《更に崩れた陣形》《トイレショッキング》

《更に崩れた陣形》

はてさて、どうしたものか。土曜日には恩師の去ってしまったわけだが、別の倉庫ではこれまた恩師の一人が重大事故を起こしてしまっていた。
他者を巻き込まなかったのが唯一の救いだが、肝心の本人は腰の骨を砕く重症。絶対安静だとか。
事故は怖いね。俺も数週間前に人知れずひっそりと落下事故を起こしていたワケだが、まぁ、一歩間違えば生死を彷徨うハメになる事故しか起り得ないからね。あっさり死んでしまうならまだしも、苦しみもがいて…というのは想像するだけでちょっと…。

そんな恩師は…情報不足のために何とも現在では分からないのがもどかしい。半身不随とかにならなきゃいいけど。

そんな重大な理由から、別倉庫の一つも人員不足。どうやって立て直すんだろうね。人事で悪いがなかなかの見所であって、知識人の人の動かし所だな。
でも、俺の倉庫には潜伏就職活動者が2人ほど居たりする。そして退職希望者も2人…。合計4人の離職希望者だが、会社が知る離職希望者は1人。

どれだけ求人募集を掛けても人が集まらない現状。仮に人がわんさか投入されても戦力化するまでの時間は短くないし、来る者拒まずの採用は結果的にサルばかりを生み出してしまう。こうなると人手不足なんて言葉とは異なる危険性が増すな。

俺は…展開的にけっこう面白そうだからセロハンのような厚みの眼差しで見守るが、バイトくらいは探さないと気まずいかもね。

…でもなぁ、ボーナスは悪くないんだよなぁ…。今の会社…。

一番の理想は宝くじ一等が重複して当選して一生のんべんだらりんな私生活。ああ、憧れ…。なんかヒマそうだ。そして堕落しそうだ。


《トイレショッキング》

かつての運送業界といえば、ほぼ100％が男の世界。まあ、未だに傾向は男性一色なのだろうが、それでも時代の流れというか、女性が活躍する時代というか、就職分野の狭さというか、所得問題というか、まあ、女性もだいぶ増えて来たわけだ。こんな過酷な環境でも。

そういやボロ屋をひたすら拡張したような倉庫というものはだいぶ過去の話であって、最近は物流倉庫であってもなかなかの近代化ぶりとなっている。
昔は『女性トイレ』となると、その存在位置は事務員が滞在する事務室付近だけ、…というのがセオリーだったが、今は当たり前のように現場にもしっかり女性トイレがあるものだ。
…でも、肝心の女性側がその事実に気付かない事があるようで、『作業現場＝男性トイレのみ』という法則を維持する女性も散見するような話を耳にしていた。

俺の滞在する今の倉庫は…、まあ、ボロい。古い。いかにも昭和な雰囲気が充満しており、実際に昭和生まれの倉庫だ。

そういった外見や先入観からか、すぐ隣に存在する女性トイレを見落としている女性ドライバーが、稀に男性トイレの内部を窺っている姿を目撃する事がある。
要するに他の男性が居ない隙を見計らって『突撃用足し』をする構えなのだが、…まあ、言いたい事も分かるので、目撃時は呼び止めてやんわりと隣の扉を指示していたのだが…。

今日は本当にびっくりした。

俺がひっそりと個室で用を足し終え、そろそろ出ようかと立とうとした頃合いに、トイレ空間に誰かがやってきたようだ。
顔に似合わず俺はとってもシャイ　←　なので、誰かの滞在を知って出る勇気は無い。あってたまるか。
…ので、スマフォを無意味に眺めて脱出可能な時間を待つ。

やがて、誰かが去ろうとするのが分かったので、見えない空間の全てを鮮明にイメージし、対象人物の背中が遮蔽物に隠れる事で視野から消え去る瞬間を待ったが…。

すれ違いに新たな人物が来てしまったようだ。ぬぅ…。
出入り口付近で軽く挨拶を交わす2人の声は、俺とも良く話す人物。
普通に言うなら、ここで扉を開けて俺が登場しても別に気にされる事もないだろう。
…が、やっぱ、とってもシャイ　←←　な俺は、脱出を今しばらく待つ事に。

しかし、そろそろ時間的に休み時間が終了に近付き、他にも人がワラワラと押し寄せてしまう時間に突入してしまう。残されたチャンスは数少ない事だろう。

2人目の人物が用を足し終え、鼻歌と共に遠ざかるのが分かった。ここだ！

バンッ！　という勢いは付けていないが、どういう訳か、俺が扉を開いたタイミングですごい音！？

半身、身を乗り出した状態で、無意識に音の方向を見ると…！

やはり半身だけ出し、硬直した表情でどこぞの女性ドライバーが、俺を直視していた…。

多分、彼女は俺が来る前から入っていたんだろうな。…で、俺がもの大人しかったから、気が付かない内に出て行ってた…とか思い込んでたんだろうな。あとは俺と同じ意識で…。

これと同じ状況の話は聞いた事があったが…。

あ〜…びっくらこいた。


《あとがき》

隣の存在を見落とすってのは、なんかアホっぽいけど、けっこうあるもんだよね。

俺の場合は『手に持ったまま探す』という行為がワリと多い。

例えば、ポケット関連といえば良いのか、通常右ポケットに入れてある鍵が見当たらず、慌てて探していたら左手で持っていた。
とか、
スマフォを見ながら左胸のポケットを探って慌てる（いつもスマフォを入れている）。
とか、
本当にひどいと、車の運転中に何気なくズボンの右ポケットに手を当て、（あれ！？　鍵が無い！？）…とか。
運転しているだろって話だね。

こんな行為をボケる、みたいな言い回しをする場合があるけど、ホント、そんな感じ。
多分、俺は小学生の頃からボケているんだ。