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2018年09月19日23:46

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水曜クビクビ日記514:判決、ふたつの希望


レバノン、ベイルート。BMW修理工場を経営するトニーは身重の妻を抱えて真面目に生きる男で、熱心なキリスト教右派党員である。ある日、家の前で違法建築改修工事が始まった。トニーが二階のバルコニーに水を撒くと、作業員たちが壊れた排水口から噴出するその水をモロに浴びてしまう。作業監督のヤーセルがトニーの部屋を訪ねて、お宅の排水口を直さないと作業ができないんだが…と話すと、ムッとしたトニーは家の前で工事なんかするなと追い出した。トニーの冷ややかな態度は、ヤーセルの訛りのせいだった。話し方から、ヤーセルがパレスチナ難民だと判ったのだ。アイツらは被害者ヅラしてレバノンじゅうに居ついてやがる。そう、トニーはパレスチナ人を毛嫌いしていたのだ。ヤーセルはそんなトニーを無視して、外から勝手に排水口を修理してしまう。ヤーセルの勤める会社は、この地域の違法建築物を修理して良いと議員からお墨付きを貰っているからだ。しかしトニーは、ヤーセルの目の前で新しい排水口をカナヅチで破壊する。その態度に激昂したヤーセルは、つい、「このクズ野郎」と悪態をついてしまうのだった。この言葉が、トニーの憎しみに火をつけた。彼はヤーセルの会社に乗り込み、謝罪しないと訴えると息巻いたのだ。上司の命令で、渋々謝罪に赴くヤーセル。だがそこで、トニーがヤーセルに言ってはいけない一言を口にしてしまう。「お前らなんかシャロンに皆殺しにされてりゃ良かったのに」…ブチ切れたヤーセルはトニーをぶん殴り、肋骨を折ってしまったのだ。こうして些細な諍いは暴行事件となり、やがて法廷闘争に発展してしまう。そして……


「判決、ふたつの希望」。レバノンの映画です。


以下、ネタバレの希望。

フォト


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中東の映画にあまり縁がなく、勝手にファルハディっぽい作風だと思いこんで身構えましたが、音楽の使い方やサプライズ演出がエンタメ映画っぽくて拍子抜けしました。監督がタランティーノの撮影アシだった人なので、ハリウッド映画をよくわかっているせいでしょうかね。

さて内容ですが、中東の歴史を知らなくてもまぁついてはいけるけど、ちょっとはレバノン内戦について知っていたほうがいいですかね。1970年代の初めにヨルダンがPLOを追い出したことでパレスチナ難民が大量発生する「黒い9月」事件。これでヤーセルが難民となり、彼らの流入によってレバノンが右派(非パレスチナ・キリスト教)と左派(親パレスチナ・イスラム教)に分裂、度々お互いに殺しあうことになっちゃって、幼児期のトニーも右派の村に住んでいたことで戦闘に巻き込まれ、パレスチナ憎しの芽が育ってしまうんですね。そして80年代、右派に肩入れしたイスラエルの国防相シャロンの「監視下」で、パレスチナ難民キャンプで大量虐殺が発生し、イスラエルが世界的非難を浴びたんですな。つまりこれがヤーセルを激昂させた言葉の意味ってこと。実は巧みにレバノン素人にも判るように歴史を教えてくれる映画的語り口が素晴らしいですよね。

当事者2人の思いとは全然違うマクロな話に広がって制御不能に陥っていく展開は、とてもドラマチック。弁護士2人の関係が明かされる瞬間はちょっと衝撃だし、退屈度は無し。トニーとヤーセルの相似点…ドイツ製は信用できるが中国製はね(笑)、みたいなとこはニヤリとさせられて、ヤーセルのクルマを治すとこと、判決前夜の「決着」は感動的です。レバノンと日本は比べようはないけれど、外国人がこれだけ暮らしている今の世の中。トニーとヤーセルのトラブルも他人事とは言い切れませんよね。色々と考えさせられる作品ではありました。もっと外野をしっかり…右派とパレスチナの対立の泥沼化など…を描いてくれたら、評価は高いんだけどなあ〜
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