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2018年02月08日16:10

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(書評)西部邁「友情」by 宮崎哲弥

宮崎哲弥のラジオ番組で、追悼文に代えて読み上げられた書評。
西部邁の、本当の立ち位置がどこだったのかが、よくわかる。

2018/1/23(火)ザ・ボイス 宮崎哲弥×宮下洋一 「安楽死について考える」「労使トップが会談 春闘が本格的にスタート」など
https://www.youtube.com/watch?v=ywiMOyP6DUE

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友情 西部邁著 思想する人の心の「深み」を映す鏡
[評者]宮崎哲弥(評論家)
[掲載]2005年06月19日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

著者:西部 邁  出版社:新潮社

 この本は亡き友の墓標である。内容は長い墓碑銘と見立ててよい。
 西部邁の社会思想家としての出世作『大衆への反逆』に「不良少年U君」というとても印象的な短文が収められていた。中学時代に知り合ったUとの交友を簡潔に綴(つづ)ったものだ。西部とUは同じ名門高校に進み、「精神的同性愛」の気配が漂うほどの親友になった。だが、どうしようもない運命が二人の生路を分かつ。Uは退学し、極道をひた走っていった。
 「不良少年U君」は委細が捨象されていたため、ロマンティックな友情物語のようにも読める。だが、生の実相はそんな甘やかな感懐など寄せ付けぬほど凄絶(せいぜつ)だったのだ。
 その後、Uこと海野治夫は自死した。焼身か入水かすら、判然としない骸(むくろ)でみつかったという。
 海野は西部の元に、自身の人生を記した手稿を送付していた。西部は、その手記と自らの記憶とを手掛かりに、戦後時代の一断面としてこの生の記録を遺(のこ)そうと発心する。そして二つの暗い炎の光跡が鮮やかに描き出された。
 苛酷(かこく)な貧困があり、差別があった。切なる希望がやがて魂を侵し、むしろ救いのなさこそが心の支えとなる。そんな悲惨な皮肉に満ちていた。
 海野の父はBC級戦犯として処刑された朝鮮人軍属だった。母は苦界に身を沈めた過去を負っていた。彼はアイデンティティの置き処(どころ)を予(あらかじ)め奪われていた。
 この故郷喪失者に注がれる西部の視線はこよなく温かい。メキシコのインディオと白人の混血、メスティーソを引き合いに出し、「出自」なるものに基づく差別分別の愚かしさに憫笑(びんしょう)を与えている。クレオールだの、ポストコロニアルだのといった目新しい思潮が軽佻(けいちょう)にみえるほどの凄(すご)みを込めて。
 保守は、少なくとも西部の唱える保守は、教条の類(たぐい)とは無縁の思想であることを教えてくれる。
 友のための墓銘が、少し角度を変えるとまるで著者の遺書のように映るところがある。だが、まだ早過ぎる。まだ戦いは終わっていない。
 [評者]宮崎哲弥(評論家)

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 新潮社・253ページ・1680円/にしべ・すすむ 39年生まれ。思想家、評論家。元東京大学教授。

http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2011072700809.html

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