わが青春を過ごした源が橋商店街は別名「生野銀座」と呼ばれていて、歳末ともなるとジングルベルやら、福引の鐘の音があたり憚らず鳴り響くという、非常に結構な教育環境でした。
またモノの値段も他にはないぐらい安く、焼き芋が５０円も出せば５人で腹いっぱい、たこやきが一個５円、イカ焼きが一枚１０円、水っぽいアイスモナカが１０円という嬉しさでした。
３時間目に早弁をして昼時になると既に空腹を覚えるという、まことに祝福すべき食欲を持ち合わせていた僕たちには、安いけれども「腹を満たせばそれいいんだろう」というポリシーむき出しの学食に比べて、この値段でこの美味はまさに地獄に仏でした。
もちろん、放課後までは校外に出ることはご法度でしたが、そんなこと１６〜１７の血気盛んな若者には何の効力もありません。
冬などには一個２円のコロッケを希望者を募って拠金し、じゃんけんで負けたものが代表して買い出しに行くシステムでしたので、毎日誰かがその任務を果たしていました。
ある日、運悪く僕がその当番に当たり、金を集め塀を乗り越えてジングルベルの鳴り響く商店街に買い出しに行ったと思し召せ。
無事、紙袋に（まだあの頃はポリ袋がなかったんだよ）揚げたてホカホカのコロッケを大量に入れて、やっこらせとばかり塀を乗り越えたところ、そこにいたのは生活指導担当教師。
「最近、塀を乗り越えて外をうろつく輩がいると聞いていたが、キミか」と尋問。
「いえ、僕じゃありません。空腹に耐えて勉強する友人たちを見かねて僕が代表してコロッケを買い出しに行ってただ今帰還したところです。先生にも一個差し上げます。どうぞ」
と差し出したコロッケをちらりと見た教師、「いらん、これからみっともない真似をするんじゃない！」と一喝。
ついでに「冷めないうちに早く届けてやれ」と無罪放免。
昭和３０年代の高校はまだこんな温情が生きていたところでした。
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