《凝り性のお菓子好き『ばかうけ』編？》
おせんべいの『ばかうけ』、知ってるかな？
せんべいらしからぬ安価のわりに、なかなかにイケる味なんだな。
発売がその頃なのかどうかは知らないが、初めて口にしたのは中学３年生の冬だったような気がする。
当時、何かとつるんだ近所でも不評判の悪友が居たが（…というか、何故か気に入られたようでいっつもくっついて来たヤツ）、そいつは拘りが激しく自分のツボにハマらなければ全てが嫌だというヤツで、まあ一言には『我儘』という言葉や表現を形にしたような人間だな。
もっとも、俺は気に入られていた側なので、何かと否定は多くも結局は自我を押し殺して俺のあれこれに付き合ってくれたりしたのだが、そんなソイツがある時言った。
「ねぇこうちゃん、『ばかうけ』って知ってる？」
いきなりの切り出しに何と答えていいのか分からず、同時に食べ物の名前に結び付くわけもなく、『知らん』と一言。
そしたらスゴイスゴイ、ソイツの悲しみの表現が…。
なんで知らないの？だの、日本の食文化をどう理解しているの？だの、これ知ってたら他を選ぶ必要が無いじゃん！だの、その熱意は火傷するほど伝わってくるのだが、とにかく題材が掴めないのには困った。
一応、『ばかうけ』という言葉を活用する場面があるとすれば、まあTVだろうと無難な線を踏んだつもりで人気番組の話を持ち掛けると、すかさず『今の話聞いてた！？』とか。え、違うの？
チンプンカンプンな回答しか出せない俺を見かね、分からないなら今すぐ教える！ すぐ行くぞ、いま行くぞ、とにかく行くぞ！
という流れで強引に買い物へ。…おまえ、そんなヤツだっけ？
…で、連れて来られたのはすぐ近くの長崎屋。…の、食品売り場。
そんであっさりとした『ばかうけ』との出逢い。
実はソレまで和菓子系統に目線を配らせる事が少なかった俺は、当然のように『せんべい＝背景』となってしまったわけで、個人的にはわざわざ勝手まで食べるものではない。という扱いだった。
まあ、とりあえず『ばかうけ』が煎餅という事は理解した。そしてどんな食べ物でもどこかにケチを付けるソイツが売り込む代物なのだから、まあ、相当に美味しいんだなという事も想像出来た。
ではでは早速…と、一袋ばかりを手に取ると…。
「あー！ もう！ こうちゃんわかってない！」
とか、『俺はうんざりだぜ』オーラ満開でソイツは５袋鷲掴み。あーめんどくせー。ソレ誰が買うんだよ？ おまえはメチャメチャ金にセコイだろうが。
なんて内心で思って見ていると、何を血迷ったのかぜんぶソイツ持ち。え？ そこまでして教えたい味なんですか？？
レジを通過して建物を出、徒歩で俺の家で戻るはいいが、その間のうんちくもスゴイスゴイ。『ばかうけ教』とかあれば立派な最上層部のお偉いさんだって出来そうだ。
家に帰り、早速袋を開けると、思った以上の数がばらけ落ちてくる。
『この数でこの金額だぜ！？』
と、そこで対価称賛。
袋を開けると、
『このサイズだと普通は１枚包装だよな！？』
と、包装方式を大絶賛。
一口かじると、
『このサックリ感って、他のせんべいじゃないよな！？』
と、食感超絶賛。
味わうと、
『醤油と海苔の配分が絶妙じゃね！？』
と、味評論。もちろん激烈絶賛。つか、うるせー。
まあ、そんな出逢いだったわけだ。『ばかうけ』とは。
あの時は何かと『ばかうけ』を称賛するソイツに対して白い目を向けていたが、まあ、確かにオーソドックスな味としてはだいぶ美味しいと感じる仕上がりではある。ターゲットを選ぶ事のない万人受け仕様と言えばいいのかな？
値段なんかもやっぱり安い部類で、実際問題、中学時代に購入した価格と比較すれば、メーカー希望価格は知らないけど、実は販売価格が落ちている。
あの頃に買った値段は確か１４０円くらい（3％税込み）。
でも、今は１００円あたりで売っている場合が多いから、８%税を加算しても全然安い。しかも中身の数もそのままと来たもんだ（重量は知らないけれど）。
時代は変わってばかうけのバリエーションも随分と増え、最近は５種類アソート（４０枚入り）にハマっている。
一応は発売されるばかうけシリーズを口にしたが、やっぱ青のり醤油が最高に感じ、その他はどうでもいい感じだったのだが、ここにきて�癸欧鯣�掘。ごま揚しょうゆ味がソレだ。
チーズ味やコーンポタージュ味も不味くは無いが、これらはやっぱりうまい棒に走った方が賢明な気がする。というか、『せんべい』らしくない。
いずれにしても珍しいキャラから伝授されたお菓子のひとつが『ばかうけ』なのさ。
１０年以上間が空いてしまったが、こうして暫くぶりに買ったりすると、本当にハマる。美味しいね。
でも、ちょっと食べ過ぎで、２日で１袋は多いよな。
そんで今は軽い胃のもたれが忘れられない数週間だ。顔が『ばかうけ』になってしまう。
某パン野郎にあやかって『ボクの顔を食べなよ！』とか言っちゃいそう（バリバリ）。
《ちー+！ 088》
第一章 仲間たちとの行進曲 3-50
【拠点ネメス・ネメス城下町北区域】
『冒険者通り』
『装備屋ライフキラー』を後にして、3人は再びネメスのあくびを目指した。
「ねぇタァ、あとでそこも教えてよ」
「なにを偉そうに…。せっかく一緒に来てくれるタバチさんに失礼でしょう」
頼む態度にまるで見えないチータス。その姿は後頭部の後ろで両手のひらを組んでいる。こんな姿で歩きながら何かを話し合うのはナルミとしては慣れた光景であるが、やはり出逢って間もないタバチに見せる姿としては不適切だろう。
しかし、底知れぬ良心の持ち主か、タバチは気にする事無い素振りで、
「いいですよ、ギルドの後で行きましょう！」
なんて言って、返って喜んでいる様子だ。
タバチの話によれば、『装備屋ライフキラー』に取り揃えられた武具の多くは『武器』というよりは『装飾品』の意味合いが強く、貴族などの裕福な家柄に人気が高いという話だった。
言われてみれば見た目が華やかな武具が多く目に付いたが、武器としては必要のない突起やワンポイントなどが施されており、実際に使用した事を想定すれば、その多くは取り回しに支障をきたしそうな作りだという事が素人判断でも理解出来た。
もちろん、ライフキラーに戦闘向けの武具が無いというわけではないが、そちらの精度は高いものの更に値が張り、やはり細かな装飾が施されているため手入れが非常に難しいという話だ。
入ったついでではないが、誰がどんな物を買うのかと思って他の客の動きを眺めた時があったが、確かにギルドで見た『冒険者』とは異なる雰囲気を持つ客層が集中していたかに思えた。品があるというか、落ち着いているというか…。
「…でさぁ、その、次に行く武器屋って遠いの？」
「そうですねぇ。うーん、ギルドを少し進んだ先なんですが、遠いんですかね？ 冒険者通りのほぼ入口なんですよ」
この辺のマップを知る筈もない2人には漠然とも理解し難いが、どうやらタバチが言うもう１つの武具屋は冒険者通りの入口とされる場所に存在するらしく、ギルドから向かった事を考えた場合はさほど距離は離れていないが、クルリダ=エイシェン 旅の友から直接行くとなると、それなりに距離はあるという。
ちなみに『クルリダ＝エイシェン 旅の友』は『民宿あじさい』の真正面に存在するため、スタート地点は全く同じである。
初めてあじさいの店主と会話した中に、確か『あじさいの存在地点が冒険者通りの端の方』という表現があった筈だ。
という事は、もう１つの武具屋へは冒険者通りの隅から隅まで歩く事になる…。
「うわぁ…、隅っこかぁ…。でもま、仕方無いか。そうそう頻繁に行き来する場所でもないだろーから、まあいいか」
億劫さを感じつつもチータスは自らの考えを結論付ける事で気を取り直す。…しかし、思いのほか頻繁に出入りする事になる店だという事に、今現在の本人が気付く筈もない。
『ギルド ネメスのあくび』
「ボスさん、また来ちゃいました！」
出入り口の『準備中』のプレートが大きく揺れる。
かくしてタバチの読み通り、昼食ピークを終えて一段落といった状況のギルドに到着したタバチは、扉を開けるなりそう言い放った。
「…ん？」
カウンターの向こう側で予想外の来客に不思議そうな声を上げたボーセスは、どうやら新聞を呼んでいる最中のようだった。
「おう、なんだタバチか。…おっと、それにおまえさんたち…。アキ目的は分かるが、それにしても俺の休み時間に来るこたぁ…、まあいいか。こっち来い。来たからにはただじゃ帰せねぇ」
言葉のわりに嬉しそうな声のボーセスは、そう言って新聞を折り畳むと手招きをする。
「なに？ またジュースくれるの？」
「バカ言うな。…と言っても似たようなもんだな。今日はな、予想外に繁盛しちまって洗い物が進んでないんだ。今、臨時のバイトを雇っているんだがな、それだけじゃちっとキツイかもってな、思ってたんだ。そこにおまえさんたちの登場って訳だ！」
「げぇ〜、お手伝い？ つーかさ、おっさん、それ読んで休んでたじゃん」
『バイト』の意味は分からないまでも、どうやら使われる事を察知したチータスが反論する。飲食店の『手伝い』と言えば、一般的に皿洗いが軸になる事は旅館を営む親を持つナルミから既に耳に入れていたのだ。
「つべこべ言わずに手伝ってくれ。ほら、奮発した前払いだ！ 後で分けてくれ！」
勝手に話を進めるボーセスは即座に売上金から銀貨を取り出し、恐らく一番断る事が出来ないだろうタバチに数枚の銀貨を強引に手渡すと、さっき置いた新聞紙を再び拾い上げて奥の部屋に入り込んでしまった。
「あ〜あ、タイミング最悪…」
がちゃ！
「おっと忘れてた！ 綺麗に片付けたら適当に残りモンでもつまんでくれていいからな！ あと、適当な時間に声も掛けてくれ。…悪戯するなよ！」
愚痴るチータスにやや遅れて扉が再び開くと、ボーセスは大声でそう言い、返事も聞かずにまた扉を閉めてしまう。
「何かいい事があったんですね！ きっと！」
ボーセスの行動を見たタバチはそんなことを断言する。
「そうなの？」
自分たちよりは遥かに付き合いが長いタバチの言葉の信憑性を疑う事は出来ないが、それにしても強引なこの流れは理解出来なかった。
「何か嬉しい理由でもあるのですかね？」
やはり流れについて行けなかったナルミは言葉を挟むタイミングすら無かったわけだが、少なくともボーセスの機嫌が良い事だけは理解出来る。
「分かりませんよ。…でも、ボスさんは嬉しい事があった場合、こんな感じで手伝いを要求する事がたまにあるんです！ 浮かれて皿を割っちゃうって言ってますがね！ だいたい、洗い物が集中する時間にくつろぐって言うのが普通じゃありませんからね！」
「そんなもんかね。…で、何すりゃいいわけ？ お皿洗い？」
ほとんど呆気に取られて嫌気すら差さないチータスが珍しく先陣を切る。
「このお店、造りが変わっていて、洗い場が奥の方なんですよ。付いて来て下さい」
僅かな困惑をも見せないタバチの機敏な行動は、これまでの『都合の良い使われ方』の経験を物語る。ボーセスの話では臨時雇いの人物がいるようだが、恐らくはその人物もタバチと同等の扱いを受けているのだろう。
「あの人ですね！ …ん？」
洗い場に立つ後ろ姿を確認したタバチは言葉を飲んで動きを止める。
「どしたの？」
「どうしました？」
チータスたちの質問にタバチは答えず、代わりにまんべんの笑顔を向けて来た。
「え？ なに？ なんなの？」
「…タバチさん？」
２人が声を掛けてもタバチは笑顔を向けるだけで何も答えない。
こんなやりとりに向こう側の人物が気付いたのか、これまで聞こえていた食器を洗う音が止み、代わりにこんな独り言が聞こえた。
「…あー…、そういう事か。…ボスも人が悪いな…」
はっとして声の主を振り向くチータスとナルミ。忘れ掛けた、それでも忘れる事の出来なかった声の主…。
「やあ、久し振りだね、ちぃ、ナル。元気だったかい？」
そこには、右手に大皿、左手にスポンジ姿のアキ・サランの姿があった…。
《あとがき》
偏食はよくないが、お菓子の偏食はもっと良くない。
凄く胃がむかむかする。それでもやめられない。
ああ、なんて恐ろしいんだ…『ばかうけ』。
…なんかネーミングのせいでヘンテコな恐怖。
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