水曜クビクビ日記520：運命は踊る&負け犬の美学

テルアビブに住むミハイル&ダフナのフェルドマン夫妻の元に、イスラエル国防軍の人間が現れた。夫妻の長男ヨナタンは、いま国防軍兵士として国境検問所の警備任務に就いている。そんななか軍の役人がやってきたということは、間違いなく悪い報らせだ。ドアを開けて彼らを迎えたダフナは卒倒し、「残念です。ヨナタンは任務中に死亡しました」と告げられたミハイルは言葉を失ってしまう。

しかし数時間後、失意の2人の元にまた同じ軍の役人がやってくる。彼らが言うには「すいません、間違いでした。息子さんは生きていて無事です」…しかし、ヨナタンがいま何処にいてどんな状況下にいるのか、いつ帰郷できるのかまるでわからない様子だ。激昂したミハイルは、今すぐ息子を帰宅させろ！と怒鳴りつけ、役人たちがアテにならないと解ると、コネを使って軍上層部に電話してヨナタンを至急テルアビブに戻してくれるよう掛け合うのだった。

その数日前の、国境検問所…4人チームで検問ゲートに立つヨナタンたち。通るのは数台のクルマとラクダだけ。平和と退屈が敵というマッタリした時間が流れ、ヨナタンは暇すぎて自作のコミックを描いている状況だった…


「運命は踊る」。イスラエル映画です。

以下、最後のネタバレサイドストーリー




よくミリタリ映画を観てますと、無線でアルファベットを単語で表すシーンに遭遇します。

Aアルファ
Bブラボー
Cチャーリー
Dデルタ
Eエコー
Fフォックストロット

てな具合。で、このフォックストロットってのが一体何なのか長年不思議だったんですが、本作でやっと判りました。原題がfoxtrotなんですな。ダンスのステップの一つで、前→右→後ろ→左と動く流れ。即ち「元の位置に戻る」んです。これが本作のテーマ…ま、意訳すると因果応報ってことでしょうか。

この映画、とても分かりやすい三部構成になっています。一部が訃報の通知とその訂正パート、二部が検問所生活パート、三部がその半年後パート。各パートに共通点があって、それは「元の状態に戻る」こと。訃報が間違いだったことで元に戻る。検問所での事件が無かったことになり元に戻る。夫婦の亀裂が埋まり元に戻る。しかし、一見元に戻りながらも戻らない何かがある…という不穏な空気が流れ続けるのも三部共通だったりします。特にメタファーとして生きているのは、タイトルのフォックストロットを除くと、あの検問所のコンテナですね。映画全体の重さを象徴するいいメタファーでした。

画面一発で状況・時制を説明する力もなかなかです。三部目が未来のパートであることは、不気味な壁絵の位置が変わっていたり寝室が殺風景になっていたりの映像一発で判りますよね。検問所生活がどんな様子なのかも、ラクダ横切りの映像一発で理解できますしね。

というわけで、非常に良く出来た映画と呼ぶにやぶさかじゃない一本。それにしてもあのラクダだよ、ラクダー（泣）！





ルアーブル在住のプロボクサー、スティーブ・ランドリーは46歳、成績は49戦中13勝3分け33敗。美容師の妻と中1の娘オロールと幼い息子オスカルを抱え、安いファイトマネーとレストランのバイトで食いつないでいる。オロールにはパリでピアノの勉強をしたいという夢がある。これを知ったスティーブは何とか収入を上げてピアノを買ってやりたいと考えるが、ロートルの負け越しボクサーに試合のオファーなんかやってこない。しかしあるとき、欧州チャンプ・タレクが王座奪還のためスパーリングパートナーを募集していることを偶然聞きつけた。そこでスティーブは、タレクのコーチに必死に自分を売り込みにいくのだが…

「負け犬の美学」。フランス映画です。

以下、敗者がいるからネタバレがいる。




チャンプとのスパーリングは限界なしにボコボコにされるので、試合以上に危険。ゆえにギャラは高額。何とかスパーリングパートナーの座をゲットしたはいいが、パワー不足でコーチに呆れられ、チャンプからは侮蔑され…という散々なオッサン哀歌でしたね。主人公と俺とのシンクロ具合がここまで高い映画も無いなあ。年齢、同じ。業界における立ち位置、同じ。存在感の無さ、同じ。嫁と仲良くて子供に尊敬されてるだけ、スティーブのほうが幸せかもしれないが（笑）。マチュー・カソヴィックの枯れた感じが絶妙。どこかダスティン・ホフマンを連想させます。娘オロールを演じた女の子は、ショートカットが可愛くてオッサン客の心を掴むこと必至。公開スパーリングで客席にいた彼女の気持ちを思うと、泣けてきちゃいましたよ。

…花のあすか組を愛するせー吉兄さんには特におすすめしたいヒロインですね(^_^)