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2017年10月29日12:32

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バットシェバ舞踊団 オハッド・ナハリン 『Last Workーラスト・ワーク』

バットシェバ舞踊団 オハッド・ナハリン 『Last Workーラスト・ワーク』

2017/10/28土 15:00-
2017/10/29日 15:00-
さいたま芸術劇場

Lighting design by Avi Yona Bueno (Bambi)
Soundtrack design and edit by Maxim Waratt
Original music by Grischa Lichtenberger
Stage design by Zohar Shoef
Costume design by Eri Nakamura

ADDITIONAL MUSIC
“Few Mysteries Solved in a Year of Contact” by Sagat
“Club Life” by Hysterics
“Crusty Juice” by MPIA3
“Volume VIP” by Monkey
“Tantrum” by Luminox
"Nani, Nani, Mummies" by Baby-Lullabies-of-Europe
"Nani, Nani, My Sweet Little Baby" by Baby-Lullabies-of-Europe
"Berceuse (Stravinsky)" by Clara Rockmore

2年ぶりに来日したイスラエルのダンスカンパニー、バットシェバ舞踊団の公演を2日続けて観に行ってきました。著名な振付家で芸監でもあるオハッド・ナハリンは来年芸監を引退することになっており、彼が芸監としては最後の来日ということになります。

休憩なし、1時間強。短いのに、強烈な印象の作品。

初日は、途中でダンサーの余りのパワーにわけもなく涙が出てきちゃって、そして最後の方で、自分が今この閉塞的な世界に対して感じている不安が目の前に形として現れたような気がして、涙が止まらなくなりました。2日目も、分かってるのに最後でやっぱり涙が。

明確なストーリーや解釈が定まっている作品ではないと思います。受け手が自由に解釈していい、そして受け手のバックグラウンドによって解釈が変わる作品。ただ、一度観ただけではとても咀嚼しきれない、と思いました。

音楽は、効果音と、強いビートを持つポピュラー音楽のようなもの、そして民族的な響きを持つもの、の組み合わせ(よくご存知の方いらっしゃったら教えてください)。私はダンスやバレエを観ていても音楽に影響されやすいタイプなのですが、この作品に限っては私にとって音は添え物だった。でも、西洋でも東洋でもない中東や中央アジア的な雰囲気の音楽には、もの悲しさは想起させられました。

作品は、大きくいくつかのパートに分かれているように見えました。最初は、ブルー〜臙脂系のランニングorタンクトップに短パンという衣装のパート。その次、女性は白い衣装、男性は聖職者みたいな黒い長いローブ状のものをまとう部分。そして全員白いアンダーウェアのような衣装になり、白いマスクをつけてのっぺらぼうになる部分。さらに、マスクをとって顔を出して白い衣装で踊る部分。そして最後、舞台後方に白旗を振る人、音の鳴る楽器をぐるぐる回す人、銃を持った人、そしてマイクにガムテープを巻き付ける人、が出てくる。マイクが巻き付けられたガムテープは言論の自由がなくなることを暗喩しているのかな。そのガムテープは、そのあと、ダンサー全員の体に巻き付けられ、ガムテープの網に囚われたダンサー達が座り込んでうっうっと泣くような振付になって、暗転、幕。

最初はダンスもソロだったり、一人一人違う動きだったりするのですが、進むにつれて、2〜3人で踊るようになり、最後は集団であるテーマに合わせて踊ったり、ユニゾンのシーンが増えていきます。この構造は意図的だと思う。この作品ではユニゾンは、物凄いパワーがあるけれどもポジティブな陶酔感を与えるものではなく、むしろ集団の狂気とか圧力とかを感じさせる、何らか怖さのあるもののように感じました。また、最初はヨーロッパの古い子守歌が出てきたりゆっくりした現代音楽だったりしてちょっと催眠術にかかった世界のようなゆったりした雰囲気ですが、後半の集団やユニゾンが多くなるところはビートの効いた音楽で銃や叫び声などの耳障りな音も加わり、一気にテンションと危機感・不安感が上がって一気に結末へ持っていく感じ。

舞台最初から最後までずーっと舞台の下手後方ではランニングマシーンで走っている人がいます。2日とも青い長いワンピースの女性でした(女性は日替わりだった)。この人は、前方でダンサー達がどんなことをしていようと曲が変わろうと一向に影響されず、淡々と同じ場所でリズムを刻み続ける。私はずっと、この人は、ある特定の地域で何か大変なことが起きていても他人ごとを決め込む第三者的な存在を皮肉ったものかと思っていたけど、最後にこの女性もガムテープでつながれて、しかも大きな白旗を持つシーンであれっと思いました。その姿を見てドラクロワの「民衆を導く自由の女神」を思い浮かべちゃったんだけど(ネットを見ててもそういう感想は多かった)、さい芸のトレーラーを見る限りはこの役は男性がやる場合もあるみたいだし、逆に、民衆をガムテープの網で支配する人なのかしら。でも白旗だし・・・?

と、涙しながらも頭の中でぐるぐるいろんな想いがうずまく終演後でした。ダンサーはこの作品では、表情で感情表現することはほとんどなく、むしろほとんどずっと無表情といっていい感じです。声を出すシーンもほとんどなく、メッセージは純粋に体の動きで伝えられる。だからこそ、観ている側も必死で感じよう、考えようという気にさせられるところもありました。

動き自体もオリジナリティに溢れているし、いやー、オハッド・ナハリン、本当に天才だわ・・・。

ちなみに、さい芸のサイト(http://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/4012)にトレイラーも載ってます。

バットシェバの公演を観るのはこれが3回目です。最初は2012年でSadeh21、これは、ダンサーは凄いな!と思ったけど作品にはそれほど感銘を受けなかった。あ、最後の飛び降りるシーンの痛みのメッセージ性には打たれましたが。次は2016年でDECADANCE、これは純粋にショーとして素晴らしくて本当に楽しかった。そして今回のLAST WORK、一番深く心に刺さって感銘を受けました。

自分の備忘録として、過去にバットシェバを観たときの感想へのリンクを。
http://kikoworld.blog.fc2.com/blog-entry-106.html
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