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2018年07月10日02:44

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ドイツとオーストリアに行ってきました #4 ひとりぼっちの王様とみっつのお城(後編)

<三日目 状況開始>
この日はまた朝から移動です。
ドイツ鉄道に乗って東へ、国境を越えてザルツブルグに入るのが本日のミッションですが、
その前に我々には行かねばならんトコがある

ドイツ-オーストリア国境付近の街
プリーン・アム・キームゼー!
今回の目的はルードヴィヒ二世の遺した三つのお城の内最後の一つ
ヘルンキームゼー城の見学である
前述のノシュヴァンシュタイン・リンダーホーフは比較的立地が近いので
まとめてツアー組んであるが
ヘルンキームゼーだけは離れてるのでここは別口で回らねばならんというわけ
しかしこの街
ねこるとにとってはそれ以上に特別な場所

そう
この小さな街こそ
学生時代のねこるとが語学研修で滞在した思い出の場所なのです

駅に着くと
その何もない小さな駅は
十三年前と変わらぬ姿で
僕を出迎え――

……エレベーター付いとるwww

駅舎内もキオスクに毛が生えたようなサイズの売店が
やや大きめの本屋のようになり
ばかに大きなコーヒーの自販機がぼこんと置いてあっただけの待合所には
ガラス扉がはまったライゼビュロー(こう、みどりの窓口的なものを想像して頂ければ)が入り

駅前に建ってた立ち飲み屋サイズのインビス(軽食堂)は
オープンカフェを備えたお洒落なレストランになり

全体的にちょっとでっかい建物が増えた感じで
あぁ、発展している……と
無責任な寂しさを感じた次第

感慨に浸っていたところで問題発生
コインロッカーが塞がっている
いや、正確には我々の目の前で完全に塞がった

もともとちっせー街のちっせー駅だから
コインロッカーなんて数える程しかないのである
まして我々が持っている一週間クラスの旅行用スーツケース(×2)が入るサイズなど……

ロッカーにスーツケースブチ込んで思い出の地を巡る計画だったが早くも当てが外れた
とりあえずヘルンキームゼー城に行くためには
お城の浮かぶキームゼー湖のほとりまで行かねばならぬ

キームゼー鉄道なる駅と湖の往復便が出ていると主張するヨメサンだったが
なんせ僕が言ったときはそのキームゼー鉄道も凍ってたので
そんなもん知らんのである

湖までスーツケース引きずって歩く!と主張する僕とヨメサンの間に険悪ムード発生
結局わがままを通す形で湖までの道をがらがら歩く事に

冬の時にはこの道にこんなに木々が立ち並んでいるとは知らなかった
いけ好かない東京からの留学生と飲み比べをして凍死しかけた道と
決戦の舞台となった酒場の前を通る
店の名は変わっていたが店構えはそのままであった

感慨にふけりながら歩いたので僕にとってはあっちゅー間であったが
スーツケースは二つとも僕が押したとはいえ
炎天下の中それに突き合わせたヨメサンには悪いことをした

この場を借りて

サーセンwww←

湖畔の船着場へ到着すると
レストランやインビスや土産物屋が見える
ここならスーツケース預けられそうである

……駄目でした!!

最後の望みをかけて船のチケット売ってるおばさんに声をかける
ねこると「ヘルンキームゼー城に行きたいんですが、スーツケース預ける所はこの辺にないですか?」
おばちゃん「この辺りにはないよ。船で一緒に持って行って、島のコインロッカーを使うといい」
そういうのもあるのか
ていうか、ここまで来といて結局城に行かないという手はないのである
おばちゃんから船のチケットを買って乗船
十三年前はこの湖 なんと丸ごと凍っていたので
ヘルン島へ渡る事はおろか
船で漕ぎ出すこともできなかったのである

十分強で城のあるヘルン島に到着である
島に入って少し歩くと
チケット売り場とお土産屋とインビスとトイレが一体になった複合施設がそびえていた

コインロッカーは――
トイレの脇に、はたしてそれはあった
のだが

ヨメサン「……小さくね?」
ねこると「どうやらそのようだな……」

とりあえず入れてみる

ゴン(ロッカーの奥に突き当たった音)

"ァ '`,、'`,、(´▽`) '`,、'`"

アウツ! 終 了 !!

その時であった
反対側の管理室みたいなとこから
化粧回しの似合いそうなおばちゃん(つよい)が咥えタバコで登場

おばちゃん(つよい)「そこには入れられないよ!」

知ってる、今試した
しかし反論するまもなくおばちゃん(つよい)は繰り返す

「大きな荷物は入れられないよ! こっちに来な!」

え、こっちに来なって言った?

おばちゃんは(つよい)は建物の裏手に僕らを連れて行くと、
ベンチでタバコ吸ってる別のおばちゃん(ふつう)に

「荷物を置くよ!」

なんて言って納屋の扉を開けた

言われるがまま掃除用具とか救急箱とか入ってる普通の納屋にスーツケースを入れる

おばちゃん(つよい)「いいかい、このノブを右に回すとドアが開く」
ねこると「鍵はないんですか?」
おばちゃん(つよい)「ないよ、帰るときは勝手に開けて持って行きな」

ええんかいな

ええんやろうと判断してお城へ向かうふたりの日本人

初夏の日差しが眩しい新緑の中を歩くこと二十分ぐらい
生垣の切れ目を入ると
目的の城はそこにあった

詳しい方はお分かりかと思うが
この城、ベルサイユ宮殿の写しである
敬愛するルイ十四世の居城を再現したものであるが
しかしそこは宮殿の匠ルードヴィヒ公
本物よりさらに長く作られた鏡の間には二千本のろうそくを灯し
リンダーホフでも見た魔法の食卓を備えた居間にはマイセン磁器製の巨大なシャンデリアを飾り
さらにオリジナルでは噴水専用であった水道を大きく広げて
トイレを水洗にし
(ちなみにベルサイユ宮殿にはトイレが存在しない)
あまつさえ巨大浴場まで完備してしまう――予定だった。

使用できる建物の部分には70の部屋があるが
完成しているのはそのうち中央の20部屋程度のみ
最も未完成な城なのである
王はこの城に、たった十日しか滞在しなかった
いや、できなかったのである
国王変死の報を受け、真っ先に発令されたのは
この城の建設を即刻中止せよ、との命令だったという――

生涯独身だったルードヴィヒ二世が唯一心を許した女性
オーストリア后妃エリーザベトは
彼の訃報を聞きこう言ったという

『彼は狂人ではありませんでした。ただ、夢を見ていただけなのです』

王は誰もが驚くような仕掛けや意匠を盛り込んだ城を三つも建造した
しかし、彼はそこで客人をもてなしたわけでも
舞踏会を開いたわけでもない

ただ、形を成した自身の夢の中に
ひっそりと隠れていたのである
太陽王ルイ十四世の栄華から約二世紀。
貴族が優雅で退屈な日常を送れる世の中ではなくなっていた
ただ
彼がもう少し、他者に心を許す男であったなら。
自身の”作品”を他社に自慢する程度の満身を備えていたら。
彼はまた違った生涯を、その人生で味わうことのなかった喜びを
手に入れることができたのではないかと思うのであった

――複合施設に戻って荷物を回収しに行くと
ベンチでタバコを吸っていたおばちゃん(ふつう)が
おっちゃん(ふつう)に変わっていた
一応お礼を言って納屋を開けると荷物が普通に置いてあった
いや、なかったら困るねんけど

おばちゃん(つよい)にも遭遇したので丁寧にお礼を言うと
おばちゃんはタバコをふかしながら
「いいのよ」
とだけ言った

余談であるが
ここのお土産屋もやはりパズル推しであった

帰りの船は
うわぁ、なんだかでっかいぞ
どうやらいくつかの船が持ち回りで回ってるらしい
今回は船内に売店があったので
青い空と湖を見ながら
ビールとワインでひとりぼっちの王様に乾杯

船着場のインビスでソーセージとラドラーを注文し
一服しながらキームゼー鉄道を待つ

キームゼー鉄道、速かったwww
一瞬で駅に到着www

短いバスを待つ間、スーツケースをがらがらと引きながら
ヨメサンと少しだけ街を歩く
結婚前のヨメサンに
僕はここで見聞きしたいろんなことを話した
当時のヨメサンは
「そんなにええとこやったんなら、いっぺん連れてってや」
と僕に言ったものだ

はたして、それは叶ったのであった
一時間に一本ぐらいしかないザルツブルグ行きの電車がせわしなく僕らのスケジュールを急かすので
ほとんど回ることはできなかったが

駅の本屋で聞いたところ
僕の通っていた語学学校は音楽学校になり
住んでいた寮は音楽学校の寮として使われているのだという

ひとまわりして見上げると
ホームの屋根から馬鹿でかい観光パネルがぶら下がっている

『GUTE REISE UND
 AUF WIEDERSEHEN 』

――素敵な旅を。
   そして、また逢いましょう。

そう
僕らの旅はもう少し続く
国境を渡り、オーストリアへ


書いてて若干目頭を熱くしながら

To be continued――
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