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2018年08月30日05:07

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小説 夏の終わりに 2

小説 夏の終わりに 2
「この娘、なかなか頭がいいぞ」
 俺は雨合羽を脱ぎ、ヘルメットや雨靴を玄関口に置いて一段上がった台所へ上がりながら思った。まだ5時前なのだ。世間はまだ夢の中に在る。俺の部屋は1階の角部屋とは言え、2階にも隣にも住人はいる。彼らの眠りを妨げないよう、少しの気づかいはしている。俺が無意識に声を潜めたことでそれを見抜いた少女はそれなりに感が良く、一通りの常識を持っているようだ。
 台所へ上がる時に、少女が右手を差し伸べた。上がるのを手伝おうと言う意志だと判断した。別に手を差し出されなくても、じゅうぶん上がれる高さだが、好意は拒否すべきでない。
「でも困ったぞ・・着替えねばならないのだけど、どこで着替えよう・・」
「おじさんオモシロ・・ここ、おじさんの部屋よ。どこでも自由に・・いつものように」
「いつも一人だからね。スッポンポンでトイレへ行き、スッポンポンで戻って着替えるのだけど・・」
「いいわよ。いつものようにして・眼をつむってるから・・」
 不思議な朝だ。寝る時電気を点けっぱなしで部屋の内鍵をかけない習慣の俺の部屋の中に、見知らぬ少女がいて、いくら急いでいたからとは言え、少女を残したまま俺はいつものように新聞を配り、まだ身元も名前も知らない少女と気さくに会話している。しかもまだ10代であろう少女と70の爺さんとは言え独り暮らしの飢えた狼。常識的にはあり得ない光景だ。少女は狼の恐怖を知らないのだろうか?男はいつだって狼になることを知らないのだろうか?
「そうだよなぁ・俺の部屋なんだよなぁ・・だけど女性の前でスッポンポンになるのはなぁ・・トイレ狭いし、俺は閉鎖恐怖症的なとこがあってね。トイレのドア閉めたこと無いし、おならもするし・・」
 声を潜めてしゃべると案外顔が近づく。内緒話しでもするように、俺の耳元へ唇を寄せる少女の胸がすぐそばで揺れている。(続く)


獅子座クウネル日記獅子座
 今朝新聞を配っている家の庭に、彼岸花が1本さいあているのに気付きました。秋の虫の囀りも日に日に多くなっています。まだ暑いとは言え、秋の気配です。そう言えば8月も明日までですね。そろそろ写真t撮らねば・・
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