これは酷い偏見記事

医局が問題点を抱えているという指摘は正しい。
しかし医療界の問題点を何でも兎に角医局に結びつけようというのは問題に対してきちんと向き合っていないばかりか、
偏見によって真の問題点を分からなくしてしまう弊害がある。

最初に言っておくと、女性医師が働きにくい問題の最大の原因は、妊娠、出産、育児は女性の仕事という医学界（というよりは日本社会の、というべきかもしれないが）に根強く残る困った認識に由来するもので、
特定の制度の上の問題ではないと思う。
（昔よりはましにはなっているがまだまだ存在する）

確かに分娩という現象は女性の体にしか起こらない現象ではあるが、妊娠から育児に至るまで一貫して夫婦（あるいはパートナー）で協力して取り組む対象であり、女性だけの問題ではない。
生物学的に性差はあるので性差に由来する適材適所という考え方には一定の妥当性はあるとは思うが、それを超えて偏った部分がある。

まずはこの偏りに取り組むべきであって、医局の問題に取り組んでも解決されるのは別の問題になる。



以上はじめに私の見解を表明した上で、この記事の偏見について指摘して行きたい。



1. 卒後最初の数年は雑用ばかりで方針にタッチできない

それは医局の問題ではなく指導医に指導する気のないことが問題だ。
そして指導する気のない指導医は医局に多い訳ではなく、どこにでも一定数いる。

確かに大学病院において、研修医を雑用係程度にしか思っていない診療科（≒医局）はある。
一方で医局に依らず独自に研修医を確保している病院の指導体制もまたその病院次第であり、
酷いところになるとあまりの人手不足のために本来ならば指導医の指導の下でしか診療してはいけない研修医に一部の患者の診療を丸投げしているところもある。

一方、大学病院において充実した指導体制を持つ診療科もあるし、一般病院においても同様。

つまり指導体制の良し悪しは医局の利点でも欠点でもない。



2. 大学病院と一般病院との待遇格差

これは実際に存在する。

ただ、私大は知らないが国公立大学は大学としての俸給表に従うことになるので、医師だからと別の俸給表を設定するのは難しい様子。

大学に限らず、国立病院機構や厚生労働省医官などは民間よりも薄給になる訳で、
これも医局制度の問題点ではなく経営母体の俸給支給制度の問題。



3. 医局の人事権の強さ

実際、強い。

ただ、他大学出身者を好まない大学もありはするものの、
大学入試が入社試験を兼ねるというほどにガチガチではなく、
入学と入局とは基本的に別物。

一部の大学では指摘の通り弊害となりうる。



4. 式辞で「産むな」

さすがにそれは極端な例だとは思うが、そういう考え方をする教授は確かにいる。

ただ、教授固有の問題かというとそうではない。

一般病院の部長はみんな女性の労働に協力的で、
教授たちはみんな非協力的かというとそうではなく、
大学病院と一般病院とを問わず、そこのヘッドがどうかという問題であって医局の問題ではない。

医局の問題として挙げられる部分は、関連病院ごとに育児支援体制が違うので、派遣先の選定においてその点が考慮される可能性はありうるかもしれない。



5. 開業医と病院との関係

これは、知らないので何とも言えないが、
開業医が自分のところの医局の出身者か否かなんて、
ほとんど気にされていない気がする。

若い医師になればなるほど、昔の古い医局員なんて知らないし、
紹介の電話を受けた時に気にするのはそこではない。

断られた側からすれば、そう勘繰りたくなる場合はあるのかもしれないが。



6. 関西の医局勢力図

これは些末な間違いなのだが、京大と阪大とが市内に強いというのはとんだ勘違いだよ。
阪大は知らないが、京都市内で強いのはむしろ京都府立医大であって京大ではない。
京大の関連病院はむしろ京都府北部、滋賀県北部、大阪府北東部、兵庫、岡山などであって京都市内はむしろ弱い。

この匿名の先生はあまりご存知ないようだが、そういう状態だ。



7. 入試の地域枠

地域枠は医師の偏在が問題視された際に作られた仕組みで医局主導で作られた枠組みではないよ。
大学としてはどこも「卒後は残って欲しい」と思っているだろうけれどもね。

大学よりは行政側の施策だ。




閉じた業界なので外から把握しにくい部分はあって、
その点記者には同情しますけれども、
正しくない情報を流されるのは甚だ弊害が大きく困ります。

きちんと取材して下さい。



■「とりあえず子どもは産むな」と言われ…女性医師たちを待ち受ける修羅場
(AERA dot. - 08月24日 11:32)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=173&from=diary&id=5257896