一般的な食事であった。
本来なら釣った魚を食べたりするものだろうがあいにく私は急いでいる。
だから、質素な食事で済ませているし吉崎清助にも同じ食事をしてもらっている。
本来なら・・・私も高級住宅地に住んでいる身だし家にはメイドまでいるのだが・・・
・・・本来なら・・何度もこの言葉を吐きそうになる。
しかし、これは秘密裏ではあるが国家レベルの巨大プロジェクトなのだ。
我が民自党は功績を焦っている。国民の批判のある多くの法案しかやっていない。
ここで国民の支持を受けるような政策が必要なのだ。明智義明は民自党の党員だ。
しかし、明智自身、目立った功績をあげていない。だから焦っていた。
このプロジェクトがうまくいったら・・・明智には期待しかなかった。
1日目。そして18時間・・・ようやく船になれてきたといえる頃目的の施設が見えてきた。メガフロ―トとはいえ狭いビルくらいの広さしかない。海上に顔を出している建物はあまりに小さく大きめのプレハブ小屋のようだ。しかし、これは入口に過ぎない。

                  2

 目的地に到着すると吉崎清助は明智義明の視察が終わるまで帰れないことになっている。
出入り口にいたのは職員52人。その他に任務から席を外せない職員もいるという。しかし、読者の想像するように油田施設などではない。
病原菌などを研究する施設でもない。海中住宅の実験施設は兼ねているもののそれが主というわけではない。ただ実験施設ではある。
「明智議員ようこそお越しくださいました」研究所所長の安川敏明は言う。顔に汗が見える。緊張した様子だ。
「とりあえず、客人をもてなしてくれ。失礼のないようにな」明智義明は職員に指示をする。
職員は吉崎清助をもてなす為客室に案内する。しかし、研究内容は吉崎清助にも秘密である。
「ああ、わかってる。見ざる、聞かざる、言わざる、だろ。」吉崎清助は機嫌がいい。それ相応の待遇が約束されてるのだ。

「では、明智議員こちらへどうぞ」案内役の名も知らない男が案内する。
若い男だ。技術者の一員らしく制服を着ている。「施設は地上1階、地下12階になっています。ただ海中の建物は水圧対策のため多くは球形をしております。もし長く滞在されることになるようになるようでしたら息苦しい思いをしなくてはならないのかもしれません。酸素がないという意味ではなく気持ち的に息苦しい場所なのです」
「まるで私に早くここから出て行って欲しそうな物言いだな」明智義明
「いえ、・・・決してそのようなことは」
「まあいい、あれはどうなっている?使えそうなのか?」明智義明
「わかりません。実験もまだしたことありませんし、・・・その突貫的に進められた事業なものですから」
明智義明は舌打ちをした。その瞬間若い技術員は身震いした。
「お前、なんという名だ」明智義明
「えっ・あっ・橋口祐介です。技術主任をしております。」橋口祐介
「では橋口。アレがある場所まで案内しろ」明智義明
「・・・指令室でよろしいですね。こちらです。」橋口祐介
指令室と呼ばれる場所は地下二階のため水圧はさほどなく比較的広い空間を保持した長い立方体の施設だった。
案内されるまでの道のりは先ほどの出入り口から遠くなく・・・ただ、一応隠し扉で隠してはある。
「この部屋が指令室です。」橋口が案内すると職員が5人程モニタ―を緊張した様子で見ている。それは、実験への緊張だろうか?民自党議員、明智義明に対する緊張だろうか?
モニタ―は水圧系水温計地震計などのほかの表示の他に地形マップが映し出されている。
「では、さっそく作業を開始してくれ。」明智義明
「本当に行うのですか?もっと安全確認してからのほうが・・・」職員の一人が訴える。
「うるさい。俺は早く終わらせてさっさと帰りたいんだ。わかったら早く作業を急げ」
明智義明はイライラしていた。これもあの長い船酔いのせいだ。

しばらくの沈黙ののち職員はスイッチを押した。

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