毎朝、透は僕が保育園に連れて行く。
電車から降りても僕たちはすぐに出口へ向かわない。
ホームの途中で透と僕は立ち止まる。
通過する準急や急行を見るため
通過待ちしてる各駅停車が発車する時に先頭車両のライトが「ピカッ」と点灯するところを見るため
その電車がホームから見えなくなるまで見送るため
先頭車両より更に前のホームギリギリは屋根が途切れていて日差しが直接あたって背中から首がものすごく暑くなる。透に直接日差しが当たらないように影を作るため僕は暑さから逃げられない。ライトの「ピカッ」を見せないとご機嫌を損ねて歩かなくなるので、保育園まで約5分の道のりを抱っこし続けるのとどちらがマシか?という選択になる。
先日は、無理やり連れて行こうとしたら号泣してしまい抱っこしていたら、駅前で共産党のチラシを配っているおばさんに笑われながら「頑張って」と声をかけられたことすらある。
それ以来どんなに暑くてもどんなに急いでいても電車が出発するのをじっと待つことにしている。
他の乗客は「あの親子、今日もあそこにいるよ」と思っているのだろう。
その日もいつものように左手で透と手をつなぎ、右手のタオルで汗を拭いながら電車の通過を待っていた。
すると通過待ちをしている各駅停車の運転席から運転士さんが降りてきてくれて「電車好き?はい」と透にポストカードを差し出してくれた。
びっくりして戸惑う透を促し「ありがとう、って言うんだよ」と返事させ受け取ったら、すぐさま運転席に戻っていき定刻通り出発していった。
毎日の僕たちを見ていて知っていた運転士さんかもしれないし、初めて見かけてくれた人かもしれない。
どちらだとしても混雑する朝に秒単位の運行を強いられてる間にしてくれたサービスは本当に嬉しかった。
運転士さんは透に気を使ってくれたに違いないが、僕にとっては「お父さんガンバレ」と応援してくれたように思えた。ポストカードの電車の写真を見ながら喜んでいる透よりも僕のほうが嬉しかった。
少し涙ぐんでしまったけど、汗と一緒にゴシゴシ拭いたから透には気が付かれなかった。
そのポストカードは家に帰ってから透に渡したから既にグチャグチャになっているけど、でもいつかおもちゃ箱を片付ける時にコッソリぼくのキャビネットに移して大事にしまっておこうと思っている。
運転士さんが「僕たち」にくれたご褒美なのだから。
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