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2018年10月09日00:28

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《Going my way》《きっと無限増殖》《お馬さんぱかぱか》《ちー+! 04》

《Going my way》

ギャンブラー思考と言うのか、今や家族と言うか、友人と言うか、俺の中ではそんな曖昧な位置付けとなってしまった爺さんが身近に居るが、母親と同棲しているので顔を出せば、自然と爺さんとはけっこうな長話となる。

少年期に戦争に見舞われ、青年期に一家財産を食い潰し追い出され、裸一貫で当時の古き良きヤクザ事務所を素人のままに出入りし、世を知り、複数の表社会と裏社会を行き来し、会社を立ち上げ後継を残し、今では庭の畑にて自家製作物に精を出す、マンガから飛び出たような人生を歩み続けるじい様だ。
人生が人生なもので、体中日本刀の傷跡だらけ。よくもまあ生き延びたものだと感心するが、当時の時代光景を思えば珍しい話ではなく、生きるか死ぬかという歩みの中で、運よく生き延びた類に含まれた結果…というのがしっくりくる答えなんだろう。

『Going my way』を自らの謳い文句としたじい様には後悔を心持ちにする事は一切無く、結婚し、家族を持ちながら、その理解を得つつ、何故か俺の母さんと一緒に住んでいる俺の人生七不思議的存在なのだが、『関係者でおまえが一番懐き難くて困った』とか言いながら、それでも俺を可愛がってくれている。

宵越しの金を持たない主義か、手にした金はとにかくズンダカ浪費する傾向にあり、元が社長なのでその利用先もなかなかに考えさせられる。
驚いたのがパチンコ浪費。勝つとか負けるじゃなく、淡々と出入りする球を眺めて時間を潰すアフター5な毎日…。とにかく手持ちを残さない事に専念する徹底ぶり。

しかし、一度とはいえ長い期間で『文なし』生活を送った苦しみはさすがに二度と味わいたくない思いがあり、同時に誰にも味あわせたくない思いが強く、部下にはきちんとした給料を払い、仕事に必要な道具は惜しまず購入するしっかりとした社長でもあった。
薄命を察知すると人でも犬でも植物でも助けてしまう性格なのだが、一時は会社事務所が犬だらけになってしまうほど『薄命』を見捨てられない。
ちなみに母さんも路頭に迷う真っ最中の『薄命状態』を拾われた身であり、家族事情を知って常に窮地と考えた爺さんは当時の妹2人の面倒を見てたりもした。完全無条件。というか、貰いっぱなし。
当然、俺の事も気に掛けてくれてたが、俺は俺で残された家を守る意味で猛反発。勘違いによるいざこざがあったものの、最終的には『まあ、てぃーのは仕事してるから大丈夫っしょ』という結論になったようで、俺だけ孤立無援状態。

そんな爺さんはパチンコから足を洗って既に15年以上が経過するが、その理由は俺の母さん。
いつものようにパチンコに興じ、その日、たまたま母さんが一緒に居た。
遊戯中に3箱出たため、惜しみなく母さんに3箱とも渡し、共に遊戯する。
すると母さんはそっちの運が無いらしく、見事なまでのノーチャンスで全ての球が飲まれてしまう。
一発4円。3箱となると簡単に計算しても、当時のドル箱で6000発。24000円の損失だ。こんなんで金を失って何が楽しいのか? とても不思議に思った筈だ。

…で、当時の若き爺さんにストレートな感想。
『バカじゃないの?』

爺さんの長きパチンコ人生に終止符が打たれた瞬間だった。

毎日の浪費の行き先が失われ、その結果、家が建った。畑が2面出来た。その畑に様々な野菜、果物、花が息吹いた。営業用の自動車は全車両が一新され、そのどれもが自分で行った結果に出たものだから、全てが気になって全て自分で面倒を見るという徹底ぶりだ。
『何となく』と言う理由で120万のテーブルセットを購入し、早速犬に傷だらけにされて『あ〜あ…』と声を上げる姿は何ともあの人らしく、気が付けばタバコの火の跡だらけにもなっている。

つい10年前までは様々な社長に囲まれ、様々な親分に囲まれ、表裏一体となる絶妙にして奇妙な日本の実態の中を行き来していたのだが、それもまた彼の表現する『Going my way』なのか、ある日を境に綺麗さっぱりと全てから足を洗い、現在に至る。

それにしても、あらゆる方面からの『追手』や『監視』が皆無なのだから、双方に対してよほど重要な人物でありつつも、どこまでも中性を保ち続けた事が伺える。普通はこうならず、ズルズルと尾を引き、最後には大体利用されて全てが終了する。

…ま、普通じゃないってコトか。


《きっと無限増殖》

そんな爺さんも数年前に配送を引退し、月に数度の金銭処理だけでやりくりをする生活だ。
と言っても、これまでの社長経験はダテではなく、正攻法な金銭の捻出が素晴らしい。
母さん宅は赴く度に水槽が増え、鉢植えが増え、これまでの付き合いの名残からか、様々な地域からの植物が花を咲かせる異界ぶりだ。
家の内部全てが立体型メルヘンというか、簡単には説明出来ないところが残念だ。
簡単に数字で表せば、大体こんな感じ。
果実の木:大体10種
野菜の苗:大体10種
観葉植物:大体50種
花系:大体50種
手製ドライフラワー:大体10種
水槽:大体15槽
鳥のえさ場:2か所(カラス出現により撤去済み)
熱帯魚を中心とした魚:うじゃうじゃ。それでも3か月前に、親戚や業者に240匹ほど分けている(現金ではなく餌で交換)。メダカも凄い数。大雨に見舞われても流され切れない数。
犬:一匹(何代目かは既に不明)
タヌキはく製:1体(事故による瀕死状態を助けようと思ったが手遅れ。可哀想に思って剥製化。当時10万の給料から5万を割いた、職人曰く傑作品。…ナルホド、30年を経た今でも毛質に一切のほころびが無い…)
鶏はく製:1体(事故による瀕死状態を以下略)
なんかもう一つはく製:1体(事故以下略)
ムードライト:10基
ルームアクセサリー(果実):そこかしこ
ルームアクセサリー(観葉植物):壁一面
動物像:約10体
人魚などの架空生命体像:3体
他:大・絶・賛・増・殖・中・!!

まあ、とにかく凄い数で、凄い種類。前回行った時は果実が色々と実ったタイミングで、巨峰とマスカット、赤玉スイカに黄玉スイカ、メロンに早めの柿とか、そんなモン同時に出されて困った。そして桃がぜんぶ盗まれていた事がもっと困った。一番の楽しみなのに。(けっこう盗まれている。でも、どうせ食べ切れないからと気にしていない)。

食物は当然食べるが、それ以前に作る事が趣味なので、畑サイズの作物なんかは当然食べ切れない。…なので、顔を出すと毎回凄い持ち帰りとなる。完全無農薬は腐り易いが、やはり市販のものとは比較にならない味わいがあるな。…と、ここ最近で納得。レタス10個…どうしよう?

ある時、尋ねた事がある。(盗賊)リピーターが出るくらいの味と品質で、しかも食べ切れない量の実りなんだから、業者に売れば? と。
回答は拒否。
そうなるとノルマが発生してしまい、純粋な『育てる楽しみ』が出来なくなるという事。ならば盗まれつつも、その反応で『聞く事の無い出来映え』を知る事の方が楽しいとか。そんで『回収する時は若い衆を集める』とも言ってた。

にゃるほどねぇ…。(ちなみに盗みを働く人物宅の全てはとっくの昔に補足済み。本人に見付ける気はないが、周囲ご近所さんが情報を持ち込む)


《お馬さんぱかぱか》

そんな爺さんの現在の趣味の中に、復活したギャンブルがあったりする。
その内容は競馬。少し前から興味を持ち始め、そうかと思えば既に彼なりの研究が進んでいたのは相変わらずな行動の早さであって、開始早々にプラス収支に持ち込み、それを現状維持している。と言うか、勝ち過ぎ。
勝負は必ず日曜日。気が向けば土曜日も。いずれも気が向いた競馬場で行われる11Rのみの一本勝負。つまりは毎週最大2回の勝負に限られる。
購入は必ず三連単で、組み合わせは概ね5〜15組の各1000円賭け。1回の勝負で5000〜15000円だから、毎週10000〜30000円を賭ける事になっている。
見返りが大きい分、当然ながらヒットは少ないが、毎回狙いの3頭中の2頭は予想通りに入り込むのだからけっこう驚かされる。ちなみに馬単や馬連で購入していれば、実に7割以上がヒットしている事を随分前から俺が確認している。
ダンゼンプラスに持ち込める判断力と的中率なのだが、どうして抑えに馬単・馬連を買わないのか? と言う俺の問い掛けに、こう答える。

『ギャンブルしている気になれない』

なるほどねぇ〜…。わからん。

そんで、ヒットしたレースで手にした金は貯金なんかには回す気の無い爺さんは、毎回必ず周辺の顔馴染みを交えて温泉旅行に行ってしまう。
もともとが浪費家なので、金を遣う事が一番の楽しみなのだろう。
お土産の数だけ旅行に行っている事になるわけだが、今年だけでも10回以上は行っている気が…。そんでいつでも1泊2万以上の旅館先に最低4人以上で乗り込むわけだから、これまでの金額を予想すると、何故か俺が眩暈を覚える額となるだろう。

ちなみに爺さんは10万以下返りの勝負結果を『勝ち』とは判断せず、ドロー扱い。競馬の申し込みは知人を頼るため、勝利時はどんな金額であっても必ず1割を手間賃として与え、発生した税金処理も同時に任せ、差引9万を切った勝利時には回収も面倒という事で預けっぱなし。…金持ちの考えが分からん。

今年は既に『20回ちょっと』勝っているらしく、手にした勝利金は13回。つまり爺さんは最低130万の回収を行い、同時に13回の温泉旅行に行った事になる。ちなみに勝利金の残金はいつでも限りなくゼロに近い。使い過ぎだ。それでも知人に預けてある金銭には目もくれない。きっとその知人も増え続ける『ドロー金』に困っている事だろう。

今年の上がりは勝利回数こそ多いものの、実りは少ないとか。30万クラスが1回と、40万クラスが2回と言っていたが、これは悩みなのかな?

ちなみに競馬に関する彼の一番の想い出は、『鼻先1センチ』で逃す結果となった、1億4000万だか1億8000万だかのレース。この時ばかりはギャンブルに興味の無い母さんも席を立ち、判定中のテレビに見入ったとか。

爺さんの最高勝利収支は180万150万140万と続き、150万と140万に関しては2週連続の勝利だったとか。最初の150万勝利は旅行と新車購入に消費し、予想外だった140万に関しては小遣いとして社員に5万ずつあげちゃう太っ腹。…やるねぇ。
ちなみに俺は社員ではないため、ビタ1文無し。この辺はきっちりとわきまえる人。まあ、俺も言わるまでも無く理解しているけどね。と言うか、その辺の信用が無ければこんな話聞かされない訳だが。


《ちー+! 04》

第一章 チータス・レジエン1-3

【ケルナの森付近】

 面倒に思えたパンペット採取も事が終わるとあっけなさを感じるが、これは面倒な思いが先走る結果であり毎度の事と言ってしまえばそれまでの話だった。
 今回回収できたパンペットの数は54本。幾つかの枝に密集して実っていた事もあり、短時間にしてはなかなかの数だった。
「皮、食べれるかなぁ?」
 集めたパンペットを並べ終えたナルミがそんな事を言う。
 パンペットは中の身を洗剤として利用するが、皮は暫く放置していると甘みを帯びた、一種のおやつとして食する事が出来る。どうしても規模の小さな片田舎では特に子供向けの食品が限られてしまうのだが、パンペットの皮はそんな子供たちの目線に映る、数少ない甘いおやつなのだ。
 ただし、皮を食べるに至るまでは数日間の時間が必要となり、その日数は採取の度に変化してしまう。運が良ければ3日もすれば充分な甘みを備えるが、そうでないと10日以上待つ事も珍しくはない気まぐれな存在だった。
 ナルミは次のキャラバン到着を気にしているのだろう。こちらも気まぐれな到着と出発を繰り返す存在なのだが、前回の出発時期を考えると次の到着までの期間が差し迫っている事が、感覚的にではあるが窺えた。
 当然、将来の路線を決定付ける為の『試練の年』と『パンペットの皮』を比較する事は出来ないが、それでも最後となるかもしれないチータスと一緒に収穫したおやつの素だ。ナルミの本意としては、これを一緒に食べない訳にはいかない思いがある。
「ねえナル、聞いていい?」
 丁寧にパンペットを並べたナルミとは対照的に、それをボコスカと袋に投げ込むようにして入れるチータスが声を上げる。もちろん、ナルミの声を聞いていなかった訳ではないのだが、それ以上に気になる事があったのだ。
「………うん?」
 急なチータスの質問はけっこう珍しいと思ったナルミは、返事とも表現し難い声を返す。
「ナルっていつも魔法の勉強してるけど、実際のところ、それを覚えて何がしたいの?」
 チータスのナルミに対する疑問は至って率直だった。
 まずもってチータス自身が『将来』という未来に対して特別興味を持つ訳でもなく、『試練の年』と言われる一年間の生活にしてもこれといった重要視はしていない。
 もともと農家の娘という事もあってか、その跡継ぎが自然と最重要に考えていたので、未熟ながらも多少は両親の手伝いもしていた。いや、させられていた。
 そんな延長上にわざわざ『試練』と付け加えられなくても、何もしない訳ではないし、そもそも何もしなければそれはそれで家族が黙っていない。周辺の家庭がそうであるように、特別な理由がない限り、嫌々でも現在の生活は年齢を重ねるごとに両親の日常と一体化されてしまう。そう思っていた。
 チータスの主観からするナルミだってそうだ。
 ペナ・リノで父親が今も経営する旅館については影も形も知らず、話を聞いても今一つピンとこない内容ではあるが、それは立派なナルミの将来の道筋なのではないのか。
魔法に興味があってそれらを体得する行為を咎める気は無いが、そういった能力を表に出す事を好まず、教師として生徒を作る気も無いその考えにも掴み所がない。
「ねぇ、ちぃ、お弁当箱に唐揚げ残ってたよね?」
「ちょっと、人の話聞いてる?」
 水を差され呆れつつも、弁当箱を取り出すチータス。
「あはは、ごめん。…んー、目的は無いかなぁ。…なんか、興味がどんどん湧いちゃって、…ただそれだけ。…あ、4個ある! 3個だと思ってた!」
 チータスはナルミとの付き合いが当然ながら長い。そんな理由で理解できるのだが、ナルミは興味のある事に対してはひたむきに頑張る傾向がある一方で、そうでないものに対してはまるで目線を向けない性格でもある。もともと嘘をつく事が苦手だが、それ以前に嘘という概念が備わっていないと表現しても差し支えがない程に本音しか述べる事がないため、今の回答のように、魔法を覚えるのは好きだが、だからといって、その先に興味が全くないと言われてしまえば、それはそれでナルミの本心なのだ。
 チータスとしては『世界征服!』なんて言葉が飛び出せば本気で驚きつつも応援の一つもしてみたくなるが、今のナルミは魔法や試練の年以前に『唐揚げ』に思考が集中してしまっている。
「ちぃもどーぞ♪ おいしいのよー♪」
「いや、ソレ、あたしが作ったんだけど…」

 いずれにしてもナルミの魔道追求とは単なる採集のようなものであり、『結局は何の目的も無かった魔道追求』という事でチータスの疑問は幕を閉じる事になった。


【ケルナの森】

「そういえば、この森の中ってどうなっているのかなぁ?」
 残り物の唐揚げを2個ずつ食べ終えると、ナルミはそう言って『ケルナの森』の内部を気にし始めた。
 今日の目的であったパンペットの木は日当たりの強い場所に育つ事で有名であり、森の外枠を形成するように立ち並んでいる。そのため遠目には森そのものがパンペットの木の集まりのような錯覚を覚えるが、実際には影が多くなる内部にパンペットの木が存在する事は珍しいと言われていた。
 では、パンペット以外の木が立ち並ぶ事になる森の中がどうなっているのかと尋ねられれば、実は村人のほとんどが知らない内容である。
 早い話が森の内部に興味の湧くものが存在しない結果、話題そのものが遠退いているという理由となるが、今となれば遠退き過ぎた話題故に内部が謎めいた場所となりつつあった。
「どーなっているんだろうねぇ?」
 ナルミの疑問はすぐに理解できた。今まで気付かなかったが、ナルミの視線の先に人の行き来したような道筋と呼べそうな獣道があったのだ。
 チータスは自宅の応接間に掛けられているベレーレル周辺の地図を思い浮かべてみた。
機械文明にほとんど縁の無い世界の地図の全ては、特定の人物が実際に歩く事で描く手製の地図が主となる。その内容は実際にその場を歩いた個人の記憶に頼り切る地図となる事が当たり前となり、あらゆる方向に限界があるようだ。
時に命がけともなる地図制作の数々は、高価な値段の割に詳細な記録が数少ない結果となる場合がほとんどであるが、この世界ではむしろそれが普通であり、大ざっぱな地図の上に持ち主が見聞きした内容を書き加えて完成させるのがこの世界の表現する地図なのだ。
自宅の地図がどういった経緯で存在するのかもチータスにとっては気にする話では無かった存在なのだが、記憶に現れない謎めいた道が奥に続いている事を知ってしまうと、少なくとも自分の家族や周辺の村人が知る道ではない事が窺える。そうなると、ちょっとした興味の一つも湧いてしまうものだ。
 しかし、森の中の探索は想像以上に危険が付きまとう事は、さすがにチータスも理解していた。
「きっとなんも無いよ。せいぜい木こり職人の作業現場とか、へんくつ爺さんの住処とかしかないんじゃないの?」
「わかんないよ? 魔力アップのお宝が眠っているかも」
 いかにも興味なしといった口調で言葉をつくり、遠回しに諦める方向に導こうとするチータスに対し、妙な想像論を切り返すナルミの声は高らかだ。
「あのね…」
『結局は魔道関連かよ』と言いたくなる気持ちを抑え、少し間を置く。ナルミの魔道に関する興味が並々ならない事は既に承知であるが、何でもかんでも魔道に繋ぎ合せようとするのも問題がある。しかし、それを言ってしまえばナルミが変に強情になる事も理解しているので、そうさせないような中性的な言い回しが必要とされるのである。
「お宝ならいいけど、獣に襲われるかもよ? モンスターも居るかもよ? 食べられちゃうかもよ?」
『食べられる』。我ながら悪くない言葉の選び方だとチータスは内心で思った。『危険』な行為を『危険』と伝えたところでナルミには通用しないだろう。なにしろ、村の外にそうそう出る機会のないナルミが『危険』の意味を知らないのだ。
 ここは村の内部とは違い、確実な安全が保障されない村の外である。平野の中の移動なら離れた位置から確認できる脅威から身を逸らす事が可能だが、遮蔽物が多く存在する森内部などでは視界が制限されてしまい、仮に迫る脅威があった場合などの反応に遅れが生じてしまう。
そんな場合、特に争い事のいろはも知らない自分たちにとって危機に瀕する事は、わざわざ考える必要もない話だった。
ちなみにチータスの言った『獣』とは人を襲う可能性のある肉食獣を主に指し、『モンスター』は見境なしに生命に危害を加える可能性が高い存在の全てを指した。ケルナの森の内部がどんな生物の生活圏なんて知りもしない話だが、村人が興味を示さない分に比例した未知的不明要素が存在する事になる。
やはりここは大人しく引き返すのが賢明だろう。
珍しい話ではあるが、安全を優先しようとするチータスにナルミは元気に答えた。
「ちぃが居るから大丈夫!」
 何も判っていない。というよりも、何も判ろうとしていない。
「あのね、迷子になる可能性もあるんだぜ? わけの分からないまま入り込んでそれっきり…って話も聞いた事があるし、せめて村に帰って誰かの話を聞くのもテじゃないの? パンペットも荷物で重いんだよ?」
「ねぇ、早く行こうよぉっ!」
「おまえ人の話聞く気ないだろ?」
 やはりチータスの知るナルミだ。一旦何かに対して興味を持つと、話し相手のチータスの言葉すら耳に届かなくなる。今や弁当箱も放り投げてしまい、獣道の入口に近付いて見える限りの内部を覗いているようだ。
 そうしたナルミは満面の笑顔で振り返る。
「ちぃ! 早く! 決めたら即実行しなきゃっ!」
「いや、決めてねーし。…ったくよぉ…」
 なおもはしゃいで森の入口で騒ぐナルミに対し、そう小さくぼやくチータス。
 普段であれば、危険と感じたら強引にでもナルミの手を引きその場を離れ、『怒鳴って怒って頭ひっぱたいて謝らせてついでに泣かす』のオリジナルフルコースが飛び出し、兎にも角にも諦めさせる方向に持ち込むのだが、先ほどの『試練の年』の話が離れず、急にナルミの消える生活を考えると、いつもの口調から始まる『自分』を出す事が出来なかった。
 一方で、チータス自身も森の内部に興味がないわけではない。そういった意味で、本意と言われればそうなのかも知れず、ナルミと共に生活する思い出作りにはもってこいな内容でもある。
何より、数日の時間が経った後に『やっぱり行っとけばよかった…』なんて思うかもしれない自分を考えると、ここは内部に足を踏み入れるべきでは? なんて事さえ思ってしまう。

「しゃーねーなぁ…」
 ぽそりと小さく呟き、チータスはある種の意を決した。
 森の中に関しては何度考え直しても一つの情報も思い出せないが、同時に危険な話もまったく聞いた事は無い。つまりは何の変哲もないただの森なのだろう。
 チータスはパンペットを詰め込んだ袋を背中に担ぐと、気分を『思い出作り』に切り替え、既に『中に入らなきゃ帰らない』といった雰囲気を出して止まないナルミへと近付いた。


《あとがき》

我が道を突き進んだ結果の爺さんの人生は奇抜にして奇妙だが、今が楽しいからという爺さんの言葉の裏を探ってみると、悲しい過去が見当たらない。
見当たる事といえば、いつ殺されてもおかしくない日常のみだ。
そんな爺さんも戦争真っ只中の少年期には、『目の前の置き忘れ、宝石がぎっしり詰まった袋』よりも、『今現在、両手で持つおにぎり』を守る事に専念した時期があるというのだから驚きだ。
誰にでも『昔』は存在し、誰もが『子供だった時代』があるという事実。
当たり前だけど、それでも不思議。
歩き方一つで人生は変わるものだ。


農家育ちでもない爺さんは農業が上手い。上手いと言うか、研究熱心な行動の結果、上手な育て方を熟知するに至るようで、代々農業を営む本業の方も驚いている話だ。
そもそも無農薬にこだわった農作物の管理は1種類でも大変だというのに、それぞれが小規模とはいえ、2桁管理は尋常ではないとかなんとか。
そんな拘りの作品のため、もともと人の手による盗難は相次いでいるのだが、悩みはむしろ野鳥の類だとか。
追い払いたくとも動物好きなので追い返す行為はしたくない。驚かすのも躊躇われる。そんな理由から出た結果が、『いっそ飼ってしまおう』という結論でえさ場の設置。
すると来るわ来るわ。スズメを筆頭にウグイス、メジロ、なんだか知らんが綺麗な鳥。
そんな鳥たちが出入りするようになって糞を落とすようになって、糞に混ざった山の珍しい花の種が芽を出して見事に咲き乱れて…。なんだい、このロマンいっぱいな話は?
やがてえさ場に目を付けたカラスが乱入し、それは騒がしく、小鳥が殺されるという思いからえさ場を撤去したが、無論、それからは小鳥が来る事はなくなり、代わりに備えられる事の無いえさ場の警護にカラスが監視する毎日に繋がり、敷地内の平和は保たれる今現在となっている。
ちなみに鳥ってブドウの実を器用に皮を取って食べるのね。


爺さんの競馬総収支を考えると凄い事に気が付く。大きなアタリが少ないため本人は納得していないが、計算すると…?
勝てる人には勝てるやり方があるわけで、勝てる買い方をするから結果が付いて来るだけの話に過ぎず、驚く話ではないと昨日納得。



ちー+!の発足で短く抑える事になる見込みだった日記だが…、明らかに増えてる…。
ちなみに現時点で9991文字。リミット間近だ。

書く事があるって悩ましい。でも止まらない。

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