プリキュアに救ってもらえなかったあなたへ

　この日曜は特に予定もなかったので、朝にやっている『HUGっと!プリキュア』をリアルタイムで観た。
ちょくちょく観てはいたのだが、宿酔いだったり、寝ボケていたり、出掛ける支度をしながらだったりすることがほとんどなので、丸々一話、意識明瞭な状態で観るのは久々。
じっくり観ていて、ふと、あることに気がついた。
気がついたというより、薄々感じていたことが確信に変わったといった方が正確か。

（この番組は、ドラマと、“変身ヒロインもの”としての要素が完全に乖離しているのではないだろうか）

　例えていうなら、懐かしの『中学生日記』のラスト5分に、お楽しみコーナー（ヒロインアクション）がくっついているような感じ。
知らない方のために、ザックリ書くと、今週はこんな話だった。
（固有名詞が心許ないのはご容赦を。）


　プリキュアのブルー（アイドルも兼務している）に医者モノのドラマ出演が決まり、取材のため、総合病院で職業体験させてもらうことに。
（なぜか、ほかの4人も一緒にくっついてくる。）
病院に到着し、ブルー（とシルバー）は産婦人科を見学。
産婦人科の病棟には、帝王切開による出産を控えた母親と、その娘がいた。
母親は帝王切開という出産方法を選んだことに引け目を感じており、娘の方は弟or妹が産まれた後、母親が自分に構ってくれなくなることを危惧していた。
ブルーは母娘の心に寄り添い、それぞれの不安を和らげてやるべく奔走する。

　そんな折、悪の組織の幹部が現れ、件の病院の近くで、乗ってきた車の調子が悪いことにぶんむくれていたサラリーマンを怪人に改造し、暴れさせる。
騒ぎを聞きつけたプリキュアたちは変身して、怪人を撃破。
その間に、母親の帝王切開手術は滞りなく成功。
職業体験を終えて病院を去るブルーに対して、娘は満面の笑みで感謝の言葉を贈るのだった。


　面白くないというワケではない。
プリキュア（ブルー）が成長する話としては成立している。

・帝王切開にコンプレックスを抱いている母親たちへのエール
・“インターネットの情報がすべてではない”という提言
・生命、医療の大切さ

　といった、耳障りのいい（≒SNSで盛り上がりそうな）メッセージが満載。
さらに、“病院内の場面では、レギュラーキャラクターもマスクを着用”など、リアリティーも万全だ。

　しかし、みんな“サラリーマン”の存在を忘れてないか？
扱いが軽いどころか、プリキュアたちはサラリーマンの存在すら認識していない。
役場が人里に現れた熊を退治するかの如く、粛々と倒したに過ぎないのだ。

　車の調子が悪くなっただけで、怪人にされてしまう程のストレスが突如発生したとは考え難い。
彼だって、“プリキュアに救われるべき”事情を抱えていたのではないだろうか。
（それとも、この世界では、“車の不調を嘆く”ことすら、許されざる大罪と見做されるのだろうか。）

　一方で、母娘の方は、悪の組織に狙われているワケでもなければ、「手術には失敗のリスクがあって……」といったサスペンスが設定されているワケでもない。
ブルーが介入しなかったとしても、出産は成功し、娘も自力で不安を克服したであろう。
そうなると、プリキュアが救うべきはどちらだったのか。

　最近の傾向からして、シリーズの終盤、プリキュアがレギュラーの敵を惨殺することは稀である。
大概、“改心”、“和解”といったプロセスが描かれ、プリキュアもそれを最大限にフォローする。
一年間、戦い続けてきた敵ですら気を遣ってもらえるというのに、今後、このサラリーマンが省みられることはない。
世界が平和になった後も、サラリーマンは世界のどこかで、調子の悪い車に対して呪詛の言葉を吐き続けるのである。

　ここに存在するのは、絶対的な“内”と“外”との断絶である。
プリキュアと接点のある者（＝内の人間）は、どんな些細な悩みであっても、敵であったとしても、プリキュアに救ってもらえる。
しかし、今回のサラリーマンのように、プリキュアと接点がない者（＝外の人間）は一切の事情を斟酌されることもなく、機械的に排除されるのみなのだ。

　果たして、このようなスタンスはヒーロー（ヒロイン）といえるのだろうか？
私もいつか、怪人にされるかもしれない。
しかし、プリキュアを応援していても、プリキュアのお友達ではない私は、恐らく話を聞いてはもらえないだろう。
一発ゴンされて終わりに違いない。
そう思うと、少し淋しい。


※追記

　書きながら、（今回もネットニュースになりうそうな内容だなー）と思っていたら、本当になっていた。

■「帝王切開は立派なお産」プリキュア出産回に経験者から賞賛の声「世の中の誤解が解ければいい」
(キャリコネ - 10月09日 14:21)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=210&from=diary&id=5323514

　あらすじはコピペさせてもらえばよかった（笑）。