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2017年12月23日17:06

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第9番「合唱付き」

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第9番ニ短調作品125「合唱付き」(近衛版)
渡辺洋子(ソプラノ)
長野羊奈子(アルト)
藤沼昭彦(テノール)
栗林義信(バリトン)
二期会合唱団
近衛秀磨指揮
読売日本交響楽団


かんち自身の解説

今回、第九は何を持ってくるかでかなり悩みましたが、マイミクさんの「近衛版が聴きたい!」の一言で決まりました。

ということで、近衛版の第九です。第九は校訂が多くある作品ですが、その中で唯一日本人の名前が付いているのが、この近衛版です。

近衛版の特徴を一言でいえば、マーラー版に近い、その分厚さなんです。なのでアンサンブルも分厚くなります。その分、確かに各楽器の個性がないと言うか、その分厚さの中に埋没する可能性があるんですね。それは宇野功芳氏も指摘していて、軽めの演奏の方が良いと言っています。その点では、この演奏はもっと編成が薄めのまま、分厚いものを弾いてしまったという感がなくはありませんが、変態度もかなりちりばめられています。

是非とも、皆さんのその耳で、近衛版がいかなるものなのか、体験してみて下さい。そのため、以下の解説部分では、両論を併記しておきます。

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近衛秀麿(1898〜1973)は五摂家の筆頭近衛家の次男として東京生まれ、兄は首相の近衛文麿。
ベルリンフィルといくつかの録音を残し、創設まもないNBC響の指揮者陣にも名を連ねていました。戦争中はドイツ占領下のパリで、クラリネットのランスロなど超一流の演奏者を集めたオーケストラ「コンセール・コノエ」を創設するなど、日本人初の国際的な指揮者と言えます。
マーラーの紹介者としても名高く、日本で始めてマーラーを演奏し、交響曲第4番の世界初録音も残しています。

近衛秀麿はどこかのんびりした悠々たる芸風の持ち主で、「おやかた」「フルトメンクラウ」と親しみをこめた愛称で楽員から呼ばれていました。国内では、N響の前身である新交響楽団や東京交響楽団の前身である東宝交響楽団、ABC交響楽団などを創設しています。
近衛秀麿はいくつかの編曲作品を残していて、「越天楽」はストコフスキーの録音もあり、「展覧会の絵」やシューベルトの弦楽五重奏曲のオーケストラ編曲もあります。

近衛がベートーヴェンやモーツァルトなどの作品を演奏する時には、マーラーのようにその都度楽譜に手を加えるのが常でした。それらは近衛版といわれ、「英雄」や「第九」にチューバを加えるなど、かなり過激な編曲となっています。

第九は、幸いにして近衛自身の演奏が録音として残っています。

・読売日本交響楽団、二期会合唱団
S)渡辺洋子     A)長野羊奈子
T)藤沼昭彦     Br)栗林義信
(1968年 9月6 12、13日 東京 厚生年金会館 スタジオ録音)

低音弦楽器のパートにトロンボーンやチューバ、木管楽器にホルンパートを重ねたまるでワーグナーのような厚い響きのロマンティックな演奏でした。
ストコフスキーのようにオーケストラの特性を知り尽くしたよく鳴る演奏で、第1楽章の最大の山場や第4楽章の終盤では、譜面にないチューバからピッコロまでも動員、ワーグナーの楽劇のような壮大音楽を聞かせます。壮麗な第4楽章の二重フーガはなかなかの迫力でした。
第4楽章の最初の部分、第1楽章から第3楽章の主題が次々と否定されていく中、否定の部分のオーケストレーションを段階的に厚くしていく芸の細かさも見せ、第4楽章マーチの部分テノールソロの後のオーケストラのみの部分では、ベースとチェロのパートにチューバを重ね、歓喜の主題が再現する部分の直前にティンパニのクレシェンドを追加しています。中でもゆったりと歌った第3楽章は印象に残りました。

第4楽章始めの、チェロとバスのレチタティーヴにヴィオラを重ねるなど、マーラー版と共通する部分もかなりありますが、マーラー版が部分的には編成を刈り込んで透明な響きを得てオーケストレーションの厚みと強弱のコントラストを明確にしていたのに対して、近衛版の響きは終始厚めのっぺりとした演奏です。

また厚塗りのオーケストレーションが、各楽器の個性をお互いに殺してしまっているのも事実で、ベートーヴェンの厳しさや精神的な深さというものは、あまり伝わってきません。当時の読響の反応も無個性。

同じ近衛版の演奏でも、ほのぼのとしたロマンティックさが曲想とうまく合った「田園」や作曲者にも絶賛されたという壮麗なシベリウスの「交響曲第2番」は名演でしたが、この「第九」は必ずしも成功した例とはいえないようです。

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今月のお買いもの、平成28年9月に購入したものを御紹介しています。今回はディスクユニオン新宿クラシック館にて購入しました、ナクソスから出ている、第九のCDです。

ナクソスからは、幾つかベートーヴェンの第九のCDが出ていますし、また私自身も実際幾つか持っていますが、それでもこのCDを買ったのには、理由があります。それは、近衛秀磨指揮、読売日本交響楽団の演奏だからです。

以前は巨人ファンだった私は、いつしかベイスターズファンになったため、実は読売日響の演奏は、テレビを録画する以外は避けていました。特に読売新聞があまり好きではないもんで・・・・・

読売日響のCDを買うという事は、利益供与に当たりますので、絶対にやるもんか!と決めていたのです。特にここ最近は・・・・・

それでも、近衛氏の指揮となれば、また別になりますし、そもそも、この演奏は実はナクソスからが最初ではありません。他のレーベルで出ていたものをナクソスが買い取ったものです。

ですから、以前よりは利益供与とは言えない状況になりましたし、また、録音されているホールも、今は亡き東京厚生年金会館。そんな点が、このCDを買い求める理由になりました。

以前、知人から近衛氏と読売日響の演奏はいただいたことがありますが、そのステディな演奏は実に感動的なものでした。実直に積み上げていく演奏が、私の心に響いたのでした。

しかし、です。この第九では、基本的には実直な点は変わりないんですが、所々、変態演奏がちりばめられているのです。

それが何処かと言えば、第4楽章です。第1楽章から第3楽章までは、実に実直な演奏ですが、第4楽章に入ると一変。それまで殆どつけていなかったアコーギクもつけていますし、常に私が問題にするvor Gott!の部分はなんと、vor一拍に対し、Gott!は4拍しか伸ばしておらず、殆どアタッカでアラ・マルシアへ突入しています。

その上、練習番号Mの部分は、普通はティンパニがクレッシェンドしないのにさせています。かなり近衛さんがいじっています。

近衛さんと言えば、第九を校訂した人でもあるので、近衛版と言ってもいいのではと思います。ではその変態ぶりが何ともおかしいのかと言えば、これがまた実にぴったりしているんです。

聴いていて、あれ?とは思うものの、実に自然で、活き活きとしており、第九という連帯の音楽を奏する喜びが、随所に現われている演奏です。

合唱団は二期会。ですので力強く美しい演奏になっているのは、さすがプロだけの演奏であろうと思います。ただ、これは決してスタンダードではありません。あくまでも近衛版です。でも、決して不自然でもありません。これはこれでアリ、です。

その後、私はむしろ客演指揮者による読売日響の第九を、それこそ毎年年末の番組で幾度聴いてきたことでしょう。それでも、この近衛さんの指揮は印象に残るものです。じんわりとした感動が後から波のように打ち寄せてきます。

決して今のホールのようには響かない、かつては厚生年金業務の大会も開かれた東京厚生年金会館の大ホールで、喜びに満ちた演奏が奏されたのは、まさに素晴らしい事だったと思います。

どうしてこのCDが中古市場に出たのかわかりませんが、放出した下さったかたには、感謝したいと思います。
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