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2019年03月27日14:03

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【創作】竜喰いのリド  episode2:竜殺しの英雄【その19-2】

【創作まとめ】 
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【前回】
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seen32の続き

「おっさん、一人で立てるか?」
 腕を引き上げブックマンを軽々と持ち上げると、そのまま直立させる。
 改めて見ても大きい。身長はブックマンよりも頭二つ分は大きい。全身を白く縁取られた青い鎧に身を包ませた男は、布にくるまれた棒状のものに大きな荷物をぶら下げ、肩に担いでいた。金髪は短く前髪をおっ立て、全体的にスッキリした印象を与えてくる。眉はきりりと鋭角を描き、鎧の色と同じ青いつり目が鋭く光る。全体的に彫りの深い顔は豪快さを滲ませた笑いを浮かべていた。
「なんだテメエは?」
「一緒に殺されたいのか?」
 追い付いたフードの男達が口々に脅し文句を叫ぶ。
 しかしブックマンを助けた男は気にする風でもなく、豪快に笑う。
「元気のいいひよっ子だ。だが大勢で丸腰のオヤジ狩りは感心しねえな」
「何がひよっ子だッ!」
「ナメてんじゃねえぞッ!」
 フードの男達が、お決まりの小物感溢れるセリフを並べ、ブックマンは流れが変わったことを確信する。
(でも僕はオヤジじゃないからッ!)
 助けてくれそうなので声には出さないが、心の中で叫んでおく。
「吠えるな吠えるな。さっきから言ってるだろ。丸腰相手に多勢に無勢では面白くない。お前ら、素手で一対一で挑みな!」
「え、助けてるれるんじゃないの?」
 男の提案に愕然とするブックマン。
 だけど男は当たり前のように言う。
「どっちが悪いか事情も解らねえのに、何で助けなきゃならねえんだよ。ただ、卑怯はいけねえ。だから条件を同じにして、タイマンしろっつってんだよ」
「いやいやいや、突然襲われてタイマンとか無理だって」
 流れが変わったことには違いないが、タイマンの流れはまずいと、ブックマンは手を振って拒否した。
「んだよ、いい歳してバカなのか? 突然だろうと何だろうと、おっさんに襲われる理由があるから狙われてんだろ。ならここでスッキリ決着つけとけ。後腐れないから!」
「君こそバカなんじゃないの? 後腐れなくスッキリ殺されるだろ!」
「おっさんの弱さは俺の知ったこっちゃねえよ。いいからやれ!」
 すっかり仲介人気取りの男が場を支配しようとする。
「バカか。獲物を追い詰めてるのに、何で条件揃えてタイマンしてやらないといけねえんだよ。お前からぶっ殺してやろうか?」
 フードの男は見上げるように鎧の男を睨み上げた。
 彼らからしても、タイマンなどという面倒なやり方をするよりも、大勢で襲撃した方が効率がいい。
「あ? オレをぶっ殺す? 面白い、やれるならやってみな」
 鎧の男は布を巻いた棒から荷物を外し地面置くと、手を振って攻めてこいと催促した。
「ナメた態度しやがって、後悔してももう遅いからな」
「吠えてないで早くかかってきな」
 フードの男達は短剣を構え、鎧の男を取り囲む。
 それに対し、鎧の男は手にした布を巻いた棒をゆったりとした動作で、腰辺りの中段に構える。
(あれは槍か? …………にしても太い。ちょっとした丸太くらいの太さはあるぞ)
 鎧の男が布を剥がす様子は無い。そのまま戦うようである。
 男の身長よりもさらに長く、太い武器……っぽい何かに興味をそそられるが、今は事の推移に集中することにした。
「一気に決める。いくぞッ!」
 フードの男達が一斉に襲いかかる。ある者は短剣を振り上げ、ある者は腰だめに構え、またある者は横凪ぎに切り裂こうと襲いかかる。
 これだけ多彩な攻撃パターンを一度に受けるのは不可能だと感じた時、鎧の男は不適に笑った。
「やっぱりお前らバカだな。わざわざ攻撃のタイミングをオレに知らせてくれるんだから」
 長く太く、そして重そうな棒を軽々と横凪ぎに振ると、風を唸らせながら迫り来る五人をまとめて払いとばした。
 吹き飛ばされたフードの男達は重なりあうように尻餅をついて鎧の男を見上げる。
「なんだコイツは……」
「つ、つええ……」
 巨体から繰り出させた剛力の攻撃は、フードの男達の心を一撃のもとに粉砕したのか、恐怖の色がうかがえた。
「まだやるか?」
 だけど鎧の男は不適に笑うだけで、追い討ちをかけようとはしなかった。あくまでも正々堂々を信条にしているようである。
「ちっ、こんなのが出てくるのは計算外だ。引き上げるぞッ!」
「で、でも……」
「お前一人でアイツと戦うか?」
「…………いや…………」
「なら引き上げだ。覚えてろよッ!」
 子供っぽい男が食い下がろうとしたが、リーダー格の男に嗜められ、小者らしい捨てゼリフとともに逃走していった。
 ブックマンは出来ることなら捕まえて、誰に依頼されたのか聴き出したかったが断念する。
(今回は大きな怪我もなく、タイマンすることもなく終わってよかった)
 ブックマンは助けてくれた鎧の男に向き直り、握手を求めるように手を差し出す。
「助けてくれてありがとう。君が居なかったら、僕は殺されていたかもしれない」
「何言ってんだ。今からお前とも戦うからな?」
「…………え?」
 求められた握手に応じる事もなく、鎧の男は不適な笑みをブックマンに向けてきた。
「ケンカ両成敗って言うだろ?」
 男は丸腰のブックマンに合わせて素手で戦うつもりか、拳をポキポキと鳴らしている。
(喧嘩両成敗って、マギアルクストにもその言葉あるんだ…………って今はそれどころじゃない)
 などと思わぬ言葉を聴いて感慨に耽りかけたが、状況を思い出して慌てて手を振る。
「いやいや、僕に君と戦う意思は無いから」
「ケンカ両成敗って言ったろ? 片方だけ成敗して終われねえんだよ。いいから一発殴らせろ」
 ブックマンが後退ると、同じ距離だけ詰められる。
「そもそもケンカじゃない。一方的に襲われていたんだ」
「襲う方にも相応の理由があって襲ってるんだろ。チンピラのカツアゲならまだしも、殺そうとまでするからには、おっさんにも何かあるはずだ。オレには細かい理由なんて関係ねえけどな」
 命を狙われるほどの理由とは何なのか。ブックマンはフードの男達との会話を思い出そうとする。
「ま、今回は一発殴られとけ。オレを巻き込んだ分だ」
 しかし鎧の男は思い出す暇さえくれそうになかった。
 確かにブックマンが彼にぶつかったことが、事の発端なのは事実である。一般人……には見えないが、無関係の人間を巻き込んでしまったことには違いない。
「そうだね。君はたまたま通りがかって巻き込まれただけだからね。でもこれだけは言わしてくれ、成り行きとはいえ助けてくれてありがとう」
 ブックマンは深々と頭を下げる。
(こう言っておけば、殴られるにしても全力で殴りはしないだろう)
 割りとセコい考えの、打算ありまくりの感謝を述べる。
 そして顔を上げると目を瞑り歯を食いしばる。いくら手加減があると思われるとはいえ、それなりの衝撃はあるだろうから。
「いい心掛けだ。お前の心意気に免じて、オレも全力で行かせてもらうぜッ!」
「……えっ?」
 焦って目を開くとそこには、ブックマンに背中を見せるほど体を捻り力を溜める男の姿があった。
 速さ×体重×握力=破壊力
 そんな謎の公式が脳裏に浮かぶ。
(こんな大男の全力パンチをくらったら首がもげるぞ!)
 実際に死ぬかどうかは別として、一瞬で病院送りを覚悟するブックマン。今さら逃げ出すわけにもいかないのだ。
 しかしその攻撃が達するよりも早く声が届いた。
「社長様への手出しは何人(なんびと)も赦しませんッ!」
 その声はブックマンがマギアルクストに来て、最も聴き、最も慣れ親しんだ声だった。
 ブックマンの肩越しに一条の光が煌めき、銀の剣尖が鎧の男に迫る。
 男も咄嗟の判断で、後方に立てていた棒を掴み剣のように振り抜く。
 二つの攻撃がぶつかった瞬間、その中央で雷が弾けたような衝撃が波紋状に広がり周囲をビリビリと震わせる。
「今日はつくづく変なのに巻き込まれるな」
「野良犬風情が吠えるんじゃありません」
 剣の主たるアルトリアと鎧の男が、鍔本でせめぎ合いながらも不適に笑い合った。


その20-1、20-2へ続く↓
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