７月２９日。「新田原基地休日広報の日」に行ってきた。
この基地公開は「自衛隊の普段の仕事を見せる」という事で近隣住民向けに行われたもので、新田原基地周辺以外の人は事前申し込みで千人までしか入れない。俺は運が良かった。
今回の基地公開は色々と初の試みが行われて非常に素晴らしかった。以下長々と書くけど、それだけ凄かったのだ。
新田原基地所属の全飛行部隊が訓練を行い、全ての部隊が2回づつ飛行。本当は２３飛行隊はサードも飛ぶ予定だったみたいだけど、飛行予定時間前に早々にインテークに蓋をしていた。台風の影響で飛行中止したみたい。
飛行は普段の訓練通りなので離発着とタッチ＆ゴーが見られるのみ。派手な飛行は無い。という話だったけど３０５飛行隊はハイレートかましたり、救難はラぺリングしてくれたりと少しサービスしてくれた。人によっては面白くないと思うかもしれないけど、普段の自衛隊の本当の姿を見せるのが目的なのでこれで良いのだ。
特に飛行前後の点検の様子が見られたのは興味深い。間近で最初から最後まで点検の様子を見られたのは初めてだ。ぶっちゃけ整備員の動きを見せるのが一番の目的だと思う。これだけ飛行前と飛行後に点検してるんだという事を見せるのが大事なんじゃなかろうか。
でもエンジンも目の前でかけてくれたので迫力あったな。航空祭ではブルー以外が目の前でエンジンをかける事は少ないので貴重な体験だ。
ひとつ２３飛行隊の訓練で面白かった事がある。２３飛行隊は教育隊である。多分教育中のパイロットなんだろうけれど、訓練が終わってエプロンに帰ってきたときに間違った場所に入ってしまって、地上要員に「あっちだよ」と指示されて入り直していた。
格納庫では航空祭でも見られる事をやっていたのだけど、内容が微妙に違う。
エンジンの取り外しと取り付けは班長による事前の打ち合わせ確認から始まり、終わったら確認と終了後の打ち合わせまで見せる。
ギアの出仕入れも電源車の接続から班長の指示で全ての作業を行う様子を見せる。航空祭では班長の声掛けとかは無い。俺としては指示を出す班長がカッコイイ！
ミサイルは搭載だけではなく外すところやAIMの翼の取り付けと取り外しも見せてくれた。AIMの翼をあんな風に取り付けてるなんて知らなかったぞ。
それとF-15の翼の上を歩けたり、T-4とF-15の射出座席やパイロットの装備品展示など。
案内板で計器類や油圧やタイヤの整備とかも紹介している。
他の格納庫ではFー１５のコクピット展示。JとDJを分けて見せるのは珍しい。救難隊も別の格納庫で色々と展示。
格納庫前では気象隊の仕事も詳しく紹介されていて、基地の外にも出て色々活動しているのが分かる。
通信部隊の訓練では１週間山の中で風呂にも入らず、なんて紹介もある。こういう事ができる人がいないと飛行支援や災害の時とかに困るのだ。
基地の外で訓練した時は「基地に帰るまでが訓練です」と書いてあって、学校の「遠足は家に帰るまでが遠足です」を思い出して微笑ましく思う。自衛官も同じ人間なんだという事をこういう箇所で感じられるんじゃなかろうか。
といった感じで格納庫と周辺では普段脚光を浴びる飛行隊ではなくて、修理隊や補給隊や整備隊や検査隊といった裏方の仕事が紹介されていた。
一見するとこの辺りがメインと思ってしまうが、実際は違った。ここからが長い。
まずエプロンの展示。
エプロンに飛行機が並べてあるので見に行ってみると、そこは支援車両の展示の為の場所だった。
飛行機を引っ張るけん引車がT-4用とF-15用の2種類、電源車もT-4用とF-15用の2種類（機体によって色々違うのだ）、冷却用の車両、燃料車が案内板と一緒に展示してある。
俺の様な人間なら知ってはいるけど、普通の人は目に入っても気にも留めていない車両ばかりだ。俺にしてもここまで詳しく説明されているのは初めてお目にかかるし、知らなかった事だらけ。
飛行機が置いてあるのは車両をどう使うのかを分かりやすく見せる為（電源コードを繋いでいたり）であって、飛行機には案内掲示板すら無いという徹底ぶり。
更に凄いのが飛行機が事故で滑走路上で擱座した時に収容する為のクレーン車。こんなの初めて見た。他の見学者も「なんだこれ？」と不思議がっていた。パッと見ただけでは何をする車両か分からん。
そして普通の工場でも見られるフォークリフトとミサイルを搭載する為の専用フォークリフトを展示して自衛隊の特殊性を見せている。
他にも輸送機に荷物を搬入するためのローダーと言われる車両。これも民間でも使われるタイプとC-1やC-2等の輸送機で使う自衛隊でしか使われないタイプを展示して民間との違いを見せている。
ちなみにこの手の車両の運転には普通自動車免許が要るとの事。そこから更に自衛隊内で資格を取らないと運転できないとのこと。
でもどの車両にもウインカーが付いてるんだな。一般道を走らなくてもやっぱり必要なんだそうな。
オートマととマニュアルは統一されていなくて色々。
豆知識。けん引車のナンバープレートの末尾のTはトヨタ製の意味。日産だとNになるんだって。今度から注意して見よう。頭のTは「トーイングの意味だと思います」との事で自衛官さんもよく分からないらしくて謝られた。細かい事を聞き過ぎたな。
更に重機が置いてある。そこは施設隊の紹介である。昔で言う工兵だな。
本物と同じ滑走路を作って（距離は短いけど）、本当に爆破して復旧させる映像を見せてくれた。噂には聞いていたけど映像を見るのは初めてだ。
民間企業の工事と違って別々の作業を同時進行で行う様子が分かる。色々な車両が入り乱れて工事している。しかもメチャクチャ早い。これって実は凄いことなのだ。工事現場で仕事をした事のある人でないとこの凄さは分からないかもしれない。
しかもあれだけの事をして事故がない。自衛隊でこの手の工事で事故を起こしたなんて聞いた事が無いけど、よく訓練されているのが分かる。
あまり知られていないけど民間でマンションを建てる現場などではよく人が死んでいる。工事のおじさんが「大きなマンションやデパートを建てたら一現場で一人は死ぬ」と言っていた。さすがに極端だとは思うけど、俺も警備員時代によく死亡事故を聞いている。
東北の震災の時に空港を素早く復旧させた時の話も聞けた。こういうのは自衛隊でないとできないなと思う。
陸自の車両も3両展示されていて乗せてもらう事もできた。陸自の車両は駐屯地や色々なイベントでも見られるけど、空自のエプロンで展示するのは珍しい。
陸自の車両にも色々民間とは違う所があるんだけど、昔の日記で書いた事があるので今回は省く。
施設隊の自衛官さんとはお茶を頂きながら長話をした。
去年のU-１２５の墜落事件の話もした。その時のパイロットは元ブルーのパイロットという事で話題にもなった。
で、あの事故の原因としてパイロットがベテランでありブルーに乗っていたという事もあって、低高度の時に鳴るアラームに対して鈍感になってしまっていたのが要因としてあるそうな。機械よりも自分の感を頼ってしまうという技量の高いベテランだからこそ起こしてしまった事故という見方があるらしい。
つまりヒューマンエラーだな。こればっかりはどうやっても完全には無くならないものでもある。減らす努力はどこでもしているけどね。
俺も親戚がF-86のパイロットで墜落、殉職しているのでこの手の話は他人ごとではない。その辺りのお話もさせてもらった。
残念なのはあまり見学者がこの展示の方にいなかった事だな。施設隊では俺一人でビデオ見たり話をしたりしていた。もっと多くの人に見てもらいたいところなのだが‥。
そして滑走路の裏側。航空祭ではファミリーがくつろいでいる場所で各部隊の紹介。ここが一番今回の基地開放で見せたかった所なんじゃないかな。
基地警備隊や警備犬、消防車や衛生隊（医者の部隊。産婦人科以外は揃っている。歯医者までいるぞ）の展示はまあ分かる。凄いのはその他の完全な裏方の仕事の紹介。
通信では無線、モールス、有線と紹介。
衛星を使った無線は有名だけど、有線の部隊があるなんて普通の人は知らないだろう。紹介文でも「自衛隊のNTT」と書かれていた。有線の部隊はその説明通り「自衛隊基地内の電話を設置する部隊」である。なので展示してる電話は家庭でも見慣れたようなものから昔の黒電話まで色々ある。地味だけど大事な仕事。
無線も展示してあったのだけど、古いタイプの製造プレートには「１９７６年製造」と書かれていた。どういうことかというと「メチャクチャ頑丈」という事。全然現役で使えるそうだ。昔から軍隊とかでは頑丈である事が大事なのだ。性能良くても使えなきゃ意味ないからな。ただ問題もある。受話器が大きいのでヘルメットを被っていると耳に受話器が当たらないので、使用する時はヘルメットを脱がなければならない。新しいタイプも展示してあるのだが、そちらは耳に当てる部分が細くなっていて頭とヘルメットの間に入れる事ができるのでヘルメットを脱がなくても大丈夫。民間の受話器では見られない不思議な形をしている。
細かい事だけどこういう進化が大事なのだと分かる。もし戦場でヘルメットを脱いでいて何か破片が飛んで来て頭に当たったら死ぬからね。
モールスも最終手段として無くせないとの事。実際に教えてもらって打たせてもらった。しかしモールス全部覚えるのは大変だな。「SOS」は一番大事なので簡単に打てるようになっている。
衛星通信になると超ハイテク。システムが複雑で説明を聞いても分かりにくい。とにかく使えれば便利なのは分かる。使えるようにするのは大変だけどな。つまり使えるようにできる自衛官スゲエ！という事。
部隊名は忘れたけど、鳥を追い払ったりする部隊もあった。
その部隊にしかない散弾銃と空気銃が展示されている。この２つの銃は普通の自衛官ですら見たことがないというくらい珍しく、たまに見せると「何だそれ？」と聞いてくるとの事。群司令が直々に「展示しろ」とのお達しが出て今回の初展示となった。そんな話をしていたらいつの間にかその群司令が後ろに居てビビった。
この部隊は鳥を追い払うだけでなく、飛行機が飛べる環境を維持管理する為に非常に広い分野で働いている。聞いた話をほとんど忘れてしまったくらいに幅広い。基地見物してたらたまに滑走路を走っている青い車があるけど、こういう部隊の車らしい。
更にはボイラーを扱う部隊まで紹介している。分かりやすく言えば災害派遣で食事を作ったり風呂を用意できるのはこの部隊のおかげだ。これも普通は知られていない仕事だよなあ。
ちなみに「色々資格が取れるよ」と自慢していた。ボイラー技士ってやつだな。
で、一番凄いと思ったのは基地業務群のデスクワークまで紹介している。保険やら人事やら自衛官同士で結婚した後の事やら。本当に裏方の更に裏方。この人たちがいないと組織というものは機能しない。が、軽視されやすい。
俺は防府南北の基地モニターをしていたから多少の知識はあるけど、普通の人はまず知らないというか気が付かない仕事だ。今回の基地開放が住民に自衛隊を理解してほしいという思いが一番よく表れていたのがこういう仕事の紹介だと感じた。
でも紹介しようにも地味すぎて説明し難いんだよね。定年後の再就職を探す部署なんてのもあるんだけど、聞いててて楽しい話にはなりにくい。俺は好きだけど。
他にも何気なく路上に自衛隊車両がズラリと並べてあったりする。特に展示という訳ではないみたいだけど、SAMという基地防衛用の車両だったり見た目も普通のトラックとは違っているので質問している人もいた。
と、こんな感じの基地開放だった。自衛官と沢山話をすることもできて本当に良い広報だった。陸海空の他の基地でもやるべきだと思うな。
今回の新田原基地の広報のやり方は見ていて面白かったし、子供でも楽しめるようにしていたので良い参考例になると思う。
写真� 〆２鵑療玄┐念貳崢舛靴�った擱座した飛行機を吊り上げるクレーン車
写真�◆ゝ‖里鯏生，垢訐鞍�員と６０。一番日常的な訓練風景ではないかな
写真�� 今回一番撮りたかった敬礼して見送る整備員
レンズにゴミが付いてる！不覚！！
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