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2017年12月05日20:05

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デュエル５７

今日はデュエルの続きをアップします。
インセクター羽餓の続きです。

「招かれざる決闘者」　その５７

「あいたたた・・・ここは？」

高い井戸から落ちたにも関わらず羽蛾は僅かな腰の痛みだけで怪我をした様子は無い。目が覚めると井戸の中とは違うまったく別の世界が目に飛び込んで来た。

「森の中？」

そこは鬱蒼と覆い茂る原生林。見たこともないような密林だった。遠くの方から何かが吠える声が聞こえ、太陽の光がまともに届かないのか薄暗い森の中は非情に薄気味悪い。羽蛾は震えながら辺りを見渡した。その時、背丈の高い草がガサガサと動くのが見え、背中に滝のような汗が流れるのを感じた。

「うわ！？」

茂みの中から巨大な蝿のような生き物が飛び出し空中へと消えていった。羽蛾はそれに大層驚き大きく尻もちをついた。生き物が消えていった方向を向いて一人呟く。その声は怖気の混じった震えるような声だ。

「な、何だ今の？虫か？ちょちょっとでかくなかったか・・・」

大きさにしてバレーボールほど。豆粒ほどの大きさしかないはずの蝿がバレーボール大の大きさで飛んでいった。こんなにおぞましいことはない。休む間もなくまた茂みがカサカサと動くのが見えた。羽蛾は涙目になりながらその方向を凝視する。

「こ、今度は何・・・ぎゃああああ！！」

そこから現れたのは大型の猪ほどの大きさはあろうかという巨大なダンゴムシだ。ただ普通のダンゴムシとは違い、その口元には鋭利で残酷なまでの恐ろしい牙が所狭しと並んでいる。明らかに肉食の動物の特徴だ。羽蛾と言う獲物を見つけた巨大ダンゴムシは羽蛾の方へ突進していく。

「く、来るなあ！！」

ダンゴムシらしく体を丸めて転がっていく。その速さは車と同等の速さだ。人の足で逃げ切れるはずがない。羽蛾は咄嗟の判断で枝をつかみ、木の上へと非難した。火事場の馬鹿力と言う奴だ。自分でもよくこの枝によじ登れたと思うほどの力だった。

「はあはあ・・・な、何だあれは！？」

去っていくダンゴムシを見ながら羽蛾は言う。ここは一体どこなのかわからないがこんなところにいたら命がいくつあっても足りはしない。そう思っているとまたおぞましいものが目に飛び込んできた。それは体長３０ｃｍ程もあろうかという巨大蜂。それはすぐ傍の木の穴から出入りしているのが見えた。おそらくあの木の中に巨大な蜂の巣があるのだろう。５ｃｍほどのスズメバチですら死の危険があるのにあんな化け物級の蜂に刺されたら即死に違いない。羽蛾は慌てて木から降りる。すると先程のダンゴムシが羽蛾を探しているのが見えた。

「ひぃ！？ど、どこか隠れなきゃ！！」

羽蛾が駆け出すと気配を察知したのかダンゴムシが追いかけてくる。羽蛾は必死で走った。ここが森の中でなければ、道路のような走りやすい場所なら確実に追いつかれていただろう。木々に隠れながら羽蛾はうまくダンゴムシをやり過ごした。そんな時、森の中に開けた空間が現れそこに古風な日本風の建物が目に飛び込んできた。

「お堂？とにかくあそこに！」

それは寺や神社の本殿のような建物。所々痛んでいる古びたお堂だ。羽蛾が近付くとその異様な光景に一瞬羽蛾の動きが止まる。扉に無数の御札と立ち入り禁止と書かれた立て札が見えたのだ。

「立ち入り禁止？封印？そんなこと言ってる場合か！」

後ろにダンゴムシが迫っている。正直、この中に入るのは憚るがここであれに捕まるよりはマシだと考え羽蛾はお堂の中へと入った。羽蛾を見失ったダンゴムシは諦めたのか森の奥へと消えていった。

「い、行ったか・・・はあ、何なんだよ。」

危険が去ったとわかりホッと胸をなでおろす。助かった、本気でそう思った。だが、妙な視線を感じるのだ。

「はっ！？だ、誰かいる・・・誰だ！？」

視線を感じた先を見ながら羽蛾は叫ぶ。お堂の中は薄暗く、中がどうなっているのかはよく分からない。暗がりから小さな人影がゆらゆらと現れるのが分かった。

「人間か・・・ふふふ。よく来たね。待っていたよ。」
「だ、誰だ！？」

小さな影は明かりのあるところへ来てようやくその姿を視認できる。

「こ、子供・・・？」

そこにいたのは１０歳くらいの小さな女の子。赤い髪と赤い瞳。巫女服に身を包んだ小さな少女だった。一体彼女は何者だ？羽蛾の頭は混乱していた。そんな羽蛾に少女は言う。

「君、虫使いだよね？君のオーラがそう言ってる。」
「オーラ？」

何を言っているのか分からない。だけど虫使いと言われて自分は確かに虫を使うデュエリストだ。彼女の言うことは間違いではない。そう思った羽蛾は偉そうにふんぞり返って言った。自分より年下の女の子を前に無様な姿は見せられないと言うつまらない見栄だ。

「ああ、そうだ！僕はかつてデュエルで日本チャンピオンにもなったインセクター羽蛾だ！」
「デュエルチャンピオン？うん、よく分からないけど、君の虫は強いのかい？」
「当たり前だ！僕のインセクトデッキは無敵だ！」

羽蛾がデュエルディスクを少女に見せつける。不思議そうに少女はそれを見つめていた。デュエルディスクを知らない様子だ。デュエルも知らないなんてどこの田舎者だと羽蛾は思った。少女は羽蛾のところまで近付いていき、デュエルディスクに手をかざす。

「ちょっとごめんね。」
「な、何を！？」

少女の白魚のような真っ白な手から淡い光が出る。これに羽蛾はとても驚いた。目の前にいる少女は普通じゃない。彼女は一体何者なんだ。そんな考えが頭をよぎるが答えが出るはずもない。

「これは・・・そうか。そうだったのか！久しぶりに獲物がかかったと思ったけど、とんだ大物を手に入れたよ！」

少女は突如嬉々とした表情で笑い始めた。いや狂ったような笑いだ。その姿からは恐ろしさが滲み出ている。羽蛾は恐怖に体が震えた。

「何を言って・・・」
「君・・・あの生意気なナンバー５１０９の世界から来たね。」
「５１０９？何を言ってるんだ？」

聞いたことのない単語だった。彼女が何を言っているのか分からない。

「デュエルの世界。隔離された孤独な世界のはずなのに主様の寵愛を受けた憎たらしい世界！僕なんて頑張ってきたのにこんなゴミ箱に捨てられたって言うのに！！」

少女は怒り狂う。その凄まじさに建物が震えた。いや地面自体が震えるような衝撃だ。当然、羽蛾は恐ろしくて座り込んでしまった。自らの失態に気付いたのか少女は可愛らしく笑うと言った。

「おっと、ごめんね。ちょっと取り乱しちゃった。ねえ、君。僕と勝負しようよ。」
「勝負？」
「僕の名前は未子。シリアルナンバー１２。君と同じ蟲を使うものだよ。」
「何？君みたいな女の子が虫使いだって？」
「そう！破壊と殺戮を目的に創り出した僕の最高の蟲達！君の虫とどっちが強いかかけてみない？」
「ぼ、僕とデュエルしようって言うのか！？」
「うん、君の記憶からデュエルってものはしっかり把握したからね。」
「記憶・・・？そうか、さっきの光。まさか外の変な虫たちは？」

彼女は羽蛾の記憶を探査していたのだ。その記憶から彼女はデュエルと言う決闘法を身に着けたのだ。

「そうだよ。僕が従えている愛すべき蟲達。まあ、警護用だから大した力は無いけどね。」

そう語りながら未子は手を上に伸ばし、その手の中に不思議な光を集めていく。

「僕のしもべ達、カードに集え！！」

淡い光が徐々に輝度を増していき眩い光に代わる。光が収まると彼女の右手には４０枚のカード。左手には昆虫の外骨格のような形をした怪しい反射光を放つ黒光りしたデュエルディスクが装備されていた。それらを見つめて未子は物珍しそうに笑う。

「へえ、これがデュエルディスクか。さあ、遊ぼうよ。」
「ぼ、僕が日本チャンピオンだって分かって言ってるのか！？」
「そうだよ。大丈夫。ただ遊びたいだけだから。付き合ってくれるお礼もちゃんとするよ。君は大事な客人だからね。ククク・・・」

未子が浮かべる笑みは無邪気なもののはずなのに奥の方に邪悪な気配を感じずにはいられない。だが、デュエルと言われてデュエリストとして逃げるわけにはいかなかった。

「そ、そうか・・・ならデュエルだ！」
「デュエル！！」

羽蛾　ｖｓ　未子１２号

「僕の先攻！ドロー！」

羽蛾　手札×６　LP　４０００

「僕の最高のインセクトモンスターを拝ませてやる！」

目の前の未子はどんなデッキを使ってくるかわからない。ここは自分の全力で行かなければいけないと本能が警告する。

「フィールド魔法『森』を発動！」

フィールドは鬱蒼と覆い茂る森に変化する。ここでは昆虫族・獣族・獣戦士族と言ったモンスターがその攻撃力・守備力を３０％アップさせる特殊フィールドだ。羽蛾のモンスターはすべて昆虫族で占められており、この森の中では圧倒的に羽餓が有利になる。

「これでフィールドパワーソースによって昆虫族のモンスターの攻撃力は３０％アップする！昆虫人間（ベーシック・インセクト）を召喚！」

昆虫人間　攻撃力　５００　★２　通常召喚

羽蛾のフィールドに巨大なバッタのようなモンスターが現れる。攻撃５００と言うとてもひ弱なモンスターだ。だが、この昆虫人間はこれ自身には何の能力も無いがある装備魔法を装備すると劇的な進化を遂げる。

「レーザー砲機甲鎧（キャノンアーマー）を装備！攻撃力１５００アップ！森の効果で攻撃力はさらにアップする！」

レーザー砲機甲鎧。名前だけ見れば機械族専用装備だが、これは昆虫族専用の装備カード。普通は攻撃力を３００ポイントアップするところだが、昆虫人間がこれを装備すると攻撃力は一気に１５００ポイントアップする。森の効果は合計攻撃力に３０％が加算されるので昆虫人間の攻撃力は一気に２６００まで跳ね上がる。

昆虫人間　攻撃力５００→２０００→２６００

「ヒョヒョヒョ！！どうだ！僕のインセクトモンスターは！！」
「へぇ。なかなか強そうじゃん。」
「カードを１枚伏せてターンエンド！」

強力なモンスターを従えて、さらにはミラーフォースを仕掛けておくという抜かりの無い戦術だ。一般のデュエリストだったらまずこの陣営を崩すことはできない。

羽蛾　手札×２　場　モンスター×１　魔法×１　伏せ×１

「さて、僕のターンだね。」

未子１２号　手札×６　LP４０００

羽蛾のモンスターを見て強そうとは言ったものの未子はあからさまに大きなため息をつく。

「はあ。虫使いって言うから期待してたんだけどね。まあ、人間如きなら所詮こんなものか。」
「な、何だって！？」

羽蛾の背中に冷たい汗が流れる。攻撃力２６００だぞ。遊戯のブラック・マジシャンだって攻撃力は２５００だ。それを倒す手段なんてそうそうありはしない。羽蛾はそう思っていた。羽蛾の生きる時代では魔法除去の手段も限られており強力なモンスターもいない。２６００の攻撃力はかなりの強敵だ。それなのに未子の態度からは失望の感情しかない。

「この程度でいちいち本気を出すまでもないね。じゃあ僕は殺戮の芋虫（キャタピラー）を召喚するよ。」
「い、芋虫！？そんなひ弱な・・・」

フィールドに巨大な緑色の芋虫が現れる。それを見た羽蛾は拍子抜けした。どんな強力なモンスターかと警戒していたのに出てきたのはただの芋虫だ。芋虫はただ単に喰われるだけの絶対的な弱者だ。そう思っていた。だが、デュエルディスクに表示されたキャタピラーの攻撃力に羽蛾は驚愕した。

殺戮の芋虫　攻撃力　１９００　★４　通常召喚

「攻撃力１９００！？」

ありえない。羽蛾の見開いた目がそう物語っている。

「だ、だけど僕のモンスターの方が攻撃力は上。３０％アップしたところで・・・」
「知ってる？芋虫はね。どんな環境にも適応できるんだよ。」
「へ？」

羽蛾の言葉を遮り未子が話しかけてくる。思わず素っ頓狂な声を出してしまった。芋虫はどんな環境でも適応できる。その意味が羽蛾にはわからない。するとやはり未子は呆れたように言った。

「え？知らないの？それでよく虫使いって言えるね。」
「うるさい！それとデュエルと何の関係があるんだ！？」

羽蛾は虫デッキを使うが虫の専門家ではない。実在の虫達の生態など詳しく知りはしない。この未子は虫達の生態に精通しているようだ。虫の生態とデュエルとの関係はほぼ無いと言って良い。それでも未子がこの話をするのは彼女の蟲がその生態にそって作られたカードだと言わしめるためだ。

「芋虫はその単純な体の構造からあらゆる環境に適応し生き抜くことができる。そしてこの殺戮の芋虫はその芋虫の最高進化系。つまり、フィールド魔法が存在する時、その攻撃力、守備力、レベルは倍になるんだ。」
「はぁ！？」

キャタピラーは森の中でその姿を変える。体中に木の枝のようなものを生やしそれぞれの枝には無数の葉っぱがついている。だが、それをよく見るとそれは葉っぱではなく葉っぱの形をした鋭利な刃だ。森に存在するキャタピラーは葉っぱに擬態した自らの刃物で獲物を切り刻みその肉を食らう獰猛な肉食獣なのだ。その圧倒的な攻撃力は普通の虫の追従を許さない。

殺戮の芋虫　攻撃力　１９００→３８００　★４→★８

「こ、攻撃力・・・さ、３８００！？」

攻撃力３８００。それは羽餓が持つ最強モンスター究極完全体グレート・モスを上回る。それが何の生贄もコストも無しに現れる。そんな恐ろしいことがあり得るはずがない。これが未子の従える蟲の力だ。

「まあ、一撃で終わらせてつまんないしね。取り敢えず芋虫で昆虫人間を攻撃しておくよ。死の森の斬撃（スラッシュ・オブ・デス・フォレスト）！！」

キャタピラーは擬態した無数の葉っぱの刃を昆虫人間に投げつける。

「ヒョヒョヒョ！そんな攻撃が通るか！罠カード聖なるバリア－ミラーフォース－！！」

羽蛾の前に透明なバリアが形成される。これで攻撃をしたモンスターはすべて破壊されるはずだった。

「無駄だよ。」

未子がそう呟くとキャタピラーの葉っぱの刃は羽蛾の思惑を無視してバリアを破ってなお勢いを殺すことなく昆虫人間に向かっていく。

「バリアが砕けた！？」
「フィールド魔法が存在する限り、芋虫はあらゆる効果を受けないんだ。」
「そ、そんな・・・うわあああ！！！」

恐るべきはキャタピラーの完全耐性。あらゆる毒物を体内で浄化する能力を持つ芋虫の最高進化系が得た力は魔法・罠・モンスター効果を受けないと言う反則的な完全耐性だった。これで攻撃力３８００もあるのだから化け物としか言いようがない。キャタピラーの刃は昆虫人間を捕らえ、まるで豆腐でも切るような簡単な衝撃で昆虫人間の体は八つ裂きになり消えた。その衝撃は後方にいる羽蛾を吹き飛ばす勢いだった。

殺戮の芋虫　攻撃力　３８００　攻撃
聖なるバリア－ミラーフォース－　無効
昆虫人間　攻撃力　２６００　戦闘破壊　戦闘ダメージ１２００
羽蛾　LP４０００→２８００

「あ、ああ・・・」

最高の一手の投じたはずなのにこの結果。羽餓は恐怖で体が震えていた。

「あれ？もしかして戦意喪失しちゃった。あーあ。何かつまんないね。僕はこのままターンエンドだよ。」

未子１２号　手札×５　LP４０００

「ぼ、僕のターン。」

羽蛾はデュエリストとして諦めることなくほぼ気力だけでカードを引く。たった１枚のカードが奇跡を呼ぶと信じて。

羽蛾　手札×３　LP２８００

「このカード、ヒョヒョヒョ！そんな芋虫なんか怖くないぞ！」

ドローカードを見た羽餓は自身を取り戻し、いつもの嫌らしい笑いを浮かべていた。そんな羽蛾の姿が嬉しいのか楽しそうに未子は聞いた。

「へえ、どうするの？」
「速攻魔法サイクロン！森を破壊する！」

羽蛾が引いたカードはフィールド上の魔法・罠カードを１枚破壊するサイクロンだ。この状況下で破壊するべきカードはたったの１枚。羽餓自身が発動したフィールド魔法だ。

「フィールド魔法が無くなれば芋虫の強化も解除される！」
「そうだね。すごいすごい！」

未子の話を聞く限りキャタピラーのあり得ないほどの強化、完全耐性はフィールドに適応することによって得られる効果。それはつまりフィールド魔法さえ無ければ怖くない効果だ。羽蛾の思惑通り森を失ったキャタピラーは無数の枝が無くなり元の姿に戻っていた。

殺戮の芋虫　攻撃力３８００→１９００

「魔法カード死者蘇生！昆虫人間を蘇生召喚！」

墓地からモンスターを復活させる死者蘇生の魔法で昆虫人間を復活させる。そして羽餓が持つ自慢の★６の虫を召喚する条件が揃った。

「昆虫人間を生贄にセイバー・ビートルを召喚！」

セイバー・ビートル　攻撃力２４００　★６

現れたのは巨大なクワガタのようなカブトムシだ。この虫は守備モンスターに貫通ダメージを与える能力を持っている。羽蛾の中ではグレート・モス、インセクト女王に次ぐ強力モンスターだ。

「ヒョヒョヒョ！セイバー・ビートルで殺戮の芋虫を攻撃だ！」

セイバー・ビートルがキャタピラーに突進していく。だが、セイバー・ビートルの前に不気味な黒い蝶々が飛んでいるのに気づき羽蛾は再び目を見開く。また見たことのない蟲だ。

「な、何だ！？蝶々？」

無数の黒い蝶がセイバー・ビートルの周りを飛ぶ。鱗粉でも飛ばしているのか淡い光の粒が周りに攪乱している。心なしかセイバー・ビートルの動きが鈍っていく。

「殺戮の黒死蝶。手札から墓地へ送ることで相手モンスターの攻撃力を０にするんだ。」
「何だって！？」

黒死蝶の毒鱗粉によってセイバー・ビートルの勢いは完全に失われてしまう。それでも攻撃を止められない。意識までもが汚染され攻撃せざるを得ないのだ。手札から発動するこの罠は羽蛾にとっては初めて見る光景で驚きを隠せない。

殺戮の黒死蝶（こくしちょう）
聖妖蟲族　闇属性　★２
①相手のバトルフェイズ時、手札のこのカードを墓地へ捨てることで発動する。相手モンスター１体の攻撃力・守備力は０になる。この効果を受けたモンスターは必ず攻撃しなければならない。②墓地にあるこのカードを除外して発動できる。デッキから聖妖蟲族モンスター１体を除外する。
攻撃力　３００　守備力　３００

殺戮の黒死蝶　手札から効果発動
セイバー・ビートル　攻撃力２４００→０

「そのモンスターを失ったらもう詰みだね。ならこれで終わりにしようか。殺戮の狂蚤、死と引き換えに芋虫に絶対なる力を」

殺戮の狂蚤（きょうそう）
聖妖蟲族　闇属性　★２
①ダメージ計算時、手札からこのカードを捨てて発動する。その自分のモンスターの攻撃力は倍になる。この効果を受けたモンスターはターン終了時に破壊される。②墓地にあるこのカードを除外して発動する。デッキからレベル４以下の聖妖蟲族モンスター１体を手札に加える。
攻撃力　０　守備力　０

続いて現れたのは小さな蚤（ノミ）だ。小さいと言っても実際の蚤が米粒より小さいことを考えると鶏卵ほどの大きさがあるその蚤は圧倒的にデカい。この蚤に吸血された動物は狂乱状態となり攻撃性が爆発的に強くなり圧倒的な力を発揮する。だが、その反動としてしばらくすると肉体が限界を迎えて死を迎える。恐るべき寄生蟲だ。言わば速攻魔法リミッター解除のような効果を持つ蟲だ。これでキャタピラーの攻撃力はまた倍になる。ちなみにキャタピラーは破壊された時に別の蟲を呼ぶ効果を持っているのでこの蚤との相性は抜群に良い。狂蚤の力を得たキャタピラーは完全に力を失ったセイバー・ビートルに返り討ちと言わんばかりに鋭い角をその体に突き刺した。セイバー・ビートルは粉砕し、その衝撃で羽餓は崩れ落ちる。

「ぎゃああああ！！！」

殺戮の狂蚤　手札から効果発動
殺戮の芋虫　攻撃力１９００→３８００
セイバー・ビートル　攻撃力０　攻撃　戦闘ダメージ３８００
羽蛾　LP２８００→０

勝者　未子１２号

一方的なデュエルが終わり未子が羽蛾に歩み寄る。

「僕の勝ちだね、さてと・・・それじゃ、君の体を僕にくれないかな？」
「ひぃ！！？お、おた、お助け！！」
「うふふ・・・怯えなくて良いよ。悪い話じゃない。僕には実体が無いし、この封印所から出られない。君は生身の体、ここから抜け出してどこへでも行ける。君の体を僕の器に使わせてもらう。その代わり、僕の力を君は好きに行使して良い。お互い、憎い相手がいるようだし、共闘と行こうじゃないか。僕の憎い奴を懲らしめに行かせておくれ。君の憎い奴を僕の力で殺してやるからさあ。」

未子の申し出、羽蛾には悪い話には思えなかった。悪魔の囁きかもしれない。けれどこの圧倒的な未子の力があれば今まで自分を馬鹿にしてきた奴に復讐できるかもしれない。その申し出を羽蛾は受け入れることにした。

「ああ・・・分かった。僕の体を君に捧げるよ。」
「商談成立、よろしくね羽蛾君。僕のことは１２号って呼んでくれるかな。他の馬鹿な未子たちとは一緒にされたくないんでね。」
「ああ、よろしく。１２号。」

そう言うと未子12号は羽蛾の体内へと入っていった。羽蛾は知らなかった。この未子12号が封印されている理由も世界中に散らばる未子たちの中でこの12号だけは欠番の12号と言われ忌み嫌われていることも。羽蛾は触れては行けないパンドラの箱を開けてしまったのだった。

・・・・・

今日はここまで。黒幕は未子ちゃんでした。
世界中にいる未子の中で珠魔によって廃棄処分された未子です。
捨てられた未子が寵愛を受ける未子に嫉妬して暴れている感じです。
次は羽餓が未子の力を得て復讐を始める予定です。
とある人物の要望で羽餓が１ターンで負けた相手を潰す予定でいます。
次にその友人が来るのは２３日予定なのでそれまでに仕上げます。
ここまで読んでくれてありがとうございます。またよろしくお願いします！

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