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2017年11月30日00:44

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三味線とサムライと魂の物語「クボ 二本の弦の秘密」を観た!

 チラシのキービジュアルから気になっていた本作。海外のコマ撮り人形アニメで、日本を意識したビジュアルとストーリー。これでイマイチだったらKBTIT先生の画像でも貼ってお茶を濁そうかと思いましたが、予想以上に良作だったので真面目にレビューします。

●クボ 二本の弦の秘密


【あらすじ】

 村はずれの崖で母と洞窟で暮らす少年クボ。彼は「三味線を弾くと折り紙を操れる」という不思議な力を使い、村に降りては大道芸を披露し、母の言いつけを守り夜がくる前に洞窟へと戻る。一方で母親は心に傷を負い、日頃は放心状態で過ごすもクボに昔話を語る時だけは生き生きとしていた。母の昔話をクボは英雄譚として村で語る。そんな平和な日々を送っていた。

 しかし平和な日々は長くは続かなかった。村で灯篭流しを行っていた日、父に会いたい一心で待ち続けたクボは夜を迎えてしまった。突如現れた不気味な仮面の姉妹に襲われ、村は壊滅し、クボを助けるべく母も命を落としてしまう。

 全てを失ったクボに残されたのは、母が最期の力で命を宿した猿のお守りと、母から語り継がれた数々の英雄譚、愛用の三味線と折り紙だった。闇の刺客に対抗すべく「3つの武具」を追い求め、クボの冒険が始まる。


【日本と昔話を意識した神秘の世界】

 製作は海外だがビジュアルやらストーリーは日本を意識したもの。かといって実際の日本をテーマにしたのではなく、日本っぽい世界での和風ファンタジーが本作だ。この手のはどうしても中国のイメージが混ざってしまうし、外国人が日本に抱く幻想を表現するからコレジャパンジャナイではあるのだが、本作に限って言えばバタ臭さよりも日本に対するリスペクトが勝っており、見ていて嫌味を感じない。

 サムライ・刀といった固有名詞も力の象徴として語られ、劇中で行われる灯篭流しも意味をちゃんとわかってやっている。敵が月の世界から来たという一連の設定も『竹取物語』をほうふつとさせ、敵に打ち勝つ為の三種の武具は、三種の神器に通ずるものがある。日本のキーアイテムを拾いつつ、うまいことビジュアル化させた感じだろうか。まさに日本人ではうまく表現できない、外国から見た「神秘の国日本」が堪能できる。


【脅威のコマ撮りで描かれる実体感のあるアニメーション】

 人形をコマ撮りしたアニメとは聞いていたが、いざ本編を見ると「ほんとにコマ撮り?」と思うぐらいキャラクターが滑らかに動きまくる。それは人物にとどまらず、大型の怪物やオブジェクトにまでわたり、どこかしらでCGも使っているとは思うのだが、全編んを見て動きのぎこちなさや違和感は一切感じさせなかった。たとえるならピングーの100倍は滑らかに動いてる感じだろうか。ぎこちなくないピングーと言えばどれだけ驚愕の技術か伝わるだろうか(ピングーも好きですがホントに例えとして)。EDでちょっとだけメイキング映像が出てくるのだが、正直それを見るまでコマ撮りというのを完全に忘れていた。

 キャラクターの細かい表情の変化も見物だが、本作の売りは激しくも流麗な戦闘シーンだ。人形とも思えない体捌きや素早い身のこなし、また重厚感のある斬撃などから目が離せない。姉妹の武器が鎖鎌で、対するこちらの攻撃手段が刀というのも非常に熱い。宮本武蔵も手を焼いた鎖鎌をいかに攻略するか、バトルマニアも必見だ。


【親から子へ、子から誰かへと紡がれる物語】

 クボの旅路を支えるのは、ちょっと口うるさいがクボの身を案じる実体化した猿のお守りと、洞窟で出会った陽気で虫の恰好をしたサムライだ。二人を助けを借りながら「3つの武具」を探し求めるクボは、まるで自分が村で語ってきたかのような大冒険を繰り広げる。その中でクボは心身ともに成長し、気弱な少年から一介の戦士として覚醒していく。

 本作でキーワードとなるのは「物語」だ。クボが語る英雄譚ももちろんだが、本作は途中からこの「物語」という単語が強調されていく。自身の生き様を物語としてたとえ、それを全うする事を説く。出会いと別れ、人の生き死に、そのすべてが「物語」と形容される。クボが語ってきた物語も、元を辿れば過去に起きた現実の出来事であり、クボが辿った冒険もやがて物語として語られていく。数々の犠牲があっても、物語そのものは消えないというのが本作のメッセージである。

 自分はこういう言い回しに弱いので自然と涙を浮かべてしまったが、ここまで感傷的な物語を描けた時点で、本作がガワだけの和風ファンタジーじゃなく内面的にも日本人の精神に寄り添った作品になれたのだと思った。そらジブリの鈴木さんもべた褒めするよ。

 また、ネタバレなので詳しくは言えないが、賛否のわかれそうなオチも個人的にはアリで、ここで二度目の涙を流した。ラストバトルまでの経緯も完璧だし、ほんと最高。


【まとめ】

 細かいところで気にならない点がなくはないのだが(過去話の掘り下げ、クボが片目の意味、もっと見たかった三味線の演奏シーンなど)、総じて見れば王道を行くファンタジー。ビジュアルこそ子供向けだがハードでシリアスなストーリーは大人でも見ごたえがあり、また全体的にダークでホラーな雰囲気は子供を引き付ける魅力も感じる(子供は怖いもの見たさがある)。親と子の物語という点では家族で考えさせられるテーマでもある。

 なお、自分は字幕で観に行ったのだが、吹き替え版は日本語限定のED曲があるとの事で、そちらも見てみたいと思った次第。とりあえず2周目は確定。

 こんだけべた褒めしてるので、ここまで読んでくれたら信じて映画館行ってください。名作を大スクリーンで見るチャンスは今だけなのだから。
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