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2019年01月15日20:17

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司法試験論文式刑法 昭和59年第1問

司法試験論文式刑法 昭和59年第1問
 甲は、一人暮らしのAを殺害しようと考え、致死量の数倍に当たる毒薬を混入した高級ウイスキーをその情を知らない知人Bに渡し、これをA方へ届けてくれるよう依頼した。ところが、Bは間違ってC方に右ウイスキーを届けたため、Cの長男である大学生DがCあてのウイスキーであると誤信して、これを友人E、Fと共に飲み全員中毒死した。
 甲の罪責を論ぜよ。


基本書と百選が出題範囲の時代です。初めて受けた論文式試験でしたが、手ごたえが全くなかった記憶があります。大学の試験ではでは1論点を深くかく型式しかでておらず、過去問つぶしも答案練習もしていなければ論点複合型は手も足もでませんでした。

間接正犯の実行の着手時期・故意の個数については現在の判例百選7版でも昭和59年当時の刑法判例百選にも掲載されています。間接正犯の実行の着手時期は百選7版65事件 大審院大正7年11月16日です。ことしの11月16日で100周年ですね。
間接正犯の実行の着手時期についてはネット犯罪やら離隔犯の増加によりいまでも重要な論点です。どうも平成25年判決とかだと利用者基準説みたいな印象ではあるのですが。司法試験答案での判例としては1世紀前の大正時代の判決のままでよさそうです。

答案例

(いま思うと団藤ラインであっさり、というのがラクでした。方法の錯誤と客体の錯誤で扱いが違う説をとってしまって答案は空中分解した記憶あり)
 甲によって送られた毒入りウイスキーにより事後的客観的にはAの殺人未遂、DEFの殺人既遂の結果が発生しているが、甲が認識認容していたのはAの殺害である。
 ここではたしてAに対する殺人未遂が成立しているのか、道具としてのBを利用している間接正犯形態での実行の着手時期が問題となる。
 判例は被利用者基準である。これは被利用者が情を知っている教唆犯の場合と実行の着手時期を同じくする点でバランスがとれている。しかし、実行行為概念は実行者の行為であり、情を知らないものを利用する以上、行為といえるのは利用者の行為のみであり、行為者を基準とすべきである。致死量の数倍の毒薬を情を知らないものに目的地に配達を頼むこと自体は殺人の具体的定型的危険があるので殺人罪の実行の着手を認めるべきである。
 Aに対する殺人未遂(199条203条)が成立している。
(※平成になってからでた前田先生・大谷先生の教科書では折衷説の解説があるが、このころの受験生だ、どちらかをとるしかなかった。利用者基準だと誤配しているので説得力に欠けるのは目をつぶっていく。折衷説でもどっちにもころぶか、よくわからない。毒薬入りウイゥキーは被害者も飲むという行為で利用されている。誤配しているうえ、被害者利用まででてくる。昭和59年当時は被害者利用についてはどうだったか。昭和60年の判決(百選判例)でクローズアップされた論点となる)。Aに対する殺人未遂は微妙であったろう)。
 次に、DEFの死亡について、甲はDEFの死亡を具体的には認識認容していないので故意があるといえるか問題になる。
 客体の錯誤(実行行為時に客体は単数−−厳密には意図している数か)の場合は故意を認め、方法の錯誤(実行行為時に客体が複数)の場合は意図した客体以外の故意を阻却するとする具体的法定符合説が有力である。本件で実行行為時点で客体が複数ある方法の錯誤ということになり、全員に対する殺人未遂と過失致死等の結果になるが、これは既遂結果を問えないことになり、常識的におかしい。私は客体の錯誤・方法の錯誤いずれの場合も故意を阻却しないとする従来の法定符合説をとる。なぜなら故意は直接的反規範的人格態度に対する責任非難を本質とし、その規範の問題は構成要件ごとにあたえられており客体の個性を問題としないからである。また。故意の個数も問題としない。0か1かは問題であるが1から2以上は規範に直面して刑罰の発動が開始した以上非難可能性は同等だからである。上限が1つの場合と同じになる観念的競合(54条)の処理にも合致する。
よってAに対する殺人未遂(199条・203条)、DEFに対する殺人既遂(199条)、4罪は観念的競合となる(54条1項前段)。
(※おそらくどんな結論でもスジがとおっていればそれなりの点数であったと思われる。)
200件ほど刑事弁護をしたが客体の錯誤も方法の錯誤も潜在的には問題になった(例 3人既遂1人未遂の殺人事件だが、いずれもほんとに憎い犯人とは違った人物が被害者となっている 客体の錯誤で故意を阻却しない)が、ほんとにすべての法曹資格者がきっちり書く必要がある論点か、それもここまでマニアックにしてよいかは疑問である。上位500名を選ぶ試験問題であった、としかいいようがあるまい。

故意の個数については刑法判例百選7版42事件 最高裁昭和53年7月28日 刑集32巻5号1068頁7専田岡山大学教授解説

強盗殺人未遂、鉄砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反事件
【事件番号】 最高裁判所第3小法廷判決/昭和52年(あ)第623号
【判決日付】 昭和53年7月28日
【判示事項】 打撃の錯誤と強盗殺人未遂罪の成立
【判決要旨】 犯人が強盗の手段として人を殺害する意思のもとに銃弾を発射して殺害行為に出た結果、犯人の意図した甲に対し右側胸部貫通銃創を負わせ、同時に犯人の予期しなかつた乙に対し腹部貫通銃創を負わせたときは、甲のみならず乙に対する関係でも強盗殺人未遂罪が成立する。
【参照条文】 刑法38−1
       刑法240
       刑法243
【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集32巻5号1068頁
       最高裁判所裁判集刑事211号903頁
       裁判所時報746号2頁
       判例タイムズ366号165頁
       判例時報900号58頁

【評釈論文】 警察研究51巻10号47頁
       ジュリスト臨時増刊693号165頁
       別冊ジュリスト82号108頁
       別冊ジュリスト111号90頁
       同志社法学30巻4号124頁
       判例タイムズ371号39頁
       判例評論241号159頁
       法曹時報32巻12号166頁
       法と秩序9巻5号39頁
       法律のひろば31巻11号37頁
       LawSchool2巻10号54頁
       主   文
 本件上告を棄却する。
 当審における未決勾留日数中三五〇日を本刑に算入する。
       理   由
 被告人本人の上告趣意(上告趣意補充書による趣意を含む。)第一点、第二点、第八点、第九点、弁護人植松功の上告趣意(上告趣意補充書による趣意)第三、第四について
 所論のうち、憲法三条違反、判例違反をいう点は、原審における所論指摘の公判期日において公判手続が更新されていることが当該公判調書の記載により明らかであるから、前提を欠き、その余の点は、単なる法令違反の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 被告人本人の上告趣意第四点、弁護人植松功の上告趣意第一点(上告趣意補充書による趣意第一を含む。)について
 所論のうち、憲法三八条三項違反をいう点は、原判決の引用する第一審判決挙示の自白以外の証拠により自白が補強されていることは明らかであるから、前提を欠き、その余の点は、単なる法令違反の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 被告人本人の上告趣意第三点、第七点について
 所論のうち、憲法三一条違反、判例違反をいう点は、原判決の主文によれば、原判決が被告人に不利益に刑を変更しているものでないことが明らかであるから、前提を欠き、その余の点は、単なる法令違反の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 同第六点について
 所論は、憲法三一条違反をいう点もあるが、実質は単なる法令違反、量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 同第一〇点について
 所論のうち、判例違反をいう点は、所論引用の判例は第一審公判廷での被告人の供述を第二審において証拠として採用することができない旨を判示しているものではないから、前提を欠き、その余の点は、違憲をいう点を含めて実質は単なる法令違反の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 同第一一点について
 所論のうち、判例違反をいう点は、所論引用の判例は事案を異にし本件に適切でなく、その余の点は、単なる法令違反、
 事実誤認の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 同第五点、第一二点、第一三点、弁護人植松功の上告趣意補充書による趣意第二について
 所論は、単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 弁護人植松功の上告趣意第二点について
 所論は、憲法三六条違反をいう点もあるが、実質はすべて単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、刑訴法四〇五条の
 上告理由にあたらない。
 同第三点について
 所論は、要するに、刑法二四三条に規定する同法二四〇条の未遂とは強盗が人を殺そうとしてこれを遂げなかつた所為をいうのであるから、原判決がAに対する傷害の結果につき被告人の過失を認定したのみで、何らの理由も示さず故意犯である強盗殺人未遂罪の成立を認めたのは、右法条の解釈を誤り、その結果、当裁判所昭和二三年(れ)第二四九号同年六月一二日第二小法廷判決、同三一年(あ)第四二〇三号同三二年八月一日第一小法廷判決と相反する判断をしたものである、というのである。
 よつて検討するのに、刑法二四〇条後段、二四三条に定める強盗殺人未遂の罪は強盗犯人が強盗の機会に人を殺害しようとして遂げなかつた場合に成立するものであることは、当裁判所の判例とするところであり(最高裁昭和三一年(あ)第四二〇三号同三二年八月一日第一小法廷判決・刑集一一巻八号二〇六五頁。なお、大審院大正一一年(れ)第一二五三号同年一二月二二日判決・刑集一巻一二号八一五頁、同昭和四年(れ)第三八二号同年五月一六日判決・刑集八巻五号二五一頁参照)、これによれば、Aに対する傷害の結果について強盗殺人未遂罪が成立するとするには被告人に殺意があることを要することは、所論指摘のとおりである。
 しかしながら、犯罪の故意があるとするには、罪となるべき事実の認識を必要とするものであるが、犯人が認識した罪となるべき事実と現実に発生した事実とが必ずしも具体的に一致することを要するものではなく、両者が法定の範囲内において一致することをもつて足りるものと解すべきである(大審院昭和六年(れ)第六〇七号同年七月八日判決・刑集一〇巻七号三一二頁、最高裁昭和二四年(れ)第三〇三〇号同二五年七月一一日第三小法廷判決・刑集四巻七号一二六一頁参照)から、人を殺す意思のもとに殺害行為に出た以上、犯人の認識しなかつた人に対してその結果が発生した場合にも、右の結果について殺人の故意があるものというべきである。
 これを本件についてみると、原判決の認定するところによれば、被告人は、警ら中の巡査Bからけん銃を強取しようと決意して同巡査を追尾し、東京都新宿区a丁目b番c号先附近の歩道上に至つた際、たまたま周囲に人影が見えなくなつたとみて、同巡査を殺害するかも知れないことを認識し、かつ、あえてこれを認容し、建設用びよう打銃を改造しびよう一本を装てんした手製装薬銃一丁を構えて同巡査の背後約一メートルに接近し、同巡査の右肩部附近をねらい、ハンマーで右手製装薬銃の撃針後部をたたいて右びようを発射させたが、同巡査に右側胸部貫通銃創を負わせたにとどまり、かつ、同巡査のけん銃を強取することができず、更に、同巡査の身体を貫通した右びようをたまたま同巡査の約三〇メートル右前方の道路反対側の歩道上を通行中のAの背部に命中させ、同人に腹部貫通銃創を負わせた、というのである。これによると、被告人が人を殺害する意思のもとに手製装薬銃を発射して殺害行為に出た結果、被告人の意図した巡査Bに右側胸部貫通銃創を負わせたが殺害するに至らなかつたのであるから、同巡査に対する殺人未遂罪が成立し、同時に、被告人の予期しなかつた通行人Aに対し腹部貫通銃創の結果が発生し、かつ、右殺害行為とAの傷害の結果との間に因果関係が認められるから、同人に対する殺人未遂罪もまた成立し(大審院昭和八年(れ)第八三一号同年八月三〇日判決・刑集一二巻一六号一四四五頁参照)、しかも、被告人の右殺人未遂の所為は同巡査に対する強盗の手段として行われたものであるから、強盗との結合犯として、被告人のBに対する所為についてはもちろんのこと、Aに対する所為についても強盗殺人未遂罪が成立するというべきである。したがつて、原判決が右各所為につき刑法二四〇条後段、二四三条を適用した点に誤りはない。
 もつとも、原判決が、被告人のBに対する故意の点については少なくとも未必的殺意が認められるが、被告人のAに対する故意の点については未必的殺意はもちろん暴行の未必的故意も認められない旨を判示していることは、所論の指摘するとおりであるが、右は、行為の実行にあたり、被告人が現に認識しあるいは認識しなかつた内容を明らかにしたにすぎないものとみるべきである。また、原判決は、Aに対する傷害について被告人の過失を認定し、過失致死傷が認められる限り、強盗の機会における死傷として刑法二四〇条の適用があるものと解する旨を判示しているが、右は強盗殺人未遂罪の解釈についての判断を示したものとは考えられない。原判決は、Aに対する傷害の結果について強盗殺人未遂罪が成立することの説明として、Bにつき殺害の未必的故意を認め、同人に対する強盗殺人未遂罪が成立するからAに対する傷害の結果についても強盗殺人未遂罪が成立するというにとどまり、十分な理由を示していないうらみがあるが、その判文に照らせば、結局、Aに対する傷害の結果について前述の趣旨における殺意の成立を認めているのであつて、強盗殺人未遂罪の成立について過失で足りるとの判断を示したものとはみられない。
 以上のとおりであつて、原判決が当裁判所の判例と相反する判断をしたものでないから、論旨は理由のないことが明らかである。なお、所論引用の当裁判所昭和二三年(れ)第二四九号同年六月一二日第二小法廷判決は事案を異にし本件に適切でないので、右判例違反をいう点は刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 よつて、同法四〇八条、一八一条一項但書、刑法二一条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
  昭和五三年七月二八日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官  環 昌一
            裁判官  天野武一
            裁判官  江里口清雄
            裁判官  高辻正己
            裁判官  服部高顯

昭和53年判決の裁判長裁判官は環兄ですね。環弟も裁判官で弁護士をされていたころあったことがあります。貝塚ビニールハウス殺人事件の無罪をだした裁判長でした。
  故意の個数について深入りするなら井田『刑法総論の理論構造』成文堂・2005年・83頁以下
 この判決は強盗殺人について理解してから読まないとわけがわからないので、2年には荷が重いものです。(刑法総論は学部2年配当がおおい)。


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