３月５日。天気曇り。
４時３０分起床。今日はロンドン南西のヘイスティングズ周辺を見て回る予定。この後イギリス旅行中最大の悲劇、後世にいう「ヘイスティングズの悲劇」が待ち受けていようとは、この時は思いもしなかった。
６時３０分ホテルを出る。フロントでは兄ちゃんが椅子に座ったまま毛布を被ってイビキをかいて寝ている。夜勤お疲れ様です。そっと外に出る。
地下鉄でチャリングクロス駅へ向かう。地下鉄には全然人がいないな。７時に到着。掲示板を見ると７時１５分に電車が出ると表示されている。急いで往復切符を買ってホームへ。無事７時１５分の電車に乗り、ヘイスティングへ向かう。
９時４分ヘイスティングズ到着。この路線も人があまり乗ってないなあ。
９時３７分発の電車でライへ向かう。９時５５分ライ到着。
ライは中世の街並みが残された町でる。他の町と違って石畳の道までそのままの状態で残されているので、とても雰囲気が良い。
しかしそんな石畳の道を普通に現代の車が走っていく姿に何か違和感。馬車とかが走ってる方が雰囲気が合いそうだんだけどな。
石畳の道は凸凹で歩きやすいとは言えないが、これには理由がある。ライの町は坂道が多いので凸凹を作って馬車を引く馬の蹄が引っ掛かりやすいようにしていたのだ。で、その道を馬車が取らなくなった今でもそのままに残している。素晴らしい事だと思う。
コッツウォルズも中世の雰囲気を残していたけれど、ライは道まで当時のままなので中世の雰囲気感が半端ない。俺以外には観光で来たっぽい老夫婦しか歩いていないので、たまに走る車以外は中世ヨーロッパの世界に入り浸れた。
１０時３０分、ライのイプラタワーに入る。ドアを開けて中に入ると見事な髭を生やしたお爺ちゃんがチケットを売っている。お爺ちゃんからチケットを受け取ってタワーを見てまわる。
イプラタワーは１１世紀に建てられた城塞の一部で規模はとても小さい。中は博物館になっていて拷問器具とか武器が展示されている。
とても小さなタワーだけど、これまた小さな礼拝堂がちゃんとある。どの城に行っても礼拝堂があるなあ。海上自衛隊の護衛艦にも必ず神棚があるように、古今東西どこでも人にとって神様の存在は大事なんだな。
タワーの上に出ると彼方まで広がる草原が見渡せた。草原の先まで行ってみたい衝動に駆られたけど、もちろんそんな訳にはいかない。
３０分とかからず中を見終わり外に出ようとすると、爺ちゃんが「中庭も見れるぞ」と言うので中庭も覗いてみる。
小さな倉庫があったので中に入ると急に女性の映像と音声が流れだしてビビる。センサーで流れようになっているようだな。ちょっとしたホラーだ。何言ってるのかは分からんが倉庫の暗い雰囲気もあってお化け屋敷みたいな感じだった。正直イギリス旅行中で一番怖かったな。
中庭はとても小さな可愛らしい庭園。春には花が咲いて綺麗だろうな。
タワーを後にしてライの町を散策。すると急に古めかしい石壁の門が現れた。どんな謂れがあるのかは分からないけれどこうした物が急に現れるからイギリスの町散策は面白い。
商店街の方へ行くと意外にも人通りが多くて店が沢山あって活気がいい。
古本屋にちょっとしたイラストが描かれた紙があったのだが、これが何とも日本のマンガっぽいイラスト。中世の町の中にこんなイラストがあると不思議な感じがする。
小さいけど２階建ての本屋があったので入ってみる。2階にMANGAコーナーがあって日本のマンガがある。どこの小さな本屋でも必ずMANGAはあるなあ。イギリスで一番浸透しているのはマンガだな。次にマリオやピカチュウといったゲームキャラクター。
裏道を選んで通りながら駅に戻る。駅前のトイレで用を足しているとトラックから髭を生やしたおっさんが慌てた様子で降りてきて用を足していた。どこの国でもトイレを我慢する様子は同じだねえ。
１１時５０分の電車でヘイスティングズに戻る。
１２時２０分ヘイスティングズ到着。バトル行きの切符を買う。ここから本格的な悲劇が始まる。
バトル行きの電車の時間を駅員に聞いた時に「トゥエルブ、サーティー（12時３０分）」を何故か14時３０分と思い違いをしてしまう。
昼にバトルに行く予定にしていたのが狂ってしまった事により、何か色々と歯車が狂いだした気がする。しかし後々になって元々の計画が破綻していた事に気が付くけど後の祭り。
とりあえず先にヘイスティングズを見て回る事にする。
ヘイスティングズは大きな港町だ。店も人も多くてとても栄えている。駅には何故か常時2人の警官がいた。女性の綺麗な警官が印象的だったけど、何かあったのかね？でも警官は雑談していて切迫した雰囲気ではなかったので日頃から居るのかもしれない。
実を言えば当初はヘイスティングズで何泊かしようかとも考えていたのだけど、エディンバラからロンドンに戻るのだけで面倒になったので止めたのだ。しかしこんなに大きな町なら何泊かしてゆっくりしても良かったかもしれない。
まずは駅から東側にあるヘイスティングズ城へ向かう。駅からも丘の上に城が見えていて、この町の名前にもなっている城だ。丘の上には歩いても行けるのだが、ガイドでケーブルカーがあるとあったので乗ってみる。‥乗ってみたんだけど予想以上に面白くなかった。トンネルを通っているだけなので見晴らしが良いとかも何もない。これは失敗だった。
ケーブルカーで丘の上に出ると歩いて数分で城に到着。
ヘイスティングズ城は１０世紀にウイリアム1世がたてた城。現在は廃墟と化している。
城に到着したけどゲートが閉じられていて中に入れない。仕方ないので周りから城の外観だけ見ることにする。丘の上からは海もよく見えるし町全体も見渡せてとても見晴らしがいい。ウイリアム1世もいい所に城を建てたもんだ。
丘には学生の集団がいるのだが英語ではない。何かドイツ語っぽいな。連中も城にはいれないので丘の上で各々自由に行動している。
そんな連中に混じって景色を堪能してから駅に戻る為に丘を降りる。ここからイギリス旅行中で唯一本気で道に迷う。方向音痴の本領発揮である。いつものごとく裏道の住宅街を歩いてみようと思ったのが悲劇の始まり。
すぐに駅に着くはずなのに住宅街を歩いても歩いても駅に着かない。方向は間違っていないはず（間違ってたんだけどな！）なのだが。
スマホを出して地図アプリを見ながら歩くけど上手く駅に着かない。住宅街なせいもあって歩いている人もいないので道を聞くこともできない。かなり歩いてようやく道路標識に駅の方向が書かれているのを見つける。
結局、駅の南に行くはずだったのに駅の北側から回り込んで西側まで行っていた。どこでどう間違ったのやら。
電車の時間まで少しあるので屋台の中華屋で焼きそばと肉まんを潰したようなやつを買う。飲み物にティーと注文したらミルクティーだった。中国茶かと思っていたので意外。
この屋台は中国人熟年夫婦がやっていたのだが、この中国人のおばちゃんが「ユー、チャイニーズ？」と聞いたきた。残念そうに「ノー」と答えるととても残念そうな顔をしていた。
味は焼きそばが激辛だったけど美味い。肉まんを潰したやつも肉汁がたっぷりで美味い。やっぱり中華は味が安定してるな。ちなみに箸ではなくてフォークが付いてきた。やっぱり割りバシなんてないよな。
屋台はなかなかに繁盛している様子で、入れ代わり立ち代わりお客が来ていた。
14時３０分の電車でバトルへ向かう。一度ロンドン方向へ戻る事になるのでお金と時間の無駄ではある。でもバトル駅がコンウイのように無人駅で券売機も無かったりした場合、切符の買い方がよく分からないので面倒だけど安全策をとってヘイスティングに戻る方法を選択したわけ。
バトル駅に到着すると案の定無人駅。駅前には商店も家も見事なまでに何もない。
テクテク歩いてバトル・アビーに向かう。道沿いに僅かに家が並ぶ田舎町。俺の前を大きな犬を散歩させるお姉さんが歩いている。付かず離れずの距離を保って歩く。別にお姉さんのケツを見ていたかった訳ではないぞ。町の写真撮りながら歩いていたらたまたまそうなっただけだ。
バトル・アビーの近くまで来てようやくお姉さんと犬を追い抜く。追い抜く時に犬が俺を見ていた。
ここバトルはその名の通りヘイスティングズの戦いがあった場所である。１０世紀にウイリアム王がハロルド王を倒した戦いでイギリスの天下分け目の戦いである。
そんな古戦場の博物館バトル・アビーに15時頃に到着。駅前には何も無かったけれどバトル・アビー周辺にはお店や学校があって少し栄えている。
あまり観覧時間が残っていないので急いで入り口に向かうと「クローズ」と書かれた看板とともに扉は固く閉ざされていた。入り口の前で呆然と立ちすくんでいるとおじさんが歩いてきて「どうしたんだ？」と聞いてきた。何で閉まってるの？と聞くとおじさんは看板を指さして「月曜は休みだ」と言う。ガ〜ン！楽しみにして来たのに〜！ガイドブックを見直してみると確かに月曜休みと書いてある。俺のバカ！バカ！バカ！本当にバカ！！
おじさんに別れを告げて再びテクテク歩いて駅に戻る。「ここで千年前に大きな戦いがあったんだなあ」と歴史に思いを馳せながら半泣きで歩く。
道に迷ったり、電車の時間を聞き間違えたり、博物館の休館日を調べずに行動した結果起こった悲劇。これが後世に語り継がれる「ヘイスティングズの悲劇」の顛末である。まあ俺の脳内でのみ語り継がれる悲劇だが‥。人に話すと喜劇になるようだが‥。楽しんでいただければ何よりです。
バトル駅に着くと電車がホームに入ってくるのが見えた。ダッシュでホームへ向かう。が、ギリギリ間に合わない！と思って諦めかけたのだが、走ってる俺を見た若い男の車掌さんがドアを開けて待っててくれた。
悲劇にあった直後に触れる異国での人の優しさ。思わず泣きそうになった。息を乱しながら「サンキュー」と謝意を伝えると「ノープロブレム」と本当に「何でもない当然の事だよ」という感じで返してくれた車掌さんはとてもかっこよかった。俺もあんな風にかっこいい人間になりたい。
ヘイスティングズ駅に戻り、下車する時にもう一度車掌さんに「サンキュー」と伝える。車掌さんは頷き返してくれ電車は走り去っていった。
そのまま折り返して15時３１分の電車でロンドンに戻る。
17時３０分頃にロンドンに到着。ホテルに戻る。沢山歩いたのでヘトヘト。
写真� ．薀い粒絞造�
写真�◆〆犬�ヘイスティングズ城。右には眼下に街並み。手前の連中がドイツ人ぽい
写真�� バトルにて。ヘイスティングズの戦い古戦場
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