18940824 NO2408 ドイツ汽船潮州府号を我が国の人が雇い入れる件
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駐韓日本公使館記録 5巻 参. 諸方機密公信往 参 (10) ドイツ汽船潮州府号を我国人が雇い入れの件
文書題目 (10) ドイツ汽船潮州府号を我国人が雇い入れの件
文書番号 機密 第一七二号 本九六
発信日 明治二十七年八月二十四日 ( 1894年 08月 24日 )
発信者 特命全権公使 大鳥圭介
受信者 外務大臣 陸奧宗光
(10) ドイツ汽船潮州府号を我国人が雇い入れの件
機密第一七二号 本九六
在仁川独商世昌洋行ノ取扱ニ係ル汽船潮州府号ハ表面朝鮮政府ノ雇船ノ姿ニテ独逸国旗ヲ掲ケ居候得共其実当国利運社ニ於テ昨年八万円ニテ買入当金五万円ヲ払入即チ同社ノ所有トシ現ニ利運号ト改名シタルモノニシテ惟代価全部未払ノ為メ 船籍ヲ移スコトヲ得ス其ノ発着共世昌洋行ノ取扱ニ属シ居候処先般来同船ハ清国貨客ヲ載セ仁川芝罘天津間ヲ往復シ随テ両国間ノ通信ヲ為ス等此際我軍事上ノ不利益不尠趣ヲ以テ当分ノ内該船ハ勿論利運社現有ノ汽船蒼龍•海龍•顯益ノ参艘共清国各港ヘノ往来差止方ニ関シ仁川出張室田総領事ヨリ縷縷申出候ニ依リ先ツ利運号ノ代価残金ヲ支払ヒ純然当国船トナシ候ヘハ其出入ニ付テハ如何様共可相成ト思考シ右残金払込ノ件並ニ当分ノ内他ノ参艘共停航ノ義其筋エ勧告候処早速我勧告ニ応シ参艘共汽船ハ我軍隊ニ於テ自由ニ使用シ利運号ニ対スル計算ハ仁川監理ニ於テ取調候事ニ相成候然ルニ世昌洋行ハ種種ノ勘定有之結局五六万円ノ高ニ可相成云云申出相談容易ニ纏マリ兼ヌル場合ニ立至リ候ヨリ室田総領事ハ第二ノ手段トシテ在仁川郵船会社支店ニ該船ヲ借入サセ仁釜間ヲ往来セシメ候ヘハ政略上便利ノ点モ可有之且ツ其間ニ当国政府ト世昌洋行トノ談判ヲ纏メシムル方便宜ナラン尤モ他船雇入ニ付テハ本店ノ許可ヲ要スル趣ナレトモ当時電信不通即急ノ間ニ合ハサルヲ以テ本官ヨリ若シ損失トナル時千円已下ノ保償ヲ与フ可キ旨命令ヲ下シ候ヘハ直ニ支店支配人限リ承知スベシトノ趣申出候ニ依リ此際兎ニ角利運号航海ノ自由ヲ我方ニ取ル事必要ト思考シ遂ニ別紙ノ通リ命令ヲ伝ヘシメ同支店支配人ハ世昌洋行ニ対シ彼是談判ノ末一ケ月四千五百円ニテ雇入ノ契約成リ本月十八日釜山ヘ向ケ出帆ノ筈ニ候処十七日ニ至リ在京城独逸領事ハ目下日清両国交戦中ニアルヲ以テ局外国タル独逸汽船ハ交戦国政府保護ノ下ニ立チ現ニ海陸軍ノ御用ヲナシツツアル郵船会社ヘ貸渡ス事能ハストノ理由ヲ以テ世昌洋行ニ解約ヲ命シタルヨリ同行モ不得已トテ郵船会社支店ヘ解約ヲ申入来リ遂ニ破談ト相成候然ルニ該船ハ直ニ芝罘ヘ向ケ出帆ノ模様有之斯クテハ折角ノ計画モ水泡ニ帰シ候処ヨリ猶郵船会社支店支配人ハ世昌洋行ニ対シ再応試談候処同洋行ニ於テモ該船貸渡ノ義ハ素ヨリ希望候所ニテ可相成ハ郵船会社以外ノ一個人ト契約再結ヲ望ミ居ルモノノ如クニ見ユルヲ幸ヒ結局在仁郡金参��ノ名義ヲ以テ更ニ利運号雇入約定ヲ取結フコトニ雙方協議相整ヒ同船ハ本月十九日午后釜山ヘ向ケ出帆致シタル趣ニ候又郵船会社支店支配人ノ意見ニテハ現今商貨ノ運搬殆ント杜絶ノ折柄仁釜間若クハ仁川本邦間ノ航海ニ従事スルトキハ四千五百円ノ雇入料ヲ恢復シ得ルコト頗ル困難ナルノミナラス約定上郵船会社ハ表面ニ現ハレサルヲ以テ荷客ヲ得ルコトモ亦十分自由ナラス従テ万一収支相償ハサルコトアルモ難計ニ付寧ロ本邦ヘ相廻シ内国沿岸ノ運搬ニ使用スル方便益稍多カルベキニ付釜山着ノ上ハ同港支配人共尚ホ協議ヲ遂ケ更ニ方向ヲ一定可致トノ趣ニ有之候
右大要及内申候也
明治二十七年八月二十四日
特命全権公使 大鳥圭介
外務大臣 陸奧宗光 殿
（＊私訳）
(10) ドイツ汽船潮州府号を我国人が雇い入れの件
機密第一七二号 本九六
在仁川・ドイツ商「世昌洋行」の取り扱う汽船・「潮州府号」は表面上は朝鮮政府の雇船の姿でドイツ国旗を掲げておりますが、実際は当国（＊朝鮮国）「利運社」で昨年八万円にて購入、即金五万円を払い込み同社の所有とし、現に「利運号」を改名したもので、ただ代価の全額は未払いのため船籍を移すことができず、その発着共に「世昌洋行」の取り扱いに属しておりましたが、先般来同船は清国貨客を載せ仁川・芝罘・天津間を往復し随って両国間の情報交換をすすめるなど、この際我が軍事上の不利益につながるので、当分の間この船は勿論「利運社」現有の汽船「蒼龍」・「海龍」・「顯益」の三艘とも清国各港への往来を差し止める件について、仁川出張・室田総領事よりこまごまと申し出ましたので、先ず「利運号」の代価残金を支払い純然たる当国船とすればその出入りついてはどうにでもなると考え、この残金払い込みの件、並びに当分の間他の三艘とも停航とする件をその筋へ勧告致しましたところ、早速我が勧告に応じ三艘とも汽船は我が軍隊において自由に使用し「利運号」に対する計算は仁川監理において取り調べることになりました。
ところが「世昌洋行」は種々の代金を要求し結局五、六万円になるなどと申し出て相談は容易に纏まりかねる場合に立ち至りましたので、室田総領事は第二の手段として在仁川「郵船会社支店」にこの船を借入させ仁川・釜山間を往来させましたら政略上便利の点もあるはずで、またその間に当国政府（＊朝鮮政府）と「世昌洋行」との談判をまとめさせるほうが便利であろう。
もっとも他船の雇い入れについては、「郵便会社本店」の許可が必要であるが、当時電信不通で即急の間に会わないので、私からもし損失となる時は千円以下の保証を与えるよう命令を下しますので直ちに支店支配人は承知しておくことと申し出ましたので、この際とにかく「利運号」航海の自由を我が方に取ることが必要と考え、最終的には別紙のとおり命令を伝えさせ、同支店支配人は「世昌洋行」に対しかれこれ談判の末、一ケ月四千五百円で雇い入れる契約が成立し、本月十八日釜山へ向け出帆の予定のところ、十七日になって在京城・ドイツ領事は目下日清両国は交戦中にあることをもって、局外国であるドイツ汽船は交戦国政府の保護のもとに立ち、現に海陸軍の御用をなしつつある「郵船会社」へ貸し渡すことはできないとの理由で「世昌洋行」に解約を命じたので、「同行」もやむを得ないとして「郵船会社支店」へ解約を申し入れて来て遂に破談となりました。
該船は直ちに芝罘へ向けて出帆の様子で、こうなってはせっかくの計画も水泡も帰しましたので、なお「郵船会社支店」支配人は「世昌洋行」に対し再度話し合いを求めたところ、「同洋行」においても該船貸し渡しの件はもとより希望していましたところでなるべくは「郵船会社」以外の一個人と契約再結を望んでいるように見えましたので、結局「在仁川郡・金参��」の名義で引き続き「利運号」雇い入れ約定を取り結ぶことに双方協議が調い、同船は本月十九日午后釜山ヘ向け出帆致下次第です。
また「郵船会社支店」支配人の意見では現在商品の運搬はほとんどなくなっているので、仁川・釜山間、あるいは仁川・本邦間の航海に従事するときは四千五百円の雇い入れ料を取り戻すことは非常に困難であるだけでなく、約定上「郵船会社」は表面に現わさないので、荷客を得ることもまた十分自由ではなく、従って万一収支が償わないこともありうるので、むしろ本邦へ移して内国沿岸の運搬に使用するほうが便益がおおそうであるので釜山到着の後は同港支配人ともなお協議を遂げさらに方向を定めるべきとの考えであります。
以上大要を内申致します。
明治二十七年八月二十四日
特命全権公使 大鳥圭介（＊発信）
外務大臣 陸奧宗光 殿
[別紙]
文書題目 [八月 十五日付 能勢 領事의 日本 郵船株式会社 仁川支店 前 指示書]
日本郵船株式会社仁川支店
利運号ヲ其社ヘ雇入ノ事ニ付テハ目下他ニ必要ノ件アレハ先ツ一ケ月ヲ期シ雇入ヘシ若シ運搬貨物不足等ヨリ其社御損失ヲ被ムリタルトキハ其場合ニ依リ壹千円以内ノ補助ヲ与フル事アルヘシ
右大鳥公使ノ命ヲ伝達ス
明治二十七年八月十五日
領事 能勢辰五��
（＊私訳）
[別紙]
文書題目 [八月 十五日付 能勢領事の日本 郵船株式会社 仁川支店 宛 指示書]
日本郵船株式会社仁川支店
利運号を其社（＊貴社）へ雇い入れる件については目下ほかに必要の件があるので先ず一ケ月を期して雇い入れること。もし運搬貨物不足等により其社御損失を被ったときは一千円以内の補助を与えることがあるだろう。
以上大鳥公使の命令を伝達する。
明治二十七年八月十五日
領事 能勢辰五��（＊発信）
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